夢の中で見たとても恐ろしい黒髪の美女の話
これは今日見た夢の話。
俺はとても暗い通路に立っていた。
古びた学校の中だろうか、横を見れば教室のような場所へ繋がるガラス窓がある。
また反対側を見れば、月光に照らされた大地が見える。
全く知らない場所、だがどこか懐かしさと……恐ろしさを覚える場所。
「…………」
結構高い場所に居るな、とそんな風に考える暇も余裕も今の俺にはなかった。
俺の目線の先には絶世の美女……美少女? が立っていた。
年齢は幾つくらいだろう、17歳か18歳。
それくらいに見える。
黒を基調にした、首筋に僅かに白が入った古めかしい制服を着た美少女。
「……ふふっ」
そんな彼女は膝まで伸びる黒髪を微かに揺らしながら、その人は微笑んだ。
それだけで、俺の心臓が高鳴る。
彼女の声はまだ一度しか聞いていないのに、脳の奥で反芻され俺の記憶に極上の音楽かのように刻み込まれていく。
「あ……」
暗闇の中で赤く光る彼女の目から目が離せない。
自分の喉が、本能では話しかけてはいけないと思いながらも声を絞り出す。
そうしている間にも、彼女の輪郭が闇に溶けていく。
声をかけてはいけない、追ってはいけない。
本能が叫ぶ、だが止められない。
「待って……!」
闇に溶けていく彼女を追おうと、俺は右手を前に出し一歩足を踏み出す。
だが彼女はそのまま消えてしまい、右手の先には闇だけがあった。
「…………」
彼女を捕まえられなかった残念さと、それを上回る安堵の息が胸の奥から口を通して吐き出される。
これで良かった。
理由は分からないがそう思った。
「なぁに?」
「……っ!?」
急に後ろから、いや顔の左側から声を掛けられ俺は驚きで声を上げようとした。
だがまるで金縛りにでもあったかのように体は動かず、引き攣った声だけが校舎に響く。
ふわりと、彼女の匂いが鼻孔に届く。
甘い……思考を溶かす忌まわしい匂い。
「あ、か……っ」
声が出ない。
彼女の匂いを、声を、存在を認知するほど体や意識が重くなっていく。
先ほど伸ばした俺の右手は、石になったかのように動かなくなっていた。
「ふふっ、捕まえた」
彼女の細い指が俺の背中から右腋を通って、俺の右手の掌へ到着する。
そして彼女の残りの指が、ゆっくりと俺の右手を包み込んだ。
暖かく、だが温い液体のような彼女の手。
女性特有の柔らかさと、それとは別な……まるで濁り腐りきったような水とでもいうかのようなとても不愉快な感触。
「き、きみは……うっ!」
俺がやっとの思いで絞り出した声。
だがそれはすぐに背中を強く押す何かによって、呻き声へと変わった。
「ふふふ……」
俺の背中を押すもの、それは彼女の指だった。
ボールペンの先を背中に押し当てられるような痛みと息苦しさを感じる。
「や、やめ……て……」
本能的に感じる、捕食者と相対した時の獣のように弱弱しい気持ちで俺は命乞いをするように彼女に告げる。
それを聞き、彼女の指が俺の背中から離れた。
「あ、ありが……ぐっ!」
だがすぐに彼女の指が先ほどよりも強く、俺の背中に突き刺さる。
それも一か所だけでなく、背中のあらゆる部位を。
そのまま俺の背中を貫いてしまうかのような強さで。
「や、やめ……」
「だめ」
「あぁぁぁ、がぁぁぁぁああっ!」
彼女の艶やかな声が、俺の悲鳴を否定する。
俺の体が彼女に押され弓なりに曲がり、そして……貫いた。
「はぁっ、はぁっ、はぁっ……!」
体を貫かれた瞬間、意識が途切れ俺は自分の部屋で目を覚ました。
荒い息を吐きながら、右側で目覚めの時刻を告げる携帯に目をやる。
「ゆ、夢か……」
右手を伸ばし、携帯を手に取りアラームを止める。
そして、少しだけ落ち着いた呼吸を整えるために深く息を吸い、吐く。
「クソ怖かった……顔はめちゃめちゃいい女だったけど二度と会いたくないな」
そして布団から起き上がるために右手を地面についた時、俺の右手と背中に何かが覆いかぶさった。
「逃がさないから」
これは、俺が今日見た美女の夢
その続き。