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『門』をめぐる戦争と優しい寓話  作者: 実茂 譲
パランテロ先生
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イヴ・カシワ

 イヴ・カシワはアナーキスト系の戦闘組織に属していた。組織化されたアナーキストというものそれ自体が矛盾していたが、クラウディオと同様、イヴもまた自分の組織のドグマに関心はなかった。記憶の消去はかなりきれいに行われていたが、カナダのリヒテンシュタイン系銀行の貸金庫に保管された研究記録のコピーを見る限り、イヴは人を殺すことに特化した子どもたちをつくる研究所で生まれ、ひたすら人を殺す方法を習い、そのために化学物質を使い、その戦闘能力を飛びぬけて強化し(ここの部分はクラウディオと共通している)、そして、『門』をめぐる戦争に投入されていたので、記憶を消さなくても、黙って人殺しに邁進してくれそうだった。アナーキストがテロリストの代名詞として世界を戦慄させた十九世紀からは考えられないほど、世界は複雑になったが、ラテンアメリカの戦争では物事は単純で全ては『門』を手中に収められるか否かにかかっている。『門』そのもののことをよく知りもせず、その獲得に全てを賭けるのは、素人投資家のように危なっかしいが、もともとアナーキストというのは危なっかしい人たちだから、その点では彼らは組織化されてはいたけど、骨の髄までアナーキストであった。もちろん、イヴはそのへんの事情など知りはしなかった。

 ところで、イヴは暗殺任務用のぴったりしたボディスーツに身を包み、どんなときもゴーグル無しのガスマスクをつけていた。クラウディオは似たような戦闘用スーツを身につけていたし、任務によっては顔を隠すこともあったが、ガスマスクは一度もつけていない。そして、二人とも何かをかぶることは一度もしなかった。ヘルメットも目出し帽もブッシュハットもである。これには記憶の残渣が関係しているのかもしれない。



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