第八十六話 悪役令嬢の計画的仮死
先週は体調不良で更新をお休みしてしまい、申し訳ありませんでした。
待っていてくださった読者の皆さま、ありがとうございます!
そんな顔をしてどうしたの。
話が違うじゃない。あなたは私を引き留める役じゃなく、引き留めるだろうヴィンセントやノアを止める役だったはず。
そんな気持ちをこめてユージーンを睨むと、彼はらしくなく顔を歪ませた。激しい葛藤で苦しんでいるかのように。
やがてユージーンが決意したように手を離した。
私はそれでいい、と笑って頷く。一瞬なぜか、ユージーンが泣きそうな顔に見えた。
「魔族! あなたの毒も、きっと大したことはないんでしょうね!」
魔族を振り返り私が言い放つと、魔族は怒りにか羽を逆立たせぶるぶる震え出した。
「ナマイキナニンゲンノメスダ……! ノゾミドオリドクデシネ!」
「オリヴィア!」
飛びかかろうとしてきた魔族を、激しい雷が遮る。
ノアが私に駆け寄り、強く肩を掴んできた。
その顔には心配と怒りが半々に現れ……いや、怒りがかなり勝っているように見える。強火担が激おこだ。
「なぜ魔族を挑発するようなことを!」
「私は大丈夫です! ノア様は邪魔しないでください!」
「邪魔だと? ふざけるな! 何を考えているのか大体想像がつくが、君は自己犠牲が過ぎる!」
そんなことを言われても困る。
私だって好き好んでこんな選択をしたいわけじゃない。仕方ないのだ。なぜなら……。
「だって、そういう能力ですから」
「だとしても、僕は君に傷ついてほしくないと言っているだろう!」
ノアの気持ちは嬉しいけれど、私にだって譲れないことはある。このままでは埒が明かないと思った時、ノアを背後から拘束する腕が。
ユージーンだった。予定していた自分の役割をきちんと遂行してくれたのだ。
「何をする、ユージーン!」
「ユージーン公子! そのままノア様を引き留めておいてください!」
ノアから離れ、魔族に向かって駆けだす。
「やめるんだ、オリヴィア! くそ、離せユージーン!」
「ぐあっ!?」
顔だけ振り返ると、ユージーンが電撃を浴びながらも必死にノアを抑える姿が映った。
ユージーンがノアを抑えていられるのもそう長くはないだろう。ノアがこちらに来る前に終わらせなければ。
「こっちよ、魔族!」
「バカメ。イマノワタシノドクハ、ムカシヨリズットツヨクナッタ。トクトアジワエ!」
そう叫ぶと、魔族は自身の羽をむしり取ると、それで胸から腹にかけて一気に切り裂いた。
血しぶきが舞い、濃厚すぎて目眩がするような匂いが辺りに満ちる。
ピコン!
【???(毒):???(毒Lv.???)】
真っ赤なウィンドウが現れた瞬間、倒れていたシロが『鼻がもげる……!』と飛び起きた。
「シロ! 今よ!」
『んえっ? いまって何だっけ!?』
寝ぼけてでもいるのか、シロが辺りをキョロキョロ見回す。
「もう! 血! 血よ!」
シロはハッとした顔でそうだった、と水魔法で魔族の血を包み込んだ。
(やった! 手に入れた、魔族の血!)
「シロ、早くそれを私に――」
「アノカタノジャマニナルヤツハ、スベテシネ!」
シロに言い終わる前に、魔族が血のついた羽を幾枚も同時に私に向かって飛ばしてきた。
毒の正体が魔族の血なら、私には毒スキルがあるから死にはしない。けれどあの殺傷能力の高そうな羽が直撃すれば死ぬ。それはもうあっけなく。
シロが羽を防ごうと魔法を発動するのが視界の端に映った。でも、間に合わない。
「オリヴィアッ!」
突然横から衝撃を受け、私は何かに包まれながら地面を転がった。
私を抱きしめるようにして、魔族の攻撃から守ってくれたノアが「無事か!?」と顔をのぞきこんでくる。
その奥に、ユージーンを地面に押さえつけるヴィンセントが見えた。頭脳派のユージーンでは、やはり有望な騎士であるヴィンセントには勝てなかったか。
「あ、ありがとうございます。私は大丈夫で――」
ピコン!
【体内に毒が侵入しました】
現れたウィンドウに驚くと同時に、ズキンと右足が痛んだ。
地面を転がった衝撃で気付かなかったけれど、先ほどの攻撃でドレスとその下の足を切られていたらしい。
あっという間に、熱のような痛みが這い上がってくる。
痛みと恐怖に涙があふれかけたが、必死に堪える。ノアがそんな私に気づき、焦ったように抱き上げた。
「どうした、オリヴィア」
【毒を無効化します】
「ノア様……」
無理やり笑顔を作った瞬間、恐怖のウィンドウが表示された。
【毒の無効化に失敗しました】
マグマが噴火するように、足の痛みが爆発する。
あまりの痛みに悲鳴を上げた。私を抱きしめるノアが、何か叫んでいる。けれど、自分の悲鳴で何も聞こえない。
痛い。痛い痛い痛い。地獄で味わうような痛みに、治癒院にいた患者たちは、ユーフェミアは、ヴィンセントは耐えているのか。
ダメだ。痛すぎて気が遠くなってきた。
ノアが泣きそうな顔でまだ私に何か叫んでいる。
いや、泣いているのか。
そんな顔をしないで。私は毒では死なないのだから。私がこうなることを、望んだのだから。
【毒の無効化に失敗したので、仮死状態に入ります】
暗転する世界で最後に見えたのは、待ちに待ったウィンドウだった。
ということは次回はあいつが……?
と奴の登場をすぐに予測された毒殺令嬢愛に溢れたそこのあなた!
ブクマ&広告下の☆☆☆☆☆評価をぽーち!




