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毒殺される悪役令嬢ですが、いつの間にか溺愛ルートに入っていたようで【小説・コミックス発売中☆タテスク連載中!】  作者: 糸四季
大神官と神殿騎士の章

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第九十五話 不安と地震

大っっっ変!! お待たせいたしました大遅刻―――!!!


【side???】



 暗く冷たい水の中で眠りながら感じていた。ドロドロとした、醜く澱んだ何かが自身に流れこんでくるのを。


 静かに浸食されていく。ゆっくりと穢れが広がっていく。

 身の内を焼かれるような苦痛に悶えながらも、目覚めることが出来ない。歌が、聴こえないから。


 一体いつからだろう。

 彼らの歌声が聴こえなくなったのは――…。






【side Olivia】



三日ぶり、しかも夜遅くに侯爵邸に帰ってきた父は、疲弊しきって見えた。

父が入浴を済ませた後、執事の代わりに私がワインと軽い食事を父の部屋に運ぶと、力のない笑みで迎えられた。



「オリヴィア。家を空けてすまなかったな。変わりはないか?」


「はい。お父様。私も、この家も変わりありません」


「そうか……」



 一度私を抱きしめた後、父は私をソファーに促した。一緒に運んできたハーブティーを酒代わりに、父の晩酌に付き合うことにする。

 ソファーに深く腰かけた父の瞳には、はっきりと憂いの色が浮かんでいた。



「それで……国王陛下の御容態は? 王宮はどのような状態なのでしょうか? ノア様は大丈夫なのですか?」


 父はワインを飲むと、厳しい顔でため息をついた。


「国王陛下の容態はいまだ安定せず、危険な状態が続いている」


「そうですか……。陛下は、その、何かご病気が?」


「わからない。王宮医総出で診ているはずだが、何せ情報が回ってこない。どうも王妃が陛下の側を自分の派閥の人間で固めているようだ」



 王妃・エレノア。前世の記憶にある乙女ゲーム【救国の聖女】では、真のラスボスだった存在。

 この世界でもノアと私の命を狙っている毒婦。恐ろしい女だけれど、彼女はこの国の王妃だ。誰より容易く王を害することができるのはエレノアだろう。



「それでは陛下の御身はますます危険なのでは?」


「だろうな。それを危惧した王太子殿下が何とかしようと奔走されているが……」



 婚約者である王太子・ノアがここで出てきて、私の心臓がギュッと収縮する。

 正直に言えば国王よりもノアが心配だった。



「陛下が不在の今、王宮は王妃と殿下の派閥の対立が表面化して通常の状態にはない。末端の文官から議会の代表者たちまで、睨み合いが続いている。国政も立ち行かなくなってきた。騎士団に至ってはいつ武力衝突が起きるかという緊張状態にある」


 父の声が重く響き、思わず私の喉が鳴る。


「それほどまでに……。ノア様は、大丈夫でしょうか」


 私の問いかけに、父は少し間を置いてから頷いた。


「殿下はお強い。それに以前と比べ殿下を支持する人間も増えた。警護面では騎士団総団長のブレアム公爵は王族派だからな。全力で殿下をお守りしているが……近衛騎士団の隊長は貴族派だ。ほとんどの近衛は王妃側についている。安全とは言い切れないが、それでも殿下はこの状況に立ち向かわなければならない」



