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毒殺される悪役令嬢ですが、いつの間にか溺愛ルートに入っていたようで【小説・コミックス発売中☆タテスク連載中!】  作者: 糸四季
騎士と側近の章

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第七十二話 王太子の胸の内

本日2話目!

「調べてみると、被害が多かったのは貴族派の領地でしたが、領地を治める貴族に被害があったのは、すべて王室派でした」


「どうやら王室派の貴族と取引を始めた商会が、毒を密かに流通させていたらしい。商会長と関係者は既に捕らえて身柄を隠している。いまは後援者を辿っているところだ」



 資料には、快楽を得る葉巻や安全な堕胎薬と称して平民や貧民に、瞳を美しくする目薬や若返りの酒として貴族にと、毒入りの商品を様々な形で売りつけていたと書いてある。

 平民や貧民の被害は目くらましで、本命は王室派の貴族だったということか。



「視察に行かずに、よくここまで調べられましたね」


「ユージーンを筆頭に、優秀な人材が増えてきてね」


「優秀な人材がいるのなら、ノア様が直接動かれる必要はありませんよね? 試験も近いですし、学園に戻られることは……」


「殿下と私は学園卒業までにで学ぶ全ての科目を履修済みです。よって試験は受けなくても良しとされております」



 ユージーンの言葉にギョッとした。

 ノアとユージーンが優秀であることはわかっていたけれど、そこまでだったのか。卒業までの勉強のすべてを終わらせているなんて、それでは学園に通う意味がないだろう。

 私の考えを読んだように、ユージーンは軽く肩を竦めながら言った。



「学園に通う目的は、未来の臣下たちとの交流、そして有望な人材の発掘ですから」



 お前とは違うのだ、と言われているような気持ちになるのは、さすがに卑屈だろうか。

 私の出る幕ではないことはわかっている。私の領分ではないことも。けれど――。



「ユージーンたちの働きもあって、事件についてはこの通り順調だ。オリヴィアは何も心配しなくていい」



 ノアに褒められているのに涼しい顔のユージーンにムッとしてしまう。

 自分がノアの隣にいるのが当然とばかりの態度。それに比べ、私は何の役にも立てていない上、こうして仕事を邪魔することしかできていない。

 私が優秀だったら、ノアも少しは私を頼ってくれただろうか。



「まだしばらく忙しい日が続きそうだ。会えないのはつらいけど、君からの手紙があれば耐えられるんだが」


「……残念ですが、試験が近いのでお手紙はそう書くことはできないかもしれませんね」



 ぷいっとそっぽを向きながら私が言うと、ノアは「そんな寂しいことを言わないで」と小さく笑った。

 絶対手紙なんて書いてやらない。そう思っても、結局書いてしまうのだろう。



「今後は王太子宮を不在にすることが増えると思う。時間を見つけて僕のほうから会いに行くから、待っていてくれ」



 つまり、ここには来るなということか。

 私は信じられない気持ちで、けれど何も言い返すことができず、俯くしかなかった。



「私のほうでも、毒に関して出来ることはないか、調べてみます」


「オリヴィア。危険なことはしなくていい。心配なんだ。君が安全でないと、僕は公務もままならなくなってしまう」



 甘い声、言葉、そして眼差し。

 婚約者から向けられる愛が、どうしてかいまは嬉しくなかった。




◆◇◆




 神子と半魔の騎士が退室する。

 ユージーンはそれを見送ったが、半魔の騎士とは最後まで目が合うことはなかった。



「……話されなくて良かったのですか?」


「何のことだ?」



 自分の婚約者がいなくなった途端、笑顔を消しさった王太子は、さっさと執務机に戻っていく。

 先ほど寒気がするほど甘い言葉を次々と吐き出していた男だとはとても思えない変わりようだ。



「聖女の同行の前に、神子を同行させるべきだとの意見が上がっていたことをです。先日の治癒院慰問は、神子様の能力が役立つかの確認だったのでしょう?」



 ユージーンの問いかけに、星空を閉じこめたような特別な瞳が、冷たい一瞥を寄越してきた。

 生まれながらの支配者の目。最初の頃は睨まれる度硬直していたが、最近ようやく慣れてきたところだ。



「ユージーン。僕はオリヴィアをそのように道具扱いしたことはないし、これからも考えることすらありえない」


「殿下のお気持ちはこの際重要ではありません」


「いいや。君はあまりに僕の婚約者を軽んじている。慰問の意図は確認に違いないが、役立つかの確認じゃない。オリヴィアが危険を回避できるかの確認だった」



 整えられた爪の先で、トントンと机を叩くノア。

 これは彼が考えをまとめているときの癖だ。



「エドガーを治してやれなかったのは残念だったが、オリヴィアのスキルが通用しない類のものであることがはっきりした。視察に同行させるわけにはいかない」


「しかし神子様についている神獣は、五大精霊の力が使えるそうではないですか。そうそう危機に陥ることはないのではありませんか? むしろ神獣の力があれば充分――」



 カツン、と強い音を最後に立て、ノアの手が止まる。

 同時にユージーンは口を閉じた。自分はそれなりに賢く、愚かではないつもりだ。口を噤むべき時も、一応承知している。



「オリヴィアは神子だが、同時に何の訓練も受けていない令嬢でもある」


「しかし、このままでは視察に向かうのは第二王子殿下になってしまいます。あちらの陣営は、聖女単体の貸し出しは認めないでしょう」


「ユージーン……君は本当に人を物扱いするのが好きなようだな」


 未来の王であるノアのため息に、ユージーンは心外だとばかりに片眉を上げた。


「物ではありません。駒として考えております。政治において、人は駒です。自分自身でさえそれは変わりません」


「そういう徹底した冷たさが君の魅力であり能力でもあるが……僕の側近でいたいなら、今後は表に出さないよう努めるように。オリヴィアは連れて行かない。これは決定事項だ」


「……御意に」



 有無を言わせぬ笑顔に、ユージーンは内心冷や汗をかきながらも、涼しい顔で頭を下げるのだった。





ユージーン、お前も苦労するな……と思った方は、

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