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毒殺される悪役令嬢ですが、いつの間にか溺愛ルートに入っていたようで【小説・コミックス発売中☆タテスク連載中!】  作者: 糸四季
騎士と側近の章

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第八十五話 シスコンの風上

ビーンズ文庫から好評発売中!(ウソジャナイヨ)


 目の前には魔族、後ろには何やら動けない様子の攻略対象者たち。

 私は威勢よく登場したはいいものの、割りと緊張し動揺していた。

 ヴィンセントが目にも留まらぬ速さでユージーンを助けに入っていったので、慌てて追いかけた。ところが、飛びこんでみればヴィンセントは片膝をつき呻いているし、ユージーンはぼう然自失状態。


(あら……? もしかして、これって私がひとりで何とかしなきゃいけない感じ?)


 いや、実際に何とかするのは食いしん坊神獣シロ様なのだけれど。

 私は創造神の加護をもらっただけの、無力な悪役令嬢なのだ。しかも加護は(憐れみ)だし。



「よーし……シロ、行け!」


 シロ様に丸投げしてしまえ! ということで魔族に向かって指をさすと、すぐさま隣りから抗議の声が上がる。


『ちょっとぉ! 行け! じゃないよぅ』


「私の新作デトックススイーツで手を打つって、約束したでしょ?」


『オリヴィアって雑なんだよぅ。獣使いが荒いしぃ』


「いいから、ほら! さっさと行く!」



 私にお尻をペシペシと叩かれ、シロは『だから雑だってぇ』と文句を言いいながら、魔族に向かって火を吐いた。

 シロが魔族と戦ってくれている間に、私は後ろのふたりの元に駆け寄る。



「ヴィンセント卿! ユージーン公子! 大丈夫ですか!?」


「オリヴィア様……俺のことはいいです。ここから、お逃げください」



 眼帯の取れた目を押さえ、ヴィンセントは痛みにかガクガク震えながらそう言った。

 いつもは表情の読めない顔が、苦悶に満ち汗を浮かべている。



「逃げませんよ、まだ何もしていないのに――きゃあっ」


 突然ヴィンセントに腕を引かれたかと思えば、私が立っていた場所に刃物のようにするどい魔族の羽が突き刺さる。


「ちょっとシロ! 真面目に戦って!」


『戦ってるよぅ! それくらい自分で避けて!』



 反論しながらも、シロが魔族の羽に噛みつき、根本から引きちぎろうとしている姿が見えた。

 魔族が耳障りな悲鳴を上げたが、シロは羽を引きちぎる前に口を離してしまう。



『くっさぁ~! 魔族の血の臭い、くっさぁい!』



 ぺぺっと唾を吐きながらシロが魔族から距離をとった。

 涙目でくさいくさいと転がっている。


(くさいって、前にも言ってなかった? そうだ、商人が殺された家で。それから毒の被害者のいた治癒院で。あとは――)


