授業
パランテロ先生は自分の学校に二人を招き入れた。なぜ、二人は従順に従ったのか、今となっては分からないが、白い服を着た穏やかな顔立ちの老人というものには不思議な力が授けられるようになっていたのかもしれない。あるいは『門』をめぐる戦争を生き残ることで死を必要以上に恐れることが無駄だということが分かっていたのかもしれない。
風通しのいいテラスには椅子が三つあり、そのうち二つをパランテロ先生は勧めた。
「そのマスクはとらんのかね? まあ、取りたくないなら、それでもいいが」
イヴはずっとマスクをつけたままで、くぐもった呼吸の音がかすかに聞こえていた。イヴに殺された戦闘員たちはたいてい、この音がこの世で最後にきくことになる音なのだ。
「長生きするといろいろなことが起こるのに直面するが、たいていのことは本を読めば、説明がつく。この戦争についてはさっぱり分からないが、そのうち全てを網羅した本が出るだろう。それまで生きていられるかは分からないが。『門』についても同じこと。この空っぽのジャングルだけが残った大陸で殺し合っているうちは分からないが、何十年も経てば、利害関係者がほとんど死んで、必要以上に偏った見方をせずに済み、物事をきちんと分析できるようになる。そのとき、全てが分かるだろう。きみたちはそのころ生きているかもしれんし、死んでいるかもしれんし、生きているはずなのに死んでしまったような気がしたまま、人生の残りを過ごさなくてはいけないのかもしれない。だが、どうして人は『門』のために戦えるのに、風のために戦わないのだろう? 風は青く澄んでいることもあれば、琥珀のように輝き、あちこちを照らし出すこともある。もし、風を自分一人のものにできれば、見たいと思った雲や日光の差し方を思い通りにできる。美しいものが見たいと思えば、空を仰げば、そいつのためだけに風がとっておきの景色を用意してくれる。アンデスの頂に雲をかけることも、アマゾン河の水を遡らせることもできる。灰色に褪めた風を使えれば、歴史を遡ることだってできる。ピサロがインカを滅ぼす前の、コロンブスがこの大陸を『発見』する前まで時間の針を戻すことができるのだ。そして、死と破滅を積んだキャラック船が西の果てからやってくるのを見た最初のインディオになることだってできる。なのに、なぜ人は風を無視し、『門』のために破滅的な戦いを続けるのか? 理解できない。もちろん、これも時間が経てば、本が説明してくれるだろうが」
そのとき、二人はテラスの奥の部屋が革装丁の本でぎっしり埋まっていることに気がついた。