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#95 説得

「ルルリラ……!」


 久しぶりに見た彼女は、相変わらずの盗賊ルックで抜群のスタイルを誇っていた。髪が少し伸び、若干大人っぽくなったような気がしたが、悪戯っぽい笑みをたたえた明るい雰囲気は、あの丘で別れた時から何も変わっていないように思えた。


 村での農作業や大工仕事を、笑顔を絶やすことなく和やかに作業していたあのときの表情だ。あぁ、いつものルルリラだ。


 一緒に過ごしていた、あの頃のまま。


「…………」


 ただ、気になることが一つ。

 この部屋に入ってから気付くまで、彼女の気配を一切感じられなかったのだ。


 ……おそらくは『忍び』のスキルゆえ、だろう。

 しっかりとジョブを鍛え、スキルを磨き、鍛錬を積んできたということなのだと思う。


 ……でも、それはなんのために?


 魔王から自衛するため、自らを高め続けていた?

 それとも――魔王のヤツの片腕として、俺と戦うため?


 そんなはずは、ない。

 絶対にないはずだ。


 元は義賊として活動していた彼女だ、実は誰よりも道理を重んじ、正しいことに対して生真面目だ。だがそれは裏を返せば潔癖とも言え、だからこそ自分を価値観の鎖で雁字搦めにしてしまうこともあった。


 しかし、そんな彼女だからこそ、あのエゴと傲慢で作られたような魔王に、心から賛同しているはずがないのだ。


「ルルリラ。迎えに来た。一緒にリバースに帰ろう」


 俺は一歩踏み出し、声をかけた。


「リバース?」

「ああ。城塞が完成して、リバース村は城塞都市リバースになったんだ」

「へぇ、リバースに、ね」


 ルルリラは一瞬、どこか悲哀を感じさせる表情になった。

 ……そんな顔、しないでくれ。


「ウチなんかがいなくても、ちゃんとあそこは発展してるんじゃん。よかったよ」

「……そんな風に、言わないでくれよ。ルルリラがいれば、もっともっと発展するさ」


 自嘲的なルルリラの言葉に、俺は食い気味で返す。


「ルルリラ、帰ろう。少し時間はかかってしまったけど、もう大丈夫だ。な、行こう?」


 言いながら彼女に近づき、俺は手を伸ばす。

 が――彼女は俺が近付いた分だけ、後退った。


「な、なんでだよルルリラ」

「……言ったっしょ、ウチはもうこっち側の人間。戻れないのさ」

「戻れる! アリアナやシェリも待ってる! 見ろ、クロエだっている!」

「ガウ!!」


 そこまで静かに俺たちのやり取りを観察していたクロエが、背中を押すように吠えてくれた。


「……ダメだよ、レオン。ウチはもう、身も心も汚れちまった。村にいた頃よりも、ずっとずっと、ね。もう、魔王の…………悪の手先なのさ」

「っ!? アイツに脅されて、無理矢理だろう!? それはキミの意思じゃないはずだっ!」

「意思、ねぇ……もうわからないよ、ウチはウチ自身が、どういう意思で生きてるのかがさ」


 ルルリラはそこで、見る側が苦しくなるような自虐的な笑みを浮かべた。


「魔王はね、空間魔法を使って人の土地に飛んで、金持ちや権力者を襲撃しては金と女を奪って回っていた。それがヤツの日課だった。……おかげで、ウチは魔王の欲求の捌け口になるだけで、今まで食べられなかった豪勢な食事を食べられらた。魔王の悪巧みを少し手伝うだけで、今まで見たこともない大金を手にできた」

「……本気で言ってるのか?」


 身体の奥底から、嫌な熱が込み上げてくる。


「でもそれってさ、権力や富を持ってるヤツらがやってることと大差ないでしょ? 連中はさ、血縁だけで金と地位と権力を囲って、世界や人を掌握したような気になる。そんで法とかルールだとか言って自分たちに都合がいいように世の中を作り変えては、ウチらみたいな貧乏人から金も尊厳も搾取して、高いところでふんぞり返って悠々自適に暮らしてる。……やっぱり、魔王の言う通りなんだって思った。この世は元々持っているモノで人生が決まってるって」

「っ、ウソをつくなっ! キミはそんな腐り切った人間じゃないだろっ!」


 思わず叫ぶ。

 人の一生が、生まれた段階で全て決まっているなんて、そんなことがあるわけない。


「……どうかな。でも気付いたんだ、魔王といて。そういう世界をひっくり返すにはさ、暴力を振りかざし、無法になるしかないんだって」

「そんなこと、キミは望んでいないだろ!?」

「いいや、ずっとずっと、誰かがこのクソッタレな世界を壊して、ちゃんと全てを公平にしてくれることを望んでたよ。……でも、もう待てない。だからウチが、自分でやることにした」

「…………!?」


 言い終えたルルリラは――愛用のダガーを構えた。


「レオン、ウチはアンタを……侵入者を倒さなくちゃならない」

「ルルリラ……!」

「できれば殺したくない。でも退かないのなら、容赦もしない」

「どうしてだよ、ルルリラ!?」

「さぁ――いくよ!!」


 対話は強引に打ち切られ、そして――


 剣戟の音が、ホールに響いた。



:【筋力】が上昇しました

:【知力】が上昇しました

:【精神力】が上昇しました

:【魔剣王】の職業熟練度が大幅に上昇しました

:【魔法狩猟師】の職業熟練度が上昇しました

:【ジャンパー】の職業熟練度が上昇しました


貴重なお時間をこの作品に使ってくださり、ありがとうございます。

読者の皆様の応援が書く力になっています!

更新がんばります!

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