 私を守ろうと必死に両足を踏ん張るようにして立っているヴィンセントを見る。

 ヴィンセントに対しても、シロは臭いと距離をとっていた。

 魔族の血は臭く、毒もまた臭い。だとしたら毒の正体は……。



「オリヴィア!」


 魔族の後方から、騎士たちを引き連れこちらに駆けてくるノアの姿が見えた。


「ノア様、ダメです! 魔族がいます! こっちに来ないで!」


「バカを言うな! 魔族! 僕のオリヴィアから離れろ!」



 ノアは叫びながらペガサスを召喚し、雷の矢を射った。

 雷の矢は魔族の片羽に命中し、赤紫色の血が飛び散るのが見えた。

 超音波のような魔族の悲鳴に、思わず耳を押さえる。鼓膜に直接攻撃されているように感じながら、私は後ろを振り返った。



「ふ、ふたりとも、今のうちにここを離れて!」


「それは出来ません、オリヴィア様……っ」


「いいから、ヴィンセント卿は動けるなら、ユージーン公子を安全な場所に! 公子! しっかりしてください! のんきにショックを受けてる場合じゃないんですよ!」



 茫然自失といった様子のユージーンの肩を揺する。けれど彼はまったく反応を示さない。 

 まるで心を殻に閉じこめてしまったようだ。受け入れがたい真実を知り、これ以上傷つかないように。



「ショックなのはわかりますけど、いまは逃げて! 後でゆっくり、好きなだけ傷ついてくださって結構です! でもいまはダメ! ここにいたら死んでしまいますよ!」



 このまま生を手放してしまってもいい。そんなユージーンの様子に私は本気で焦る。

 ヴィンセントは立っているのが精一杯といった状態だ。こんなユージーンを抱えて動けそうにはない。



「ユージーン様! 聞いてます!? ここで死ぬ気ですか!?」



 私がいくら必死に叫んでも、ユージーンは虚ろな目をしたままだ。

 ユージーンの母親の過ちを騙る魔族の声は、私にも聞こえていた。信じていた者に裏切られたように感じているだろう。これまでの自分の人生の、何もかもが偽りだったと思っているのだろう。それはきっと、とてもつらいことだろうけれど……。

 一度目の人生で、私は裏切られるどころか、初めから信じられる者が傍にいなかった。誰もかれもが私の敵だった。家族さえも味方ではなかった。

 それでも、私は生きたかった。ただ、生きたかったのだ。

 いまだって、私は平穏に生きることだけを願っている。ノアとともに生きる。それだけの為に、こうして何かに抗い続けているのだ。



「いい加減に……しなさいっ!」



 焦りは怒りに代わり、私は力なく項垂れるユージーンの頬を打った。

 思い切り、フルスイングで平手打ちした。

 闇夜にスパーンと小気味良い音が鳴り響き、ユージーンの眼鏡が吹き飛ぶ。

 露わになった瞳が、まん丸になって私を映した。



「こんな所で無駄死にしてどうするのよ! あなたにはやらなきゃいけないことがあったんじゃないの!?」


「は……」


「お姉さんを助けなくていいの!? ユーフェミア様をひとり残して死ぬなんて、シスコンの風上にも置けないわよ!」



 シスコンなんて言葉、ユージーンにわかるはずがないのだが、そう叫ばずにはいられなかった。

 その時、「ソノメ、コノクニノオウタイシダナ!」という魔族の声が聞こえ、ハッと振り返る。

 魔族と対峙しているのはノアひとり。彼を守っていた騎士たちは、皆満身創痍で地に伏していた。ついでに神獣様まで、疲れ切った顔でぐったりと横になっている。

 先の王宮での戦いでも思ったが、うちの食いしん坊神獣は大変燃費が悪いようだ。五大精霊の力を扱えても、わりとすぐに戦線離脱してしまう。

 神獣も鍛えればレベルアップしたりしないだろうかと考えた時、魔族が背を丸め唸り始めた。ゴキゴキと、魔族の体から異様な音が鳴り、うねるように変形していく。

 やがて雌型の魔族は人寄りの姿から完全な異形の姿へと変わった。様々な魔獣をかけ合わせたようなその様相に、思わず悲鳴を上げそうになる。



「オマエモワタシノドクデコロシテヤル! クルシンデシネ!」


 長い牙を剥き出しにして叫ぶ魔族は、ノアへと飛びかかろうとした。



「待ちなさい!」


 咄嗟に私は魔族の背にそう叫んでいた。

 ノアを毒の危険に晒すわけにはいかない。とっくに毒殺されているはずの運命の彼は、いつ物語からはじき出されてしまうかわからない身なのだから。



「魔族同士に繋がりがあるのか知らないけれど……あなた、王宮を襲った魔族と関係はあるのかしら?」


「オリヴィア! 何をしてる、逃げるんだ!」


 ノアの怒っているような声を無視し、私は魔族に一歩詰め寄る。


「……ナニガイイタイ」


「あなた、随分と毒に自信があるようだけど、王宮を襲った魔族とどちらが上なのかしらね」


「ナンダト……」


「あの魔族の毒は、私には通用しなかったわよ。直接くらったけれど、こうしてピンピンしてるもの」



 実際はあの魔族の毒で仮死状態位に陥ったのだが、いまピンピンしているのは本当のことなので嘘ではない。

 私の挑発に、魔族の意識がノアから外れ私に向かったのを感じた。


(いいわ。そのままこっちに来なさい)


 ノアとの戦闘で傷ついた魔族の体からは、あちこちから血が滴り落ちている。

 あの血を手に入れれば、もしかしたら。もっと近くに来たらそれがはっきりするはず。

 私からも魔族に近づこうとした時、不意に後ろから手を取られた。


電池切れシロきゅんきゃわわ! というモフ好きさんは

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