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毒殺される悪役令嬢ですが、いつの間にか溺愛ルートに入っていたようで【小説・コミックス発売中☆タテスク連載中!】  作者: 糸四季
騎士と側近の章

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第八十四話 真打登場!

タテスクにてコミカライズ好評連載中!です!


 魔族はけたたましい笑い声をあげながら、黒いガラスのような羽をこちらに向かって飛ばして来た。

 咄嗟にユージーンが風魔法で弾き返し、前に立つヴィンセントは素早い剣さばきで切り捨てる。しかし、一枚の羽がふたりの防御をすり抜けヴィンセントの顔の横を掠めていった。

 黒い眼帯が切れ、ひらりと落ちるのが見えた。



「ぐ……っ!」


 途端に、ヴィンセントが目を押さえ蹲った。


「おい、どうした!」



 まさか目をやられたのかと駆け寄るが、出血はしていない。だが、ヴィンセントの鍛え上げられた身体は小刻みに震えている。

 眼帯が外れたから、光魔法の効果が切れて目が痛み出したのか。

 ユージーンは眼帯を拾おうとしたが、魔族が再びヴィンセントに襲いかかろうとしたので、慌てて風魔法で防御壁を作る。その衝撃で、眼帯が遠くに飛ばされてしまった。



「くそっ! おい、しっかりしろ! 戦えないなら、せめて逃げろ!」



 魔族の攻撃を防ぎながら、ヴィンセントを安全な場所に移動させるのは難しい。

 他の騎士は、魔族が現れた時点で既に倒れていた。大した傷はついていないのに、意識もない。


(恐らく、毒……こいつが一連の事件の犯人か)


 灰色の肌に真っ赤な目をした雌型の魔族は、甲高い笑い声を夜空に響かせる。



「オマエカラ、ワタシノニオイガスル」



 魔族の黒い唇から放たれた言葉に、ユージーンは衝撃を受けた。


(人語を扱えるのは、上位魔族の証拠……!)


 魔族の世界は実力主義だという。下位魔族は弱く、知能も低く、人語を解さない。魔族同士でのみ伝わる意思疎通の方法があるらしい。そして上位魔族は強く、賢く、人語を解す。理解するだけでなく実際会話が可能なのは、上位魔族の中でも特に上にいる限られた者だけだ。



「アア、ワカッタ。ニンゲンノキゾクノオンナノハラニイタコドモダナ」


「貴様……何を言っている」



 魔族はニンマリ笑いながら、うずくまるヴィンセントを爪で指した。



「ソノオトコノメ。ワタシノドクノニオイガスル。マエニツカッテイタドク」


「では……お前が彼に毒を盛ったのか」


「ソウ。オンナニドクヲイレテ、タイナイノドクヲマリョクデアヤツリ、アカゴニモドクヲイレタ。ワタシハケイヤクシャノネガイヲカナエタダケダ」


「契約者とは誰だ!」



 魔族は長い舌をチロリと見せ、何かを思い出そうとするような顔をした。



「キゾクノオンナダ。ソイツノハハオヤト、オナジオトコトツガッテイタ」


「……まさか」



 ユージーンの脳裏に、両親の姿絵が浮かぶ。



「まさか、その貴族の女とは……メレディス公爵夫人のことか」


「キャハハハハ! ソウダソウダ! ソンナナマエダッタ! ネガイヲカナエタカラ、ソノオンナノハラニイタアカゴノイノチヲヨコセトイッタラテイコウシタ! ダカラオンナノシンゾウヲクラッテヤッタ! トテモシュウアクナアジガシタ!」




 悪意に満ちた不快な笑い声が響く中、ユージーンは母の顔を思い出していた。

 ヴィンセントの母親は第二夫人。そしてユージーンの母親は、正室であり第一夫人のメレディス公爵夫人だった。


 自分の母親が、魔族と契約し、ヴィンセントに毒を盛った? 何の為に?

