プロローグ
初めての連載です。息抜きのために書きました
何が悪かったのか。どこから間違ってしまったのか。
国のために力を貸してほしいと言われ、頷いてしまったことがそもそも過ちだったのだろうか。
それとも大きな力を持って産まれてきてしまったことがいけなかったのか。
どれも自分が望んだことではないけれど。
硝煙の匂いと、ねっとりとした血の臭いに包まれながら、少女は虚ろな眼差しで空を見つめた。
肉を焦がした異臭も、戦場の生活でいつしか慣れてしまった。
絶叫も慟哭も悲鳴も阿鼻叫喚とした風景が日常になり、最早平穏な日常が非日常となった。
己の腕に抱いている小さな命も、また日常に死んでいく。
まだ温かいこの小さな体も、数分もすれば冷たく、硬くなっていくのだ。
彼はまだ12歳だというのに。
16歳の少女とほとんど変わらない背丈の、まだ子供の彼が、誰に守られることもなく、親に見守られることもなく、武器を持って、そして死ぬ。
これから色々な可能性を秘めている小さな命が、楽しいことも、驚くようなことも、恋愛をすることも、学ぶことも、きっと沢山経験できたはずなのに、何も知らないまま召されるのだ。
どうしてだろうか。思わず笑い声が零れた。
何も面白くなどないのに。
唇が勝手に吊り上がり、肩が震える。意思に反して高らかで軽快な笑い声が、惨状と化した地に響いた。
「死ねぇぇ、この悪魔がぁぁぁぁ!」
背後で倒れていたはずの青年が、突如力を振り絞り剣を振りかざした。
片方の腕がちぎれかけているというのに、どこからそんな力がでるのか。
哀れだと、少女は思った。
国のためという大義名分のもと、若い命がその身を散らす、そんな国のあり方で、平和な幸福など訪れるものか。
皆、戦争に行く者は哀れだ。戦争をする国は哀れだ。
自分も、彼も、敵兵の青年も。
敵味方関係なく入り乱れた死体の山に囲まれながら、少女はゆっくりと指先を青年に向けた。詠唱もなく、イメージのまま、指先から放たれた風の刃が青年を貫く。
ごぷり、と青年の唇から赤が零れる。
鮮烈な、赤。
「じ、ごくに、おち、ろ……」
微かな息と共に聞こえてきた声に、少女は嗤った。
地獄なんてどこにもない。だって、最早地獄はここにある。
「なんで…」
どこから間違えてしまったのだろう。
戦争に手を貸したことか。それとも大きな力を持ってしまったこと。
もしくは、
産まれてきてしまったこと?