#103 最後の決断
『『『俺を馬鹿にしたクソ女――お前から死ね』』』
「……っ!」
防御不能の絶対即死魔法『デスドミネイション』を発動させた魔王の目線は、俺の隣に向いていた。
そこにいたのは。
――ルルリラだった。
一瞬、彼女が息を飲んだ気配がした。
「レオン。あとは頼ん――」
「やめ――」
魔王の顔に不敵な笑みが浮かんだ、その瞬間。
「か、は……っ」
「っ! ル、ルルリラ!?」
糸が切れたかのように、ルルリラが膝から崩れ落ちた。
倒れ伏して地面に頭をぶつけてしまう前に、なんとか支えに入る。
「お、おいルルリラ。起きろ、ルルリラ!」
「…………」
「そんな……こんな、こんなことがあって……たまるかよ!」
どれだけ身体を揺らしても、耳の近くで大声で怒鳴っても、一切の反応がない。目が半開きになったまま、呼吸すらしていない。
首筋に指を当てて、脈を診る。指先にはなんの脈動も感じられなかった。
本当に、死んで、いるのか?
一秒前まで、隣で動いていたのに?
まだ、こんなに温かいのに?
『『『クヒャハハハハ! ざまあ、ざまあ見やがれ! 俺様を馬鹿にした報いだぁぁッッ!!』』』
不愉快極まりない声が、耳朶を打つ。
……それ以上、喋るな。
『『『ヒヒ、クヒヒ! 白目剥いて死んでらぁぁ! 間抜け、間抜けな死に顔! こりゃ笑うなぁぁ!!』』』
「ウアアァァァァ!!」
『『『ぅおぁ!?』』』
気が付くと俺は地を蹴り、大きく跳躍していた。
跳躍の到達点から、ケルベロスウェポンと紅呉魔流をギドラの身体に交互に突き刺し、その巨体を上へ上へと昇って行く。
突き刺し、抉る。
突き刺し、抉る。
「「「ギギャアアアアアアアアアア!!」」」
噴き出す血と、咆哮。
怒りで頭に血が上っているのか、視界の中で赤い火花が散っているような感じがする。
突き刺し、抉る。
突き刺し、抉る。
俺は魔王を、殺す。
「魔王ォォォォ!!」
剣でひたすらにエンシャントギドラの身体を傷つけながら、魔王の身体のある胴体付近の高さまで登っていく。
魔王の薄汚い姿が見えたところで、突き刺した紅呉魔流を足場にし、跳躍。
両手持ちしたケルベロスウェポンを、柄が折れるほどに握り締めて、振りかぶる。
ヤツを、ルルリラを殺したコイツを、千切り散らす。
『『『目障りがぁぁぁぁ!』』』
「がは!?」
刹那、ヤツの身体から伸びた腕が、大剣を両手で振りかぶって無防備な俺の腹に直撃する。
口の中が、血にまみれる。
が。
「ウガァァ!!」
『『『な、なんだとぉ!?』』』
「オラアアアア!!」
関係ない。
アドレナリンに物を言わせ、筋力でねじ伏せる。
魔王の腕を折り、抉り、千切る。
『『『しつけぇぇ、しつけェェェェ!』』』
「ぐふっ!」
次は、別の腕が飛んでくる。
血反吐が口から溢れる。
が、関係ない。
臓腑が破けるのなら、破ければいい。
肉が裂けるなら、裂ければいい。
骨が砕けるのなら、砕けるがいい。
どうなろうとも俺は。
ヤツを――殺す。
「ヌンッ!!」
『『『がはぁぁ!?』』』
俺は腕の筋が全て引き千切れるぐらいに力を込め、ケルベロスウェポンを魔王の喉元めがけて投げつけた。
この世で一番汚ない血飛沫が上がった。
『『『い、痛ェ! クソがクソがクソがぁぁ! し、しつけぇんだよ、いい加減死に腐れよ!!』』』
そこで魔王はたまらず魔法を使った。
臓腑が弾けるような熱を帯びる。ヤツの得意魔法『破裂』だ。『デスドミネイション』は連発できないらしい。
なんだろうと、関係ない。
「もっと痛みを知れッ!!」
『『『がああああぁぁ!? い、痛ェ痛ェェェ!?』』』
俺は身体の一部を吹き飛ばされながらも再び飛び、自ら突き刺したケルベロスウェポンの柄を“踏んで”、ヤツの身体に押し込んだ。
もっと、深く。
痛みを味わわせる。
『『『は、離れろォォ! 痛ェんだよォォォォ!!』』』
「ギギャアアアアアアアアアアアアア!!」
激しい痛みに顔を歪めた魔王が、金切り声で叫ぶ。
それに呼応して、エンシャントギドラが六翼を羽ばたかせる。ダメージからなのか、飛び立つつもりかもしれない。
「お前みたいな、他人の痛みを想像できないヤツには、俺がそれ以上の痛みを教えてやる」
『『『うざってぇ、うざってぇんだよ!』』』
ギドラの三つ首が規則的な動きで、魔力を溜め込むような動きをした。
さらに、眼前の魔王が色濃い魔力を帯び始める。
タメが終わった?
まさか――。
『ヘルバーニング』と『デスドミネイション』の同時攻撃か?
『『『全部、消し飛ばしてやる!!』』』
怒りで迸っていた熱が引き、冷静さを取り戻す。
そうして瞬時に、状況判断する。
「みんな! 魔法障壁を張れる人は、全力で発動させるんだっ!」
俺は咄嗟に“一つの決意”をし、ギドラの足元の皆へ向けて、喉が破裂せんばかりに叫ぶ。
「アリアナ、シェリ、ユースティナ、ヴァン! 魔法を使えない人たち、ルルリラを頼む!」
「は、はい!」「わかったわ!」「なに!? どうする気!?」「どしたんだよ、レオン!?」
みんなの慌てた様子が見えたが、時間がない。
回復したクロエが、戦場を疾風の如く駆けているのが見えた。
……クロエには、“意図”が悟られたのかもしれない。
これ以上、大切な誰かが死ぬぐらいなら。
俺は――
『『『お、おいテメェ、何する気だ!?』』』
「これで終わりだ。俺と木っ端微塵になってもらうぞ」
魔王が何かを感じたのか、焦ったような奇声で叫ぶ。
『『『ま、まさかテメェ、自爆する気か?!』』』
「そのまさかだ。消し飛べ」
『『『や、やめろぉぉ、やめろぉぉぉぉ!! 冗談じゃ――』』』
エンシャントギドラの巨躯に張り付いたまま、俺はそれを発動させた。
「――『シャングリラ・ディストラクション』」
魔王よ。
俺と、消えてなくなれ。
「――――」
次の刹那。
辺り一面を、真っ白な閃光が包んだ。
:【知力】が上昇しました
:【魔剣王】の職業熟練度が上昇しました
:【魔法狩猟師】の職業熟練度が上昇しました
:【ジャンパー】の職業熟練度が上昇しました
:【シャングリラ・ディストラクション】が発動されました
貴重なお時間をこの作品に使ってくださり、ありがとうございます。
読者の皆様の応援が書く力になっています!
更新がんばります!




