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#89 心技体、足りないのは?

 魔王との決戦に備え、諸々の準備をはじめて数日が過ぎた。


 俺は今、魔法特訓で足しげく通った高台に来ている。

 柔らかい春風が、花々の香りを運んでくる。なんとも、気持ちが落ち着く。


「ここからだと、リバースの発展がよく分かる」


 高台の下には、リバース村……改め、城塞都市リバースがあり、町をほぼ一望できる。並び立つ家々や、行き交う人の多さ、土地の広がり――そういったものを俯瞰で見ることができた。


 眺めているだけで、この世界でコツコツと積み上げてきたものを実感する。


「よし」


 一呼吸置き、思考を切り替える。

 ここに来たのは、決してのほほんと癒しの時間を過ごすためではない。


 対魔王戦へ向けた、準備のためだった。


 魔領域に向かうための船、『レゾリューション号』も完成し、スキルの精査や装備品の調達なども、あらかた済んだ今。


 この世界の人々の日常を脅かし、ルルリラを連れ去った魔王を倒すために必要なのは。


 俺の心技体が極まり、充溢すること――と言えた。


「心と体はまぁ問題ないだろう。でもやっぱり……技、だよな」


 心技体、その中で不足しているのは、間違いなく技だ。


 魔王は、強力な魔法を無詠唱で、魔力の練り上げ時間もほぼなしで、連続で放ってくる。そんな魔王に勝つためには、未だ俺の“技”が足りていない。


 シュプレナードのギルドにて、ジョブの変更なども検討してはいたのだが、今から他の職業を鍛え直すとなると、またかなりの時間が必要になってしまうため却下した。


 もうこれ以上、ルルリラを一人にしたくない。


 入念に準備するに越したことはないが、あまり時間をかけたいわけでもない。

 なので、職業は今のまま『魔剣王』、『ジャンパー』、『魔法狩猟師』でいくと決めた。


 この三つを突き詰めていき、魔王と相対する。


「おし、まずは『移瞬斬』だな」


 俺の手札の中で、一番の対抗策となり得る技、移瞬斬。

 魔法を自在に操るあの魔王に対抗するために編み出した、斬撃を飛ばす技だが、ヤツへと効果的に叩き込むには、まずは呼吸するような感覚で絶え間なく放てなければならない。


 現状では、集中力を高め、静止状態で魔力を練り上げなければ使用できない。


 要するに、相手も自分も常に動き回っているようなガチの戦闘では、まだ使い物にならないというわけだ。


「せめて、動きながら使えるようにはならないと」


 最低限の目標を発声しつつ、俺は全身の筋肉をストレッチして伸ばしていく。

 全身にゆっくりと血が巡っていく感覚が、なんとも滾る。


 活力、エネルギーが、身体の隅々まで充填されていくようだ。


「まずは……ほいっと!」


 俺は瞬時に魔力を練り上げ、周囲に大量の氷柱を出現させた。

 早い段階で習得した魔法『アイシクルストーム』である。


 この乱立した氷の柱を的として、動きながら移瞬斬を放つ練習台とするのだ。


「おし、やるか!」


 腰に提げた刀の柄を持ち、再び魔力を練り上げていく。

 まずは取り回しの利く紅呉魔流べにくれまるでの移瞬斬を、動きながらでも使えるように慣らしていくぞ。


◇◇◇


「ふぅ。んー、なかなか上手くいかないな」


 青空の下、俺は紅呉魔流を鞘に収めてから、額の汗を拭った。

 一心不乱に剣を振り、魔法を放ち、移瞬斬を鍛え続けた。


 おかげで、動きながら使用することは早い段階で可能になったのだが、いかんせん狙いの精度が悪い。


 周囲にはまだまだ、冷気を放つ氷柱が何本も立っている。


 立ち止まった状態であれば、狙った所へコントロールすることはできる。

 狙いへ向けて、練り上げた魔力を放てばいいだけだからだ。


 だが、動きながらになった途端、魔力を狙った場所へ放つのがとんでもなく難しくなる。


 対象物も動き、自分も動いているわけなので、常に狙いが変わっているようなものなのだ。

 さらに、狙ったところにきっかり魔力を届けるには、言うなれば弾道計算のような予測と思考も必要になる。これと同時に、とんでもなく微細な魔力のコントロールも必要とされるため、難易度が半端じゃないのだ。


 しかも魔法単体を飛ばすというシンプルなものではなく、斬撃という“現象”を飛ばしているため、術者の行程がいくつか増えてしまっており、かなり厄介だ。


 せめて、単純な『火の玉を飛ばす』みたいな感覚でできればいいんだけどな……。


「てか寒っ」


 と、そこで氷柱のせいで周囲の温度がかなり下がっていることに気付く。

 慌てて、シェリ直伝の炎魔法『フレイムフィンガー』を使い、焚火をして暖を取った。


「……ん?」


 焚火に手を当てながら、ふと、考える。

 今しがた思考した通り、斬撃ではなく単純な魔法を飛ばすような感覚で移瞬斬を扱えば?

 斬撃を焔で纏うようにして繰り出し、それをシンプルに飛ばせばいいのでは?


 言うなればそれは、炎であり、斬撃であり、魔法でもある技。


 そして何より――絶対カッコいい!


「炎をまとった飛ぶ斬撃とか……カッコ良すぎだろ!!」


 興奮の中、俺は再び剣を振り、魔力を練り上げた。

 試行錯誤、開始。


 すべては、中二病の誰もが夢見る炎の斬撃のため!!


 特訓は、陽が落ちるまで続いた。



:【体力】が上昇しました

:【筋力】が上昇しました

:【知力】が上昇しました

:【精神力】が上昇しました

:【運】が上昇しました

:【魔剣王】の職業熟練度が上昇しました

:【魔法狩猟師】の職業熟練度が上昇しました

:【ジャンパー】の職業熟練度が上昇しました

:【魔剣王のアクションスキル『移焔斬いえんざん』】を獲得しました


貴重なお時間をこの作品に使ってくださり、ありがとうございます。

読者の皆様の応援が書く力になっています!

更新がんばります!

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