#90 深夜の船出
城塞都市リバースの中心にある、皆の憩いの場となっている食堂にて。
「はぁ、美味しかったぁ」
「いつ食べてもレオンさんの料理は美味しいです」
「ありがとう」
俺が作った料理を食べ終えた皆が暖炉のある広間に集まり、ロッキングチェアなどに腰掛けて歓談している。食後のくつろぎタイムだ。
一部の大人はワインを傾けたりしており、一様に上機嫌な顔をしている。
かく言う俺もお酒をいただいており、大変心地よい気分だった。
広間に設えられた窓には橙色の街頭が揺らめいているが、外ではまだ人が行き交っており、寝るには早い時間帯なのだろう。
「…………」
ワインの注がれた木グラスを置いて、一息つく。
リバースの皆のワイワイとした団らんを、ぼーっと眺めてみる。
うん、素敵で大切な、人生の時間だ。
……こういう時間がいつまでも、なんの憂いもなく、ずっとずっと続くようにしなくちゃいけないよな。
「じゃ、俺はそろそろ部屋に戻るよ」
「え? いつもより早いんじゃない? もう少しいればいいのに」
アルコールが回っているのか、少し顔を赤くしたシェリが小首をかしげながら言った。
俺はポリポリと頬を掻いて、苦笑いを返す。
「今日はちょっと早めに寝ようと思っててね。一足先におやすみするよ」
「そっか、わかった。もう少し一緒にいたい夜だけど……おやすみ。また明日ね、レオン」
「……ああ、また明日」
手を振るシェリの柔らかい笑顔に一抹の名残惜しさを感じたが、なんとか押し殺して、俺は食堂を出た。
◇◇◇
時が経ち、皆が寝静まったであろう深夜。
俺はひっそりと起き出して、身支度をはじめる。
常に身に着けてきた黒い腹巻や革鎧、刀鍛冶に研いでもらったケルベロスウェポンと紅呉魔流を装着。
さらに事前に揃えておいた装備品や道具類、回復アイテムなどをすべて詰め込んだ革袋を提げ、静かに自宅の扉を開けた。
外に出た途端、冷たい夜風が頬を撫でた。
「さすがにまだ寒いな」
春真っ盛りとは言え、まだまだ深夜の風は肌寒い。
暖を取るように手に息を吹きかけると、白い息が空へ上がっていく。
追うように見上げれば、空には幾千の星が輝いていた。
「……さて。行くか」
満天の星空に背中を押されるようにして、俺はリバースを出て、海岸へと、あえて歩いて向かうことにした。
町から離れながら、一度だけリバースをゆっくりと見回した。
ちょうど町が見えなくなった頃、海岸へと続く道の林で気配を感じた。
「レオン。こんばんは」
――クロエだ。
彼女は待ち構えていたのか、人の姿をしていた。
「レオン。ボクも連れて行ってよ」
「クロエ……どうして?」
「なんとなく、感じていたんだ。レオンは、一人で行くつもりなんじゃないかって」
指摘され、俺は口を紡ぐしかなくなる。
クロエに俺を責めるようなニュアンスはない。
ただクロエとは村のはじまりから、ずっと一緒に暮らしてきたのだ。匂いや仕草の変化で、感じ取られてしまったのかもしれない。
「ボクはあのときレオンに拾ってもらえていなかったら、たぶんケルベロスに食い殺されていたと思うんだ」
ジ・アポンでの、クロエとの出会いを思い出す。
あの頃のクロエは小さくて、本当に可愛かったなぁ。
今も超絶に可愛いけどな!
「いや、そうだとしても連れていくというのは――」
「レオンが決断しているように、ボクも決断しているんだよ。ボクのこの命は、レオンのために使う」
「クロエ……」
「連れて行って。レオン」
意思のこもった瞳で射抜かれ、俺は拒絶できなくなる。
確かにクロエがいれば、百人力だ。
「……わかった。一緒に行ってくれるか?」
「レオン! うん、必ず役に立ってみせるから!」
「ああ、ありがとう。いてくれるだけでも十分さ」
こうして。
俺はクロエと共にレゾリューション号に乗り込むこととなった。
「よし、出発!」
掛け声と共に、レゾリューション号の各部へ張り巡らせた『魔繊維』へと、魔力を注入していく。
風を受けた帆がぶわりと音を立て、船着き場から船体を前進させた。
いざ、魔領域へ。
いざ、魔王城へ。
いざ――魔王討伐へ。
一人と一匹の最後の戦いが、はじまろうとしていた。
:【体力】が上昇しました
:【筋力】が上昇しました
:【知力】が上昇しました
:【精神力】が大幅に上昇しました
:【魔剣王】の職業熟練度が上昇しました
:【魔法狩猟師】の職業熟練度が上昇しました
:【ジャンパー】の職業熟練度が上昇しました
:【一般パッシブスキル『深夜徘徊』】を獲得しました
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