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空と地のあいだの歌
イヴは自分の寝起きする小屋で簡易ベッドに横になり、土壁のあいだから差し込む光の筋のなかで自由に舞い踊る埃の一つ一つを眺めていた。細かい土の粒子は光の筋から出て見えなくなると思ったら、別の場所から出現して何事もなかったかのように光のなかを漂うことができた。くぐもった自分の呼吸音をききながら、ときおり光を遮る兵士たちの動きを意識してみた。太陽を全身に浴びる兵士たちは土埃の動き一つ一つに言葉が隠されていることなど夢にも思わないだろう。だが、こうして斜めに差し込む光を見ていれば、天の光と地面の静けさは小さな粒子を介して、互いの意思の疎通をしていることが分かった。きっとそれはうっとりするような歌に違いなかった。人間にきこえないのをいいことに空と地が歌をやり取りするのだ。
兵士が一人、小屋の入り口から覗き込み、イヴを呼んだ。
また誰かを殺すのだ。
イヴは起き上がり、外に出た。