 父の言葉に、私は少なくはないショックを受けた。

 ノアが危険な状況にいる、ということにではない。父が、彼をすでに次の国王として見ていることに、だ。

 もちろんノアは王太子であり、幼少期から次期国王であることは決まっていた。

 けれど、彼はまだ私と同じ十六歳。学生なのだ。政務をこなしてはいても、私はまだ彼を子どもだと認識していたことに気づいた。それは婚約者である自分も同じ。

 卒業まで三年あり、まだまだ子どもの立場でいられると、そう考えていたのだ。


 私は覚悟が出来ていなかった。しかしショックを受けている場合ではない。



「何か、私にできることは?」


 ひとり王宮で戦っているノアを想い、覚悟を決めて尋ねれば、父は鷹揚に頷き言った。



「お前がすべきことは、不用意な言動は慎み、身の安全を第一に考えることだ」


 父の答えに、思わず沈黙で返してしまう。


「……お父様。私もそこまで愚かではありません」


「愚かだとは思っていないが、無鉄砲だとは思っている」



 過去の自分のあれこれを思い出してしまい、ぐぅの音も出ない。

 父は苦笑しながら、私に封筒を差し出した。



「王太子殿下からだ。未来の国母として、よくよく考えて行動しなさい」



***



 自室に戻り窓辺に立つと、夜空には静かに星が瞬いていた。

 美しい星空を見ると、やはり思い出すのはノアの特別な瞳だ。


 学園で、国王が倒れたと報告を受けた時、ノアが動揺したのは一瞬だった。

 いや、内心はきっと激しく動揺していたのだろうけれど、王太子として彼はそれを周囲には見せないようにしていた。



『王宮に戻る』


 硬い声で言い、立ち上がったノアの袖を思わず私は掴んで止めた。


『ノア様……』


『オリヴィア。……大丈夫だ。後で連絡する』



 ヴィンセントから離れないようにと私に言い聞かせ、ノアはユージーンとともに王宮へ急ぎ戻っていった。

 その背中を見送りながら感じた、言い表しようのない不安まで思い出し、体が震える。


 ため息をつき、手紙の封を切った。

 手紙に移った微かなノアの香りに、恋しさが募るのを感じながら読み進める。


 手紙の内容は、私の周りに変わりはないかという心配と、会いたくてたまらないという情熱的な言葉の数々。

 そして、国王陛下の意識がいまだ戻らないという報告だった。



「二日後に迎えを送る……神子として、国王陛下の状態を診てくれないか……?」



 私に神子として診てほしいということは、やはりノアは、王妃が国王を毒殺しようとしたのではないかと疑っているのだ。

 王妃に毒で命を狙われ続けているノアがそう考えるのは当然のこと。私も真っ先にその考えが浮かんだ。

 もちろんノアの要望には応えるつもりだ。国王が倒れた原因が毒なら、私の毒スキルで助けることができる。

 それに国王以上にノアが心配だった。精神的な状態もだが、ノアも知らないうちに毒を盛られてはいないか、しっかり確認しておきたい。

 国王を排除した後、王妃が次に狙うのは今度こそノアの命だろうから。


 それにしても、私を呼ぶのがこんなにも遅くなったのは、王妃が国王の周りを固めているからだろうか。私が王宮に行ったところで、国王に会うことはできるのだろうか。

 ノアがこうして手紙を寄越したのだから、きっとそういった場を設ける算段がついたのだろうけれど。

 考えこんでいるとノックの音が響き、専属メイドのアンがティーセットを運んできた。



「お嬢様。ご入浴は本邸と離れ、どちらでなさいますか?」


「そうね……今日はこっちで入るわ。ラベンダーのバスソルトを用意しておいて」



 シロが作ってくれた離れの大浴場も良いけれど、入浴剤を選んで楽しみたい時はここの浴室を使っている。温泉のデトックス効果に文句はないけれど、入浴剤だって負けてはいない。

 ドライハーブを使ったオリジナルのバスソルトは、ラベンダーだけでなくローズマリーやカモミール等色々揃えている。天然塩には発汗・保温作用があり、血行が促進されデトックス効果が高い。

 そこにラベンダーのリラックス・美肌に保湿作用が加わって素晴らしいデトックス入浴剤の完成だ。天然塩にドライハーブを混ぜるだけなので簡単だし、瓶に生花も加えれば華やかになって、貴族向けの商品にもなる。もちろん発売済みで、化粧品と並び人気商品だ。



「今夜は寝つきが悪くなりそうだから、リラックスしたいのよね」


「心配事ですか。大丈夫ですよ、お嬢様。大抵の悩みはお金で解決できますから!」


 あまりにもアンが自信満々で言い切るものだから、肩から力が抜けて笑ってしまった。


「……アンといると、悩んでいる自分がバカらしくなってくるわ」


「いえいえ、それほどでも」


「褒めてないか――っ⁉」



 突然床が大きく揺れ、慌てて椅子にしがみつく。

 目眩かと思ったけれど、棚の化粧品や装飾品が音を立てて床に落ち、アンが悲鳴を上げる。目眩ではない。地震だ、これは。



相変わらずやなアン……と思った方は、ブクマや広告下の☆☆☆☆☆評価をぽーち!!


12月1日、ビーンズ文庫より毒殺令嬢2巻が発売されます!!(遅ー!!)

文庫書き下ろしだけでなく、アニメイトや電子の特典SSもがんばったので、ぜひぜひ読んでみてください^^

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