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『門』をめぐる戦争と優しい寓話  作者: 実茂 譲
パランテロ先生
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交戦団体について

 奇妙な話だが、『門』をめぐる戦争では交戦団体は何らかの思想に強く裏付けられていた。カトリック、アナーキズム、オーギュスト・コントの産業社会思想(ブラジル国旗でおなじみの文句)、環境保全。だが、『門』をめぐる戦争が始まったとき、ラテンアメリカ全体に住んでいた非戦闘員の数は五〇〇名を下回っていた。交戦団体が自分たちの主義思想を広めるための土壌としてはあまりに稀少で、あまりに貧弱だった。おまけに各交戦団体はこれら非戦闘員を見つけると、たいがいは殺してしまった。たとえば、カトリック系の戦闘組織がインディオの呪術師を見つけると、異端者呼ばわりして問答無用で殺してしまうし、産業社会至上主義者たちがアルゼンチンのガウチョを見つけると、産業の近代化に反抗する旧弊勢力として、やはり殺してしまった。アナーキストは一番偏屈で彼らに出会ったら、たいていのものが殺された。社会主義者でも殺されたし、アナルコ・サンディカリズムというかなりアナーキストに近いところにある非戦闘員ですら殺されてしまうのだ。

 非戦闘員の殺害はだいたいの場合、化学物質で肉体を強化していなければ、記憶も消去していない大人たちが手を下した。各組織の少年兵や少女兵はそのドグマに従って動いてなかったので、その信じる思想が異なっているだけで人を殺す理由を理解するのに一苦労するからだ。だが、考えてみると、彼らは任務遂行のためなら手段を択ばない筋金入りの冷酷な殺人マシンなのだから、自分たちが人を殺す理由を正当化しようとはしないだろう。

 結局、残り僅かな非戦闘員が殺されるのは、非戦闘員が自分たちの思想に共鳴してくれるかもしれないという期待を胸に抱いて、自分たちの理想を説明できる大人が派遣され、そして、勝手に抱いたその期待が裏切られて、激高して殺してしまったのが本当のところだ。

 ひょっとすると、『門』とは彼らの思想を無限に受け入れてくれる従順な信者予備軍の膨大な集団なのかもしれない。

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