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毒殺される悪役令嬢ですが、いつの間にか溺愛ルートに入っていたようで【小説・コミックス発売中☆タテスク連載中!】  作者: 糸四季
騎士と側近の章

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第八十九話 悪役令嬢の目覚める力

読者の皆さまの読みが鋭すぎてつらい(腹筋的に)


【毒の吸収に成功しました】

【経験値を500獲得しました】




「オ、オリヴィア、様……?」


 私を見上げるヴィンセントの、動揺したレアな表情。

 その無防備な様子に思わず「まあ可愛い」と口にしてしまいかけた。

 だがそれより先に、背後で眩しい光とともに激しい雷鳴がとどろいた。

 振り返ると、バチバチと全身を帯電させたノアが、こちらを睨みつけ青みがかった黒髪を逆立てていた。

 その姿はさながら魔王のようで、私は震えあがる。



「ヴィンセント……貴様、オリヴィアに何をした……」



 魔王様が激おこである。

 というか、何かしたのは私であって、むしろヴィンセントはどう考えてもされた側なのだけれど。



「ノ、ノア様。いまのはその、ただの治療というか――」


「返答せねば殺す。返答次第ではやはり殺す」



 まずい。私の声がノアに聞こえていない上に、ヴィンセントの選択肢がどれを選んでも死亡エンドだ。攻略対象者なのに。

  王都の上空に雷雲が渦を巻くように集まっていく。まるでこの世の終わりのような光景だ。ヴィンセントを連れて地の果てまで逃げるべきか、一瞬本気で考えた。


 冷静な判断を失ったノアが、こちらに剣先を向けかけたとき、ユージーンを攻撃していた魔族が夜空に向かって咆哮した。

 大きく広げられた両翼が、月明かりの下で弾けた。羽が無数に飛び散ったのではなく、内側から爆発したかのように弾けて霧散したのだ。

 血肉が細かな粒子となって宙を舞い、魔族の周囲に集まったかと思うと、次の瞬間一気に私たちに襲いかかってきた。

 電子音と警告ウィンドウの嵐に、頭が真っ白になる。


(私は毒では死なないけれど、ノア様たちが……!)


 避けられない、と直感したとき、肩を引かれると同時にヴィンセントが飛び起きた。そのまま勢いよく剣を地面に突き立てる。



「ノーム!」



 とんがり帽子を被った小さな精霊が、ヴィンセントの肩に現れた。

 途端にヴィンセントの体が強く輝き、剣を突き立てた地面が大きくひび割れた。そこから勢いよく、岩の柱が私たちを守るように次々と立ち昇る。



「ヴィンセント卿! 目は!?」


「あなたのおかげで痛みは消えました、オリヴィア様」



 私を振り返りそう答えたヴィンセント。

 そこには眩いばかりの笑顔があった。初めて見るその表情に見惚れかけたとき、防ぎきれなかった赤紫の粒子が上から襲い掛かってきた。

 だがそれらを、ヴィンセントの岩柱もろとも、天から降り注いだ雷の雨が蹴散らした。



「……まだ返事を聞いていないぞ、ヴィンセント」


「ノア様!」



 崩れる岩の向こうから、魔王様がバチバチと帯電しながらこちらに歩いてくる。

 無事だったか、という安心よりも恐怖が若干勝る。正直、魔族よりよほど怖い。



「殿下! バカげたことを言っている場合ですか!」



 風の精霊グリフォンに乗って、ユージーンが私たちの間に降り立った。

 今日ほどユージーンの存在をありがたく思った日はない。冷静を欠いているノアをどうにか正気に戻してほしい。



「バカげてなどいない。オリヴィアにまつわること以上に重要な事柄など存在しないだろう」


「仮にも未来の国王が口にしていい台詞ではありませんね!」



 呆れと怒りがないまぜになったようなユージーンの声に、私は内心全面同意する。

 業火坦の天秤が私側に振り切れがちなのはどうにかすべきだと思う。

 ノアとユージーンが言い合っていると、魔族がぶるぶる震えながら私を見て口を開いた。



「ナゼイキテイル、コムスメェ……!」


「あなた程度の毒じゃ、私には効かなかったみたいね」


「アリエナイ!」


「じゃあまた私を狙ってみればいいじゃない」



 毒の攻撃を私に集中させようと挑発すると、魔族は怒りを爆発させたように両腕を振り上げた。



「ニンゲンゴトキガ! コロス! コロシテヤル!」



 魔族の背中から流れた血でできた血だまりが、魔力を帯びてゆっくりと浮かび上がる。

 綺麗な球体となった血の塊。そこから突然目にも留まらぬ速さで、鋭い棘が伸びてきた。

 槍のようなその攻撃が私に届く寸前、激しい金属音が上がる。私を守るように、目の前にノアとヴィンセント、ユージーンが剣を構え立っていた。



「魔族ごときが、僕の婚約者を殺す……?」


 バチバチと、ノアの剣が音を立てて放電する。


「寝言は死んでから言え」


「殿下。死んだら寝言は言えません」


「ユージーン。そういう冷静な指摘はいらないよ。僕はいま……とても機嫌が悪いんだ」



 柔らかな声だったが、聞いていた私の体を悪寒のようなものが駆け抜けていった。

 ユージーンとヴィンセントも、私と似たような表情になっている。ノアの怒りの度合いがいまだかつてないレベルに到達したのを感じた。



「だから……さっさと死んでもらおうか」



 ノアが剣を振り下ろすと、天から特大の雷が降ってきた。

 雷鳴と共に現れた光の柱に飲みこまれ、魔族が悲鳴を上げる。

 次いでヴィンセントとユージーンが駆けだし、それぞれの精霊の力を駆使しながら魔族を追い詰めていく。

 三人が揃えば圧倒的だった。絶対に勝てる。

 そう確信し肩の力が抜けると、同時にシロがぺたんと地面に座りこんだ。



「シロ! 大丈夫?」


『大丈夫じゃないよぅ。今度こそ無理。僕もう動けないぃ』



 少量の炭チョコで力を行使するのはこれが限界らしい。

 本当に燃費が悪いと思いつつも、怠け者なのによくがんばってくれたとふわふわの毛を撫でる。



「ありがとね。デミウルの所に戻って――」


 ゆっくり休んで、と言いかけたとき、背後で魔族の悲鳴が上がった。


「アリエナイ、アリエナイ、アリエナイィィィ!」



 叫ぶ魔族は腕や尾を失い、全身を赤紫に染めていた。

 ぐるんと首が回転し、真っ赤な目が私を捉える。

 ギラギラと異様に輝く血の色をした瞳は、同じ赤でもヴィンセントのものとはまるで違って見えた。



「コウナレバ、オマエダケデモミチヅレニ!」


「危ない、オリヴィア!」



 ノアの電撃を、ヴィンセントの剣を、ユージーンの風の刃を避けることも最早せず、魔族が私に向かって一直線に飛びかかってきた。

 あまりの速さに反応することができない。

 鋭い爪が振り下ろされるのを、私はシロを抱きしめながら見ていることしかできなかった。



(今度こそやられる! せめて、私に魔族を跳ね返す力があれば……!)



 毒で死なないことも大事だけれど、大切なものを守るために、私も戦える力がほしかった。

 何もできない自分は嫌だ。私だって戦いたい。

 強くそう願った時、頭の中で電子音が鳴り響いた。




【毒を解放します】



作者は魔王爆誕回だと思っとります。もしくはユージーンがんばれ回。

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