スマホ ミコの場合
「いくよー、ポーズとって~!」
スマホに起動したカメラ画面にみんなの笑顔が映る。かわいい。
すぐに黄色い四角が3つ、それぞれの顔を囲む。補正もバッチリ。
みんなのポーズも決まったみたいだし、シャッターボタンに指をかける。
「はい、チーズ!」
シャッターが下りる少し前に、黄色い四角がもう一つ出現したけれど、気にせず押し切る。
撮った写真をチェックすると、みんないい感じで写っている。思った通り、かわいく撮れている。
ボタンを操作して共有メニューを出す。
「いま送るから」
LINEグループに写真をアップする。
みんな、それぞれにスマホを見て確認している。
「かわいい・・・・・」
「うん・・」
「あれ・・」
「・・・」
「・・・」
「・・・」
3人とも食い入るようにスマホ画面を見ている。
動きが止まった。
「・・・どうしたの?」
「ねえ、ユッコの写メ見せて」
「うん」
「やっぱり、そうだよね」
「うん、そうみえる」
3人でスマホを見せ合ってうなづいてる。
「えっ、なに?」
アケミがこっちを見る。
「ミコ、写真見て」
「アケミの右後ろ、写真だと左上になるのかな」
言われた通り、送った写真をみる。
スマホを横にして写真が画面いっぱいに広がるようにする。
アケミの左上を見ると、うっすらと影のようなものが写ってる。
じっと目を凝らすと、人の顔に・・・見えなくもない。
顔の周りの黒いところは髪の毛だろうか。
長いロングストレート。人形みたいなパッツンと切った髪型。
目をぱっちり開いて、口角・・・があがっている。ひょっとして・・・。
「サワコ?」
「・・・うん」
「見えるよね」
「・・・・」
サワコ・・・。
私たちは、ちょっと前は5人だった。
つい先月、冷たい雨が降る中で葬儀があったばかりで、写真の影はサワコに見えた。
サワコは修学旅行を楽しみにしていた。私も、みんなもだけれど。
自由行動の日、5人でどこへ行くのか、家に集まって話し合った。
部屋のテーブルは、お菓子やジュースであふれた。
学校のプリントやガイドブックは、床にちらばっていた。
母が部屋の惨状を見てあきれかえっていた。
あっという間に夜になった。
何度も集まった。
「楽しみにしていたよね」
「そうだね」
「・・・」
みんな、スマホをじっと見ている。
「もし、いっしょだったら、もっと楽しかったと思う」
「うん」
「・・・」
「でも、これ、いっしょなんじゃない」
「あっ、ある意味、いっしょだね」
「いっしょに修学旅行?」
「いっしょを楽しむのも、アリなんじゃない」
「・・・」
「そうだね」
「・・・うん」
「サワコ」
スマホの画面、サワコのいるあたりを撫でる。
スマホから目を離し、みんなを見る。
うしろに見える清水のまっすぐな柱が、少し歪んで見えた。
5人の修学旅行。今からみんなで。