#98 レオン・アダムス、魔王を圧倒す
「「「全員まとめて捻り潰してやるよ。……虫ケラみてェになァァ!!」」」
魔王の咆哮を聞き、俺は一気に集中力を上げ、全身に魔力を張り巡らせる。
ラストバトルの火蓋が、切って落とされたのだ。
「「「ハジけろやっ!」」」
「それは効かん!」
魔王が無詠唱で何かの魔法を放ってきた。おそらく以前にも使用した『破裂』と呼んでいたものだろう。
が、俺はすかさず自分の魔力で相殺する。
ヤツの魔法の厄介なところは、無詠唱、ノーモーションで、かつほぼタメなしで連発できる点にある。
今のように自己魔力でのガードが間に合う場合ならいいが、それ以外の状況では簡単に押し負ける。
「「「オラオラァ、どんどんいくぞぉぉ!!」」」
「ちぃ!?」
案の定、魔王は数の暴力と言わんばかりに、連続で『破裂』を使用してきた。
徐々に防御が追い付かなくなり、鈍痛のような熱を身体の各所に感じはじめる。
このままだと、その名の通り身体が“破裂”してしまう。
「ふんっ!」
距離を保ったままの戦いでは不利だと踏んで、俺は一気に魔王へ近付いた。
紅呉魔流を鞘に仕舞い、ケルベロスウェポンを両手持ちする。
もういっぺん、ヤツにフルスイングをぶちかましてやる。
「「「馬鹿が、甘ぇ甘ぇぇ! 近ぇ方が狙いやすいんだっつの、クハハ! 死ねっぇぇぇぇ!!」」」
心底嬉しそうに顔を歪め、下卑た笑い声を上げる魔王。こちらを馬鹿にし、いかにも見下した顔をしている。
自分の有利を、微塵も疑っていないのだろう。
が。
「効かないって言ってんだろッ!」
「「「あアァ!?」」」
俺はヤツの魔法を気にも留めずに突っ込んだ。
そして顔面へ向け、ケルベロスウェポンをフルスイングする――と見せかけて。
「ぬん!!」
「「「ごぼはぇ!?」」」
顔をガードしてがら空きとなった鳩尾に、右ストレートをぶち込んだ。
魔王は三つの口から、胃液のような液体を吐き出した。
日々の筋トレで鍛えた自慢の筋力を、思いっきり爆裂させてやったぜ。
「甘いのはお前だ、魔王」
「「「が……はぁ……あぁ?」」」
「魔法で俺がお前に敵うわけないだろ」
「「「だ、だったら黙って、死にやがれぇぇ!!」」」
「だから、効かないっつの」
「「「ごはぁ?!」」」
戦況を飲み込めない魔王を、俺は再び殴りつけて吹っ飛ばす。我ながら、すげー威力のパンチである。ワンパ〇マン状態。
これは完全に筋力ステータスがカンスト寸前だな。
魔法の実力と才能では、当然魔王に分があるのはわかり切っていた。いくら俺が魔法を鍛錬したところで、上回れるとは思っていない。
だからこそ俺は、ヤツの魔法に対しての防御・対策をしっかり仕込んできた。
「それにしても、こんなに効果抜群とは」
俺は愛用の革鎧を、労うようにポンポンと叩く。
そう、今回対魔王の魔法防御策として、鎧の内側に『魔繊維』を編み込み、アリアナお手製の釘型魔道具で、各部を補強しておいたのだ。
ヤツとの戦闘をこなしながら魔力をコントロールし続け、魔法攻撃を相殺させ続けるなんてことは、俺はハナっから諦めていた。
しかし、以前見たヤツの魔法の変幻自在さを考えたとき、防御を疎かにすることは考えられない。
そこで、魔繊維と魔道具によって、あらかじめ魔力を流し込んでおくだけで、魔王の魔法を無効化できるよう、鎧をカスタムしておいたのだ。
魔王の使う魔法の威力を考え、俺だけでなく村の皆から魔力を込めてもらうことで、あらゆる威力の魔法を凌駕できるよう最適化してある。
俺には、リバースの皆、全員の力が味方しているのだ。
「「「はぁ、はぁ……クソ、クソクソクソクソがぁ! ハジけ飛べ、カスがぁ!!」」」
「何度言えばわかるっ!」
さっきまでの余裕ぶっこいた態度とは打って変わり、焦りの色を浮かべている魔王。駄々をこねる子供のように、乱暴に腕を振って、魔力の塊を打ち込んでくる。
しかし、その全てを跳ねのけ、俺は再びゼロ距離へと接近。
醜く歪んだヤツの顔へ、今度こそ俺はケルベロスウェポンを振り抜いた。
魔王は咄嗟に二腕を盾のように顔の前に掲げ防御を試みたが、大剣の刃は、それごと顔を深く斬り刻んだ。
血が、噴き出す。
「「「ガアアアアァァァァ!?」」」
「消え失せろ、悪の権化が!!」
「「「うぅ、うう鬱陶しいクソがぁぁぁぁァァァァ!!」」」
ヒステリックを起こし、喚き散らす魔王。
「「「燃えろぉ、燃えちまえぇぇぇぇ!!」」」
「っ!?」
魔王は腕を計三本失い、冷静さを欠いている。
血を撒き散らしながら今度こそはと、激しく燃える炎をこちらに向けて放ってきた。四天王のアウロラが使用した『ヴォルケーノ・インフェルノ』以上の熱波だ。
その燃え盛る炎は、まさに地獄の業火そのもの。
「「「死ね、死ねぇぇぇぇ!!」」」
――動じることはない。
俺はありったけの魔力を鎧や籠手に注ぎ込み、そのまま全身で――炎に突っ込んだ。
ヤツの手から溢れた巨大な炎の塊へ、あえて飛び込んだのだ。
「「「は、ははっ! マジもんの馬鹿かよっ!!」」」
魔王が俺を哄笑する声が聞こえたが、そうしていられるのも今のうちだけだ。
「「「……な、なんでだ? なんで炎が小さく!?」」」
炎は俺を燃やすことはなく、魔繊維と魔道具の効果によって雲散霧消していく。
俺はヤツの放った炎に飛び込むことで、魔王が使用した炎魔法の力を取り込んだのだった。
「「「どうして……どうして生きてやがんだよぉ、テメェはぁぁ!?」」」
「吸収したんだよ、お前の炎を」
さすがに革鎧の端々や毛先がいくらか燃えたようだが、構わない。
戦いは最早――佳境だ。
「これで終わりだ」
すかさず、術者本人である魔王へ向けて。
俺は“地獄の業火”を、解き放った。
「「「ギャアアアアアアアアアアア!!」」」
魔王の断末魔が、こだました。
:【筋力】が上昇しました
└筋力のステータスが最大値に達しました
:【知力】が上昇しました
:【精神力】が上昇しました
:【魔剣王】の職業熟練度が上昇しました
:【魔法狩猟師】の職業熟練度が上昇しました
:【ジャンパー】の職業熟練度が上昇しました
貴重なお時間をこの作品に使ってくださり、ありがとうございます。
読者の皆様の応援が書く力になっています!
更新がんばります!




