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#42 趣味回:食事編 ぼたん鍋

「おーい、この辺なんかどうよー?」


 少し先の方の岩陰から、ルルリラが手を上げて俺を呼ぶ。

 ユニークダンジョンを攻略した帰り、思ったよりも時間が経っていたので、俺たちは野営をすることとなった。


 暗視的なスキルに目覚めている俺と、忍びで索敵能力が高いルルリラなら、夜道を警戒することもないのだが、いかんせんステゴボアーの大きな素材があるため、一晩かけて運搬することにしたのだった。


 こういったものをすぐに転送する時空間属性の魔法もあるらしいが、俺にはまだ使えない。移動石に込められている魔法もその一種だろうが、俺が使えるようになる日は来るだろうか。


 さておき、素材の肉が腐らないよう、氷魔法で作った桶みたいなところに入れて保存は万全だ。氷魔法、もしかして生活魔法としてかなり優秀なのでは?


 飲み物もキンキンに冷やせるし!


「うん、地面も平らでいいところだ。んじゃ、ここを野営地としよう」

「おっけーい」


 ルルリラと手分けして、野営の準備を整えていく。

 それと並行しながら、俺は今日の晩御飯の準備をはじめる。


 イノシシ肉と言えば。

 ――ぼたん鍋でしょう! レッツジビエ!


「まずは鍋をセッティングして、っと」


 携帯用の鍋を火にかけ、そこに切った野菜を並べていく。

 ネギ、白菜、キノコなどなど。野菜は全部リバース村の畑で採れたものだ。

 個人的にはここに、ぜひとも豆腐を入れたいところだが、さすがにないのであきらめる。


 リバース村で採れるビーンズがほぼ大豆みたいなものなので、自家製で作ってみようと思っているのだが、まだチャレンジしていない。


 だが、その代わり――味噌は完成している。

 ビーンズ栽培が軌道に乗り安定して採れるようになったので、俺は転生前の知識とアリアナの知恵を借り、なんとか味噌を自作したのだった。


 今も当然、特製容器に入れて携帯している。


 この味噌を使って、鍋つゆを作っていく。

 まず、乾燥させた昆布のようなものを水に入れて出汁を作る。これは、暇があるときに移動石を使い、世界中で食材集めをした成果だ。

 ついこの前、昆布に似た海藻を乾燥させて食物として常用している地域を見つけ、そこで買っておいたのだ。


 俺は煮立ってきた出汁から乾燥昆布みたいなものを取り出し、味噌を溶いていく。

 みりんとか酒などがあればもっと深い味わいにできるのだろうが、あいにく今は塩ぐらいしか持ち合わせがないので、これで味を調えて鍋つゆは完成だ。


「うーん、良い香りー」

「食材に火が通ったら完成だよ」


 出汁と味噌が合わさった香りに、ルルリラが釣られてやってきた。

 この和な香りは、日本人にはたまらないものだ。


 ……白米が食いてえ。


「ここに切ったステゴボアの肉を、たっぷり入れて……」


 本来のぼたん鍋は、薄切りにしたイノシシ肉をバラの花のように飾り付ける。だがあまり器用でない俺にはそんな技術はないので、やらない。


「いい感じだ」


 灰汁を取って面倒を見てやると、 キレイな桜色の切り身に火が通ってきた。


「よーし、そろそろいいぞー」

「わーい! いっただきー!!」


 言った途端、待ち構えていたルルリラが木製フォークを突っ込んだ。

 グツグツと煮えた味噌ベースの鍋つゆの中から、イノシシ肉ばかり狙ってかっさらっていく。


「こらルルリラ、野菜も食べろ!」

「へへーん、そっちはレオンに任せるー」


 まったく、鍋の野菜の美味さを知らないなんて、これだから若いのは……などと悪態をつきながら、俺は肉と野菜を小皿に取っていく。


「いただきまーす! はふ、ほふっ」

「熱いから気を付けてな。どれどれ……ハッ、ハフッ!」


 出来立ては熱々だ。

 ゆっくり口の中を慣らしながら、肉を咀嚼する。


 ……ん、美味い!


 俺は勝手にイノシシ肉には、独特の癖があるものだと思っていた。

 たぶん『ジビエと言えば独特』みたいなイメージのせいなのか、勝手にもっと臭みというか味のクセがあるものだと思っていたのだが、全然そんなことはない。


 むしろ淡泊な味わいで、いくらでも食べられそうだ。


 ずずぅ、っとゆっくり味噌ベースの鍋つゆを味わう。


「んん! 合う!」


 うん、変な癖がないので、味噌の風味とも絶妙に合う。

 熱さに慣れてしまえば、すいすい進むぞこれは。

 野菜もよく染みており、グイグイ食べれてしまう。煮込めば煮込むほど、味が濃くなって後引く美味さだ。


「あむ、はふ……っ! うんまいなぁ、これ! いくらでも食えるっしょ!!」


 野菜の美味さにも気付いたのか、大喜びで食べているルルリラ。その様子を見ていると、作った甲斐があったというものだ。

 うむ、本当に良い食いっぷりだ。若い娘さんにしちゃあ、気取りがなくていい。


「おかわりおかわりっ!」

「あんまりがっつくとむせるぞ」

「はんっ、そんなわけあ、げほっ、ごほっ!」

「ほらな。水飲めほら」

「あ、ありがと」


 むせたルルリラに、氷のグラスに注いだ水を手渡す。

 俺も今日はルルリラと同じく、アルコールには手を出さず、キンキンに冷えた水で我慢します。……本当ですよ?


「うー、冷たくてうっめー! 最っ高ー!!」

「……ルルリラ、おっさんっぽいな」

「な、なんで笑ってんだっつーの!」


 そんな風に笑い合っていると、どんどん食が進んだ。

 イノシシの肉はまだまだある、今度は村のみんなでぼたん鍋で宴会といこうではないか。

 そのときまでに、ぼたん鍋に合いそうな酒でも探しておこう……うほほ、夢は広がるなぁ。


 そんなことを考えていたら、あっという間にぼたん鍋をたいらげてしまっていた。


「「ごちそうさまでしたぁー」」


 夜空の下、俺とルルリラの声が重なった。



:【体力】が上昇しました

:【魔力】が上昇しました

:【筋力】が上昇しました

:【知力】が上昇しました

:【精神力】が上昇しました

:【魔法狩猟師】の職業熟練度が上昇しました


貴重なお時間をこの作品に使ってくださり、ありがとうございます。

読者の皆様の応援が書く力になっています!

更新がんばります!

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