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第3話 戦争

列車が駅に到着したとき――


お父様は駅の職員や関係者たちと面会するために構内へ入っていった。


私は駅の構内をぶらぶらと歩き回っていた。


この駅の名前は「第4辺境駅」。

ここから中央駅、つまりチェリー家の領地まではおよそ3時間。そう遠くはない。


エメリーはトイレへ行っていた。


やがてお父様が戻ってきたが、表情は冴えない。


「……戦争が宣言されたそうだ」


「えっ、なんですって!」


「どこの王国が仕掛けてきたの?」


「グランド王国です。ヴェンド国とスカ連邦が後ろ盾についているとのこと」


「やっぱり……ヴェンドとスカ、ここ数年妙に静かだったわよね」


「で、線路の件は?」


「現時点で走行経路を調査した結果、戦争とは無関係と判断されました」


「詳細な調査は後回しにして。今すぐ線路の確保と列車の準備を」


「承知しました!」


私は父のもとへ歩み寄った。


「領地へ向かう準備を。父は各王国との協議に行かないといけない」


列車に乗り込むと、以前よりもスピードが上がったようだった。


「お茶です、お嬢様」



グランド王国は、北方連合諸国と長らく敵対していた。

最後の大戦争は、今から20年前。


その戦いに勝者はいなかった。敗者もいなかった。

――なぜなら、チェリー家という存在があったから。


200年前、チェリー家はある王国に仕える貴族にすぎなかった。

戦と商いに秀でたその王国において、チェリー家は当時の領主の発案で「鉄道」という概念を生み出した。


地上を貫く長いレール、その上を走る機関車。

その開発と敷設には数十年を要したが、やがてチェリー家の商いは世界中に広がり、

王国を超えるほどの資産を築き上げた。


そして――150年前、戦争が起きた。

グランド王国と北方連合諸国との大戦争。


北方連合とは、小さな複数の王国が連携した勢力。

一方のグランド王国は、長い歴史を持つ王家を中心とした巨大国家であり、

複数の国や連邦、諸侯国を味方につけていた。


北方連合もまた、多くの知識国家や賢者の国々を味方につけ、対抗勢力を築いていた。


そして、それ以外の王国たちは――ただ静観していた。


戦争は始まり、双方に大きな被害をもたらした。

最初のうちは、いわば「通常の戦争」だった。


だが、やがて事態は変わる。

戦火が中立国へと飛び火したのだ。


小さな王国が「流れ弾」のような形で巻き込まれ、

独力では再建も不可能なほどの被害を受けた。


壊滅寸前となったその王国の王族たちは、避難を決意。

そして逃げ延びた先が――「栄光の国」アレスクラザスだった。


アレスクラザスは、チェリー家が分離独立する前に属していた国家でもある。


アレスクラザスは気づいた。

戦う両勢力は、もはや資源も尽き果て、

一方が「第三勢力の陰謀」を口実に戦を拡大しようとしていたのだ。


その「陰謀」とは――

エルシア王国がヴェンド国とスカ連邦と手を組み、

第三勢力として戦争に介入しようとしている、という偽情報。


この誤情報により、敵側は恐れからエルシアに対して戦線を広げ、

謀略を企てた側は戦争の混乱を利用して資源を奪おうとしていた。


その結果、エルシアは壊滅寸前に追い込まれ、

王族の一部はアレスクラザスに亡命。


アレスクラザスはもはや黙っていられなかった。

当時のチェリー家当主はアレスクラザスの「大公グランドデューク」の地位にあり、

両者は協議のうえ、軍事介入を決意。


ただしアレスクラザス自身は参戦せず、

チェリー家が“中立”の立場から戦争の両者を制することとなった。


チェリー家は鉄道という圧倒的な輸送手段を持っていた。


表向きは商家。

だが、軍事面でも無視できない力を持っており、

鉄道技術と機動力を武器に、予想を超える戦術で両勢力を圧倒した。


結果――勝利を収めたのは第三勢力、アレスクラザス。


両陣営は敗北し、アレスクラザスは圧倒的な勝利を手にした。


それは――世界を統一する力を手にした、という意味でもあった。


しかし、アレスクラザスは覇権を握ることを選ばなかった。

あくまで「偉大なる観察者」としての立場を保つことを望んだのだ。


だが、何もせずにいれば戦争は終わらない。


そこでアレスクラザスは、チェリー家を国家から分離し、

真の中立勢力として、鉄道と技術の力で全土を監視する存在へと変えた。


今や、アレスクラザスの支援がなくとも、チェリー家は大陸全土を支配しうる力を持つ。


チェリー家の宣言は、こうだ――


「我らの領地とは、レールの敷かれたすべての地にある。

その上で争う者は、すなわちチェリー家の敵である」


そして――エルシア王国の王族のひとりが、チェリー家の当主と婚姻した。


「……だから私の髪はオレンジなのかもね」


そんなことを考えながら、私は窓の外を見つめていた。

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