 そんなことはわかりきっている。先に男児を生み、公爵に大切にされていたヴィンセントの母親を陥れる為。そして跡継ぎになる可能性のある男児を殺す為だろう。

 そしてその代償が、ユージーンの命だった。

 ユージーンは目の前が真っ暗になった。

 いままで自分を支えてきたもの。母への思慕、異母兄とその母親への憎しみと蔑み。己を形作るその全てが根底から覆されたのだ。


 すぐには受け入れがたい真実を前に、ユージーンは戦意を喪失した。頭の中も心の中もぐちゃぐちゃになっていた。何も考えられない。



「ナンダ、ヤラナイノカ? デハシネ! アノカタノジャマヲスルモノハスベテシネ!」



 大きな羽を広げ、魔族が刃物のように鋭い羽を一気に飛ばしてきた。

 避けられない。避ける気力もない。

 完全に自分を見失い、死を受け入れようとしたユージーンの前に、突然高い土壁が現れた。



「ちょっと待ったぁー!!」



 そんな叫びと共に、土壁はすぐに崩れ地面に戻っていった。

 残ったのは弾かれた幾枚もの鋭い羽。

 ぼう然とするユージーンと痛みに耐えるヴィンセントの前に舞い降りたのは、純白の獣に乗った麗しき乙女だった。





 王都のメレディス公爵邸で、王太子ノアの目を盗みユージーンとヴィンセントに声をかけてきたオリヴィア侯爵令嬢は、こんなことを言いだした。



『ユージーン公子。殺された商人の他にも、貴族を拘束し別の場所に監禁していますよね』


 質問というより、断定に近い言い方だった。


『……なぜそれをご存知なのでしょう。王太子殿下の周りでも、極限られた人間しか知りえない情報のはずです。まさか情報を漏らす者が――』


『安心してください。ノア様の周囲に裏切者がいるわけでも、私が間者を潜り込ませているわけでもありません』


『では一体どのように……』


 オリヴィアは大真面目な顔で答えた。


『シロにあなた方の周囲を見張らせていて知ったのです』



 一瞬、その答えが理解できなかったユージーンは、一度眼鏡をずらし目頭を押さえた。

 何だかいま、幻聴がした気がするのだが。聞き間違いだろうか。



『……シロとは、神獣様の御名では?』


『ええ。神獣シロのことですけど』


『……神獣様にそのようなことをさせたので?』


 まさか、と思いながら尋ねれば、神子はなぜか胸を張ってうなずく。


『うちのシロは、私のデトックス料理を目の前にぶら下げれば何でもやってくれるので』


『馬の前に人参をぶら下げるような言い方はちょっと』



 神獣を馬扱いするとは、なんと不敬な令嬢か。

 しかしその不敬な令嬢自身が、神獣と同等か、それ以上に尊い神子という立場なので何も言えない。



『私たちの極秘情報が神子様に筒抜けだったことは理解しました。それで?』


『わざと情報を流して、貴族を餌に敵の尻尾を掴む作戦ですよね?』


『……作戦まで筒抜けですか』



 この方は普通の侯爵令嬢とはまったくの別物だと、ようやくユージーンは理解した。

 神子オリヴィア、侮れない存在だ。



『日時までは知りません。なのでその作戦、私とヴィンセント卿にも一枚噛ませてください』


『は……?』



 オリヴィアとヴィンセントの顔を交互に見て、眉を寄せたユージーン。

 そんなユージーンの反応に気圧されることなく、オリヴィアは堂々とこう宣言した。



『守られてるだけじゃダメなのです。私とノア様は運命共同体。私もノア様を守らなければ』






 その神子が、月明かりの下、銀の髪をなびかせながら目の前に立っている。

 魔族からユージーンたちを守ろうとするように。

 神獣を従え魔物と対峙するその姿は、神々しく、勇ましく、凛と輝いていた。



「ノア様の命を脅かそうとする不届き者は、根こそぎシロの餌にしてやるわ!」


『えっ。僕こんなの食べたくないよ~ぅ』



 いまいち締まりに欠ける登場だったが。



締まらないふたり(ひとりと一匹)が好き! と言ってくださる稀有な方は

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