駆け落ち
それで、どんな勇気なの?
家に閉じ込められてた彼女がね。
家を飛び出したの。
やったぁー!………けど、どうやって?
食事を貰った時に出たのよ。
お盆を引っ繰り返して……お手伝いさんが引っ繰り返された食器やおかず、ご飯などを片付けている間にね。
昼食だったから、父親は居ないし……チャンスだったのよ。
それで? 彼女はどうしたの?
駅員さんの居る改札へ走ったの。
キャァ―――っ! 素敵!
改札口で勤務中の駅員さんは驚いて……そして喜んだの。
それから? それから、どうなったの?
彼女の足は裸足だったの。
駅員さんは同僚に頼んで勤務を交代して貰ったのね。
二人のことを知っている人ばかりだから頼めたのよね。
それから、駅員さんは彼女を背負って自分が借りている部屋に帰ったのよ。
そして……それから二人は結婚したの。
もう、親の許しなど頭になかったのね。
籍を入れて、新しく部屋を借りて……。
新婚夫婦になったのよ。
改札で抱き合う二人の姿が目に浮かぶようだわ。
ねぇ、彼女の足の怪我は?
大丈夫よ。擦り傷だったから……ちゃんと駅員さんが手当てしたし……。
素敵~~♡
ねぇ、それって 駆け落ち っていうのよね。
そうよ。駆け落ちしたの。
駆け落ちした二人に可愛い赤ちゃんが生まれたの。
子どもは増えたのよ。2人に……。
あんなに反対していた彼女の親が孫を授かってから手のひらを反すように変わったわ。
えっ? それって……。
そう、許したのよ。二人を……。
孫が可愛くて仕方がないという風に変わったのね。
勿論、駅員さんに対する態度も変わったわ。
婿として、ね。
認めたんだ!
そう、認めたの。
駅員さんは彼女から貰った手紙を全て大切に持っていたわ。
亡くなるまで……。
彼女は愛されて過ごせた幸せな人生だったの。
ねぇ、その彼女は?
もう亡くなったわ。
駅員さんの後を追うように……。
もう、二人が結ばれる元になった駅も変わってしまったでしょうね。
第一、改札は自動ですものね。
便利だけれども味気ないと感じるわ。
恋が芽生えないから?
そうね。彼女のことを知っているから、かしらね。
貴女も素敵な恋をしてね。
うん。したい!
これから、素敵な恋に巡り会えることを祈っているわ。
若い人たちに……素敵な良い恋をして欲しいわ。
素敵な恋は人を成長させてくれるわ。
私はそう思っているのよ。
恋は素敵よ。