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103/105

#103 最後の決断

『『『俺を馬鹿にしたクソ女――お前から死ね』』』

「……っ!」


 防御不能の絶対即死魔法『デスドミネイション』を発動させた魔王の目線は、俺の隣に向いていた。


 そこにいたのは。

 ――ルルリラだった。


 一瞬、彼女が息を飲んだ気配がした。


「レオン。あとは頼ん――」

「やめ――」


 魔王の顔に不敵な笑みが浮かんだ、その瞬間。


「か、は……っ」

「っ! ル、ルルリラ!?」


 糸が切れたかのように、ルルリラが膝から崩れ落ちた。

 倒れ伏して地面に頭をぶつけてしまう前に、なんとか支えに入る。


「お、おいルルリラ。起きろ、ルルリラ!」

「…………」

「そんな……こんな、こんなことがあって……たまるかよ!」


 どれだけ身体を揺らしても、耳の近くで大声で怒鳴っても、一切の反応がない。目が半開きになったまま、呼吸すらしていない。

 首筋に指を当てて、脈を診る。指先にはなんの脈動も感じられなかった。


 本当に、死んで、いるのか?

 一秒前まで、隣で動いていたのに?


 まだ、こんなに温かいのに?


『『『クヒャハハハハ! ざまあ、ざまあ見やがれ! 俺様を馬鹿にした報いだぁぁッッ!!』』』


 不愉快極まりない声が、耳朶を打つ。

 ……それ以上、喋るな。


『『『ヒヒ、クヒヒ! 白目剥いて死んでらぁぁ! 間抜け、間抜けな死に顔! こりゃ笑うなぁぁ!!』』』

「ウアアァァァァ!!」

『『『ぅおぁ!?』』』


 気が付くと俺は地を蹴り、大きく跳躍していた。

 跳躍の到達点から、ケルベロスウェポンと紅呉魔流をギドラの身体に交互に突き刺し、その巨体を上へ上へと昇って行く。


 突き刺し、抉る。

 突き刺し、抉る。


「「「ギギャアアアアアアアアアア!!」」」


 噴き出す血と、咆哮。

 怒りで頭に血が上っているのか、視界の中で赤い火花が散っているような感じがする。


 突き刺し、抉る。

 突き刺し、抉る。


 俺は魔王を、殺す。


「魔王ォォォォ!!」


 剣でひたすらにエンシャントギドラの身体を傷つけながら、魔王の身体のある胴体付近の高さまで登っていく。


 魔王の薄汚い姿が見えたところで、突き刺した紅呉魔流を足場にし、跳躍。

 両手持ちしたケルベロスウェポンを、柄が折れるほどに握り締めて、振りかぶる。


 ヤツを、ルルリラを殺したコイツを、千切り散らす。


『『『目障りがぁぁぁぁ!』』』

「がは!?」


 刹那、ヤツの身体から伸びた腕が、大剣を両手で振りかぶって無防備な俺の腹に直撃する。

 口の中が、血にまみれる。


 が。


「ウガァァ!!」

『『『な、なんだとぉ!?』』』

「オラアアアア!!」


 関係ない。

 アドレナリンに物を言わせ、筋力でねじ伏せる。


 魔王の腕を折り、抉り、千切る。


『『『しつけぇぇ、しつけェェェェ!』』』

「ぐふっ!」


 次は、別の腕が飛んでくる。

 血反吐が口から溢れる。


 が、関係ない。


 臓腑が破けるのなら、破ければいい。

 肉が裂けるなら、裂ければいい。

 骨が砕けるのなら、砕けるがいい。


 どうなろうとも俺は。

 ヤツを――殺す。


「ヌンッ!!」

『『『がはぁぁ!?』』』


 俺は腕の筋が全て引き千切れるぐらいに力を込め、ケルベロスウェポンを魔王の喉元めがけて投げつけた。


 この世で一番汚ない血飛沫が上がった。


『『『い、痛ェ! クソがクソがクソがぁぁ! し、しつけぇんだよ、いい加減死に腐れよ!!』』』


 そこで魔王はたまらず魔法を使った。

 臓腑が弾けるような熱を帯びる。ヤツの得意魔法『破裂』だ。『デスドミネイション』は連発できないらしい。


 なんだろうと、関係ない。


「もっと痛みを知れッ!!」

『『『がああああぁぁ!? い、痛ェ痛ェェェ!?』』』


 俺は身体の一部を吹き飛ばされながらも再び飛び、自ら突き刺したケルベロスウェポンの柄を“踏んで”、ヤツの身体に押し込んだ。


 もっと、深く。

 痛みを味わわせる。


『『『は、離れろォォ! 痛ェんだよォォォォ!!』』』

「ギギャアアアアアアアアアアアアア!!」


 激しい痛みに顔を歪めた魔王が、金切り声で叫ぶ。

 それに呼応して、エンシャントギドラが六翼を羽ばたかせる。ダメージからなのか、飛び立つつもりかもしれない。


「お前みたいな、他人の痛みを想像できないヤツには、俺がそれ以上の痛みを教えてやる」

『『『うざってぇ、うざってぇんだよ!』』』


 ギドラの三つ首が規則的な動きで、魔力を溜め込むような動きをした。

 さらに、眼前の魔王が色濃い魔力を帯び始める。


 タメが終わった?

 まさか――。


『ヘルバーニング』と『デスドミネイション』の同時攻撃か?


『『『全部、消し飛ばしてやる!!』』』


 怒りで迸っていた熱が引き、冷静さを取り戻す。

 そうして瞬時に、状況判断する。


「みんな! 魔法障壁を張れる人は、全力で発動させるんだっ!」


 俺は咄嗟に“一つの決意”をし、ギドラの足元の皆へ向けて、喉が破裂せんばかりに叫ぶ。


「アリアナ、シェリ、ユースティナ、ヴァン! 魔法を使えない人たち、ルルリラを頼む!」

「は、はい!」「わかったわ!」「なに!? どうする気!?」「どしたんだよ、レオン!?」


 みんなの慌てた様子が見えたが、時間がない。

 回復したクロエが、戦場を疾風の如く駆けているのが見えた。


 ……クロエには、“意図”が悟られたのかもしれない。


 これ以上、大切な誰かが死ぬぐらいなら。

 俺は――


『『『お、おいテメェ、何する気だ!?』』』

「これで終わりだ。俺と木っ端微塵になってもらうぞ」


 魔王が何かを感じたのか、焦ったような奇声で叫ぶ。


『『『ま、まさかテメェ、自爆する気か?!』』』

「そのまさかだ。消し飛べ」

『『『や、やめろぉぉ、やめろぉぉぉぉ!! 冗談じゃ――』』』


 エンシャントギドラの巨躯に張り付いたまま、俺は()()を発動させた。


「――『シャングリラ・ディストラクション』」


 魔王よ。

 俺と、消えてなくなれ。


「――――」


 次の刹那。

 辺り一面を、真っ白な閃光が包んだ。



:【知力】が上昇しました

:【魔剣王】の職業熟練度が上昇しました

:【魔法狩猟師】の職業熟練度が上昇しました

:【ジャンパー】の職業熟練度が上昇しました



:【シャングリラ・ディストラクション】が発動されました




貴重なお時間をこの作品に使ってくださり、ありがとうございます。

読者の皆様の応援が書く力になっています!

更新がんばります!

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