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第1話 今日は何曜日?

ポッポー、ポッポー……

蒸気機関車の汽笛が響く。車輪がレールを走る音も聞こえる。


そう、そうよ……え? 私?

私はジェニファー・チェリー。


なんだか妙な気分……うまく言えないけれど、何かがおかしい気がする。


拳を握って、すぐに開いてみる。

……特に異常はなさそう。


今、私はチェリー家の専用列車の中にいる。内装はとても豪華。

いや、正確に言えば――この列車そのものが、


チェリー家は200年の歴史を誇る名家。

世界中の鉄道、線路、駅――その全てが、チェリー家というたった一つの存在に独占されている。


もともとは貴族として知られていたが、150年前に全ての国家権力から独立した。

それは反乱ではなく、国家からの完全な分離。

だが、新たな国を作ったわけではない。


「チェリー家は、チェリー家である」

そう、当時の賢者が語ったという。


私は、そのチェリー家の娘。

どんなものにも縛られない――自由な存在。


これから、私は何をしようか。


「次の駅、低地第34区です」


耳に入った声は小さく控えめ――だが、必要な情報はきちんと伝えてくる。


「精霊」……この声の主は、そう、精霊。

それは知性を持ち、寿命を持たず、人間ではない神秘の存在。


そうだ、いいこと思いついた。


私は窓の外を見る。そこには、私の顔がぼんやりと映っている。

私の髪は――オレンジ色。


……少し、変なことを考えすぎていたみたい。


列車が駅に停まる。再び精霊の声が響く。


「低地第34区、低地第34区です」


もう、降りる時間ね。まずは列車から降りよう。


使用人が私の荷物を持って、ホームまで運んでくれる。


この列車には他の乗客はいない。

乗っているのは私と、家の使用人だけ。


ホームは静まり返っている。

時計を見ると、ちょうど正午。


「お嬢様、予定ではご当主様があと3時間ほどで到着なさるそうです」


話しかけてきたのは、私の専属メイド、エメリー。

黒髪の、どこにでもいそうな普通のメイド。


「じゃあ、先にお医者さんに会いに行きましょ」


「かしこまりました」


今回ここに来た目的は、私の病気の治療。


生まれつき患っている病――名を「魔術的身体心臓退化症」と言う。


この病は非常に重く、古書にはこう記されている。


「この病の行方は運命次第。完治する者もいれば、世界から消える者もいる」


医学的に言えば、一度の治療で完治する者もいれば、

ずっと治療を続けねばならない者もいる。


私は後者――毎月、継続して治療を受けねばならない。


さらに厄介なのは、治療のたびに悪化する可能性があるということ。

……結局、運命にすべてが委ねられているのだ。


「お嬢様、馬車の準備ができました」


私は馬車に乗り、医者のもとへ向かう。


約2時間ほど揺られ、ようやく目的の街に到着。


馬車を降り、そこからは徒歩で診療所へ向かう。


街は静かで、人通りも少ない。


そして――着いた。


「来たのね、ジェンちゃん」


「来ました、先生」


彼女は、私が幼い頃から診てくれている医師。

名前はラニア先生。


「ラニア先生、こちらは専属医師からの記録です」


「うんうん、オーケー」


「それじゃ、治療を始めましょうか。エメリーさん、外で待っててくれる?」


「はい。……でも、どうして今回は外に?」


「いいからいいから。すぐ終わるわよ」


エメリーは部屋の外へ出て行った。


そして先生は、真剣な表情で語り始めた。


「ジェンちゃん、記録によれば、もう3回目の再発よね?」


「……はい、そうです」


「それじゃあ……もう治療できないわ」


「どうしてですか?」


「再発っていうのは、心から運命が流れ出る現象なの。

治療というのは、その流出を塞ぐこと。


でも、三度も流れた運命は、もう塞ぎようがないのよ。

医学では、三度目の再発を"限界"と定義しているわ」


先生の言葉を聞いても、不思議と恐怖は湧いてこなかった。


本来なら、怯えてもおかしくないのに。

今日の私は、やっぱり――変だ。


「治せますよ」


「無理よ」


「治せます」


「無理なの。あとは運命がゆっくり尽きていくのを待つだけ……」


「でも、もし運命が尽きないとしたら?」


「そんなことありえないわ。みんな"自分には運命が残ってる"って思いたいだけ」


「ところで、ご当主様は?」


「会議で少し遅れてるって聞いたけど、すぐ来るわ」


「さあ、落ち込まないで。これが最後の治療よ」


「最後……?」


先生はカードの束を取り出した。


「運命カード――運命を操作したい時に使うものよ」


「カードには3つのタイプがあるわ。

"固定"、"変化"、そして"予測不能"」


「以前は、彼女にこのカードを3枚引かせて、"固定"が2枚以上出たら運命の流出を止められた。


でも、今回は3回の再発を経たせいで、"固定"のカードは君から離れた。


今は、すべて運命次第よ」


「"固定"が1枚でも出れば――少なくとも命は繋げられる。

完治はしなくても、生き延びる希望にはなる」


「さあ、引いてみて」


今日の私は、やっぱり――おかしい。


「一枚目……」


今日は何曜日だったっけ……


「二枚目……」


週末ってことは、金曜? それとも土曜?


「三枚目……」


カードなんて、どうでもよかった。

私は、ずっと今日が何曜日かを考えていた。


「……うーん、珍しいケースね」


「珍しい?」


「3枚とも、"予測不能"のカードだったの」


「それって……どうなるんですか?」


「分からないわ。文献でも、あまり例がないのよね」


「じゃあ、私の未来は?」


「それは――運命次第」


「もういいわ。ご当主様に話さなきゃいけないことがあるの。あなた、もう外に出て」


そう言われ、私は部屋を追い出された。


「お嬢様」


「先生が父と話したいって。連絡してもらえる?」


「かしこまりました」


私は、病気が怖くなかった。

ただ、今日の自分が――妙だった。


「街を散歩して、父を待ちましょうか」


「はい」


私はずっと考えていた。

今日が何曜日なのか、私のカード3枚の意味、そして――


しばらくして、父がやってきて先生と話をした。


「帰ろうか」


父は多くを語らなかった。

だが、その表情には、悲しみがにじんでいた。


私たちは馬車で駅へ戻り、列車を待った。


駅に着くと、列車はすでに到着していた。


私たちは乗り込み、そして私は眠りについた。


……私は、ようやく分かったのだ。


今日は――土曜日。

昨日は――金曜日だった。


……なんて、くだらないことを考えてるのかしら。

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