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『門』をめぐる戦争と優しい寓話  作者: 実茂 譲
パランテロ先生
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クラウディオ・レイ

1.パランテロ先生


 クラウディオ・レイは記憶のほとんどを消去されていたが、消去装置が安物だったせいか、一つだけ残っている記憶があった。それは物心ついて間もないころに行われた死者の日の祭りだった。ホセ・グアダルーペ・ポサダの版画から脱け出てきた滑稽な骸骨の人形が村じゅうにあふれ、しゃれこうべの形の砂糖菓子が振舞われた。それはメキシコの祭りだった。クラウディオはかつてコロンビアと呼ばれた領域の辺境のインディオの村の生まれだったが、メキシコの祭りはその村でも行われた。メキシコ人の移住者がいたせいだろう。そのメキシコ人は隣村の反共産主義民兵たちが仕掛けた爆弾によって吹き飛んだが、彼が伝えた祭りだけは残った。まだ、ナイフで人の首を掻ききったり、ピアノ線で自分と同じ歳くらいの少年兵を静かに絞殺したことのないクラウディオは村の他の子どもたちと一緒に小さな手に石を持って、ぶら下げられた骸骨の人形に石をぶつけた。人形が壊れると、なかのウエハースやキャンディーが子どもたちに降り注いだ。お菓子は地面に落ちて、子どもたちの手に握られるまでに太陽の光を三十ほどの異なるやり方で反射した。それはうっとりするくらい美しかった。ひょっとすると、死者の日の祭りがクラウディオの唯一の記憶として残ったのは、そのせいかもしれない。あまりに美しい光の記憶が記憶消去装置の作用を弾き飛ばしたのかもしれない。ともあれ、カトリック系の聖戦機構の少年兵となったクラウディオはその光の記憶を宝物として取っておくことになった。

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