＃29 もう主人公より強い？
思い切り振り抜いたケルベロスウェポンが、大樹以上の太さを誇るエンシャントドラゴンの首に、小さな傷をつけた。
よし、なんとかダメージは入るぞ！
「ギギャアアアアアア！」
空を翔るエンシャントドラゴンが咆哮を上げ、極太の首を捻る。
空中とは言え、大陸そのものが蠢くような動きの影響は計り知れず、周囲の空気がかき乱され、強い風が吹く。それだけで吹き飛ばされそうになるが、クロエの毛を必死で掴んで耐える。
どうやら、ヤツはまだ俺たちに気が付いていない。
首を斬りつけたのにも関わらず、エンシャントドラゴンはどこ吹く風、『蚊でもいたのか？』といった感じなのかもしれない。
要するに、俺の攻撃があまりダメージを与えていないということだ。
俺はクロエに加速を促し、ドラゴンの広大な背中側へ行くよう指示する。
そしてその背に、再び大剣ケルベロスウェポンを振り下ろした。
「ギギャアアアア！」
再びの攻撃でようやく、エンシャントドラゴンの意識がこちらに向いたのがわかった。いつまでも鬱陶しい蚊を叩き潰さんと、重い腰を上げた感じだ。
俺の攻撃がどの程度のダメージを与えているのかはわからないが、反応があるということは、決してダメージ量はゼロではないということ。
そしてそれならば、時間さえかければ、必ずヤツを退却させられるということに他ならない。
「……それだけわかれば、十分だ」
たとえ時間はかかっても、絶対にエンシャントドラゴンを退却させてみせる。勝つことはできなくとも、この辺りのみんなを助けられればいい。
「ガウッ！」
続けざまに、クロエが素早く駆け抜けながら爪を立てる。見渡すような巨体ゆえ、こちらの攻撃がかわされる心配は一切ない。
「ギギャアアアアアアアアア！？」
クロエによる爪での攻撃がヒットすると、俺のときとは比べ物にならない反応をエンシャントドラゴンが見せた。
どうやらクロエの攻撃力はもうすでに、遥かに俺を凌駕しているみたいだ。
なんて頼もしい相棒なのか。
「ナイスだ、クロエ！ この調子でいくぞ！」
「ガウワゥ！」
再びクロエは鋭い爪と牙で、エンシャントドラゴンへとダメージを与えていく。ドラゴンの巨体に対して、こちらは小回りと手数で勝負だ。
度重なる攻撃に業を煮やしたのか、エンシャントドラゴンが身をよじるように動いた。
「オラァァ！」
その隙を突き、ヴァンも自慢の斧を振りかぶった。
「うおわっ！？」
しかし、ヴァンの攻撃は固い鱗によって弾かれてしまう。
どうやら、まだ能力が足りていないようだ。ヤツの防御力を上回ることができていない。
「ヴァン、どうやら君の攻撃はまだ通用しないらしい。攻撃は俺とクロエで担当するから、君はエンシャントドラゴンをよく観察して、回避指示を出してくれ！」
「くそ、わかったよ！」
自分の背後で、ヴァンが悔しそうに歯ぎしりをしたのがわかった。
今はそれぞれができることを、精一杯にこなすしかないのだ。
「ギィギャアアアアアアアアアアアアア！！」
ヒット＆アウェイで攻撃を続けていると、突如としてエンシャントドラゴンが大きな翼を広げた。
突風が吹き、俺たちはクロエの背から振り落とされそうになる。
「ギャアアァァ――――」
翼を広げたまま、顎を少し引くような動作。
一瞬、間が空くように風が止まる。
ヤツが、大気を吸い込んでいる。
いかにもなにかを吐き出しそうな、その行動が意味するものは。
「あの動き……まずいぞっ！ 『ヘルファイア』がくる！」
それは、エンシャントドラゴンの使う必殺の火炎攻撃『ヘルファイア』の、予備動作そのものだった。
ヘルファイアはあらゆる防御やバフ効果を打ち消し、当たれば必ず大ダメージを与えてくるゲームバランス無視の鬼畜技だ。
一撃でももらえば、瀕死は確実。
果たして、逃げ切れるか――！？
「走れ、クロエ！」
俺はありったけの声で、叫んだ。
：【体力】が上昇しました
：【魔力】が上昇しました
：【筋力】が上昇しました
：【知力】が上昇しました
：【精神力】が上昇しました
：【運】が上昇しました
：【魔族殺し】の職業熟練度が上昇しました
：【猟師】の職業熟練度が上昇しました
貴重なお時間をこの作品に使ってくださり、ありがとうございます。
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