もふもふ2
朝の食事を終え、皿に洗浄魔法をかけながら、ついでに家中にも洗浄魔法をかけておく。
わりと広めの家の中は毎日洗浄魔法をかけている。
洗濯こそ自分でするが、掃除の類いは魔法で済ませてしまうので、本当に便利で助かる。
わっふわっふと足元にすりよるシルバーを避けながら、外にいる魔獣たちにもご飯を持っていく。
アーチ型の玄関扉を開け外に出ると、大型の動物や遊んでいた魔獣たちがワラワラと寄ってきた。
基本的に大きな動物や魔獣は外にある敷地内の二つの小屋で生活しているが、大体は皆外で自由にしている。
箱庭自体広い亜空間になっているので、家から小屋までぐるりと囲んでいる木の柵の奥、森に続いているのだが、わりと皆好きに散歩などして楽しんでいる。
その森も外の森とは違い、他の魔獣が出ることも人間が入ってくることもない。
怪我が治った魔獣たちはなるべく外に戻すようにしているが、彼らの中に戻ることを拒否して箱庭に居続けることを選択するものもいる。
そうした子達の場合は無理に帰すことはせず、好きにさせている。
普通の動物たちの場合はこちらからあちらに帰す方法がわからないので、箱庭にやってきた動物たちは全員箱庭で暮らしている。
シルバーの場合はまた赤ん坊の時に親から離れ、息も絶え絶えで弱っているところを保護したのだが、狩りの仕方も、過酷な森を生き抜く方法も人間のルチアーナではきちんと教えることができず、このまま帰しても一匹で生きていくことは難しいので二歳になる今の今まで箱庭で暮らしている。
土地柄魔獣に遭遇することも絶対ない砂漠に囲まれた国に育ったルチアーナは、あまり魔獣については詳しくないのだが、幼い頃から人間に育てられたせいかシルバーは魔獣らしくない魔獣だった。
よく悪戯をして己よりも小さな柴犬のサスケに叱られているし、大抵何かをして他の魔獣や動物に諌められている。
今も狸にしつこく絡んで鼻先を齧られ、きゃん、と鳴き声を上げていた。
「シルバーおいで。裏庭にトマト採りにいこ。」
狸のポンを抱き上げながらシルバーに声をかけると、彼は真ん丸の瞳を輝かせ我先にと走っていってしまった。
「あー、もう。走らなくてもトマトは逃げないよ!」
『あいつ、うるさい』
「そこがいいとこよ」
ポンの愚痴に答えれば、表情こそ動物なのでわからないが、どことなく嫌そうな雰囲気を醸し出す。
『るちあ、あいつにあまい』
「そうかもね」
思わず笑いをこぼして、ポンの頭部を撫でた。
どうしてか、昔から微かにだが動物たちの声が聞こえた。
この世界の人間に関わるつもりがないので、これがルチアーナだけの能力なのか他にも聞こえる人間がいるのかは定かではないが、まあ便利なのでむしろ好都合である。
ポンを抱えたまま裏庭に向かうと、突然サスケが走ってきた。
『るちあ、まて』
「え、何?どうしたの?」
目の前でルチアーナを庇うようにして回り込んだサスケが、珍しく鼻先に皺を寄せて唸っている。
『なにかいる』
「何かって、また魔獣か動物?」
『ちがう』
否定され、いっそう訝しむ。
動物たち以外にここにはこれないはずだ、一体何が居るというのか。
基本的にここにはルチアーナにとって危険になるモノは来られないようになっている。それなのに、何故?
ポンを下ろし、指先に氷の刃を作る。
そして思い出す。
「あ、シルバー!」
急いで裏庭の畑に向かうと、畑の奥に尻尾を振りながら何かの匂いを嗅いでいるシルバーがいた。
「シルバー、ダメ!」
『あ、るちあ!』
状況を理解していないシルバーは呑気な声を上げながら、鼻先で地面に居るナニかを押していた。
『なんかいるー』
そのナニかは意識がないのか動かない。野菜に埋もれ、見えずらいそれに恐る恐る近づいたルチアーナは、視界に入ったそれを理解した途端、思わず間の抜けた声を漏らした。
「え、なんで?」
………そこに倒れていたのは、人間の男であった。




