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毒殺される悪役令嬢ですが、いつの間にか溺愛ルートに入っていたようで【小説・コミックス発売中☆タテスク連載中!】  作者: 糸四季
騎士と側近の章

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第九十一話 王太子殿下のウラオモテ


 新たに現れた魔族の男は、私たちの顔を順繰りに眺めると、最後に私で視線を止めた。

 先ほど消された雌型の魔族よりもずっと禍々しい、真紅の瞳。その視線だけで呪い殺されてしまいそうだった。



「……お前が神子か」



 呟きと共に魔族の姿が一瞬消える。

 次の瞬間には、ゾッとするほど整った美貌が目の前にあった。

 真っ黒な長い爪が、私の顎をくいと持ち上げる。



「毒を扱う神子か……面白い」


「貴様! オリヴィアから離れろ!」



 雷を帯びたノアの剣が魔族を突き刺す。

 だが刺されたと思ったのは魔族の残像で、本体は再び宙へと移動していた。



「殿下。雌型の魔族よりかなり流暢に人語を扱っています。あれはかなりの上位魔族です」


 ユージーンの囁きにノアが頷く。


「大公と呼ばれていたな。まさか神話に出てくる、四大大公のひとりか?」



 私もその神話は知っている。学園の授業でも取り上げられるが、絵本としても広く読まれているおとぎ話のようなものだ。

 神様……つまりデミウルや、デミウルの創った世界、精霊や生き物、そして魔族も登場する。魔族の章では魔神やら魔王やら、存在するのかも怪しい存在が書かれているが、そこに四大大公と呼ばれる魔族も記述されていた。

 魔族に群れる習性はないが、強き者には絶対服従の世界らしく、大公には魔族を統率する力があるという。

 神話には大公が軍勢を率い、人間の国をいくつも滅ぼしたとある。全ての魔族の頂点が魔王。その直属の部下が四大大公なのだ。

 だが、あくまでも神話。おとぎ話の中でのことである。本当に大公という存在がいるのかは誰も知らない。


(前世の記憶でも、救国の聖女に大公が出てくるようなルートはなかったはず)



「お前が人間と契約している魔族か! 目的は何だ!」


 ノアの問いかけに、魔族は表情ひとつ変えず答えた。


「いずれわかる。わかったところで遅いがな」


「何を企んでいる!」


「何もかもが遅い。この国の、破滅の時は近づいている。もう誰にも止められはしない」



 どこからともなく現れた黒い霧が魔族を包む。

 霧が闇のように濃くなり、魔族の体を飲みこんでいき、最後に闇の隙間から真っ赤な目が私を捉えた。



「神子。お前にも、だ」



 不吉な言葉を残し、大公と呼ばれた魔族は闇の中に消えていった。

 雌型の魔族も塵となり、血の一滴すら残っていない。

瓦礫の山と化した住宅街に、しばらく無言で立ち尽くしていた私たちだけれど、街の衛兵が大勢駆けつけてきたことで、ようやく緊張をほどくことができた。

 ノアたちが剣を鞘に戻し、私を気遣うように囲ってくれる。



「大丈夫かい、オリヴィア」


「はい。私は大丈夫で――」



 笑顔で大丈夫と答えようと、自分の頬に手を当てた時、頭の中に電子音が鳴り響いた。



————————————


【オリヴィア・ベル・アーヴァイン】


 性別:女  年齢:16

 状態:毒酩酊  職業:侯爵令嬢・毒王new!・神子


‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥


《創造神の加護(憐み)》


 毒スキル

 ・毒耐性Lv.4

 ・毒吸収Lv.3

 ・毒解放Lv.1 new!


————————————



 現れたステータスウィンドウに一瞬体も思考も停止した。

 スキルレベルが上がりすぎだし、やっぱり新しいスキルが追加されているしその内容も気になる所ではあるけれど。それよりも何よりも……。


(いや、毒王って何!?)


 毒遣いから一気にスケールアップした感に、目眩がした。

 それともこれは毒酩酊状態だからか。酔いが回っているのか。わからないが、もう細かいことはどうでも良かった。



「オリヴィア!?」



 全力で現実逃避を望んだ私は、その場で卒倒してしまったのだった。





「騎士ヴィンセント・ブレアム。卿の王太子妃専属護衛の解任を命ずる」



 目の前で仰々しく書簡を読み上げた婚約者に、私は唖然として固まった。

 ここは王太子宮の一室。

 三年前、離島に行く前に私が寝起きしていた部屋だ。

 魔族が消え去った後に倒れた私は、目覚めるとこの懐かしい部屋のベッドに寝かされていた。

 どうやら聖女にすぐ回復魔法をかけてもらえるよう、侯爵邸ではなく王宮へと運ぶようノアが指示したらしい。

 ちなみに聖女と父は目覚めた時偶然傍にいたので会っている。

 セレナには心配したと泣かれ、父には無茶ばかりすると怒られた。離島にいた方が安全だったのでは、とぶつぶつ言っていたので、次何かあれば強制的に離島に戻されそうで怖い。

 そして父たちと入れ替わりにノア、ユージーンが見舞いに来てくれたのだけれど、私の無事を確認するなり、入り口にいたヴィンセントを呼びつけ書簡を読み上げたのだ。



「ノ、ノア様……? 急に何を?」



 ベッドの上から恐る恐る尋ねる。

 ノアは表情を消したままヴィンセントを見据え続けている。



「卿は王太子妃を重要参考人の監禁場所へと連れて行くだけでなく、危険な行為を容認した」


「い、いえ。あの、それは私が勝手に提案したことで……」


「結果、護衛対象は生命を脅かす状況に陥った。この責任は重い」


「仮死状態にはなりましたけど、私は毒では死にませんし、この通りぴんぴんしていますし……」


「よって卿はこの責任をとり護衛騎士の位をはく奪。新たに国境警備の軍への配置を命ずる。生涯辺境にてその身を費やし懺悔せよ」


「罰が重い! ノア様、私の話、聞いていらっしゃいます?」



 あまりにも淡々と告げるノアに我慢できず、ついツッコミを入れてしまった。

 ようやくノアが私を見て、やれやれとばかりに首を振る。



「オリヴィア。僕はこれでも情状酌量の余地を与えているんだよ」


「まったく余地が見当たりませんが」


「いいかい。君を危険に晒したのもそうだが、何より僕の婚約者の口づけを僕の許可なく受けた罪は万死に値する」


「口づけって……そっち?」



 業火坦の執念深さを舐めていた。

 雌型の魔族よりも更に強い魔族、大公と呼ばれていた存在の出現でうやむやになったかと思っていたのだが、甘かったようだ。



「そもそも許可など未来永劫誰にも与えるつもりはないけどね」


「本音も建て前もひどすぎる……」



 救いを求めてユージーンを見たが、見事に視線を逸らされてしまった。

 こら、異母兄弟が上司のパワハラで飛ばされそうなんだぞ。薄情者。


王太子は本気ですが作者的にはコメディです。

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