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毒殺される悪役令嬢ですが、いつの間にか溺愛ルートに入っていたようで【小説・コミックス発売中☆タテスク連載中!】  作者: 糸四季
騎士と側近の章

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第五十四話 フラグを立てるな


「お待ちしておりました、オリヴィアさま!」


 ノアと別れ聖女の貴賓室に入ると、満面の笑顔のセレナに出迎えられた。

 紫みのある暗い青のドレスは、修道服を模したような、露出のほとんどないデザインだ。一見素朴な衣装に映るが、よく見ると繊細なレースがふんだんに使われ、金糸の刺繍は派手ではないが恐ろしく緻密だ。王家の本気を見た気がして、私は内心震えた。


「ごきげんよう、セレナさま。お待たせしてしまい大変申し訳ございません」

「いいえ! 全然待ってませんから、お気遣いなく……って、いまお待ちしておりましたって、私が言ったんですよね」


 恥ずかしそうに笑うセレナに、悪役令嬢にも関わらずきゅんとしてしまった。

 さすが乙女ゲームの主人公。性別問わず虜にする愛らしさだ。

 これはさぞかしギルバートもメロメロになっていることだろう。一度目の人生でも、聖女以外は目に入らないような溺愛ぶりだった。

 なぜか二度目の人生では、聖女との婚約話を拒否したそうだが、いまごろ後悔しているのでは——。


「遅いぞオリヴィア」


 不意に部屋の奥から低い声がして驚いた。

 いままさに頭に思い浮かべていた相手が、我が物顔でソファーでくつろいでいる。なぜギルバートが、と言いかけたが、彼は現在後見役として、学園でも王宮でもセレナの面倒を見ているのだ。まさか聖女の部屋で我が物顔でくつろぐほど距離を縮めていたとは思わなかったが。


(やっぱりギルバートルートなのかしらね……)


「ギルバート王子殿下にご挨拶申し上げます」

「堅苦しい挨拶はいい。それより、俺を待たせるとはいい度胸だな?」


 あんたを待たせた覚えはないし、そもそも約束もしていない。

 そんな気持ちをこめて睨むと、なぜかニヤリと笑われた。いちいち腹の立つ男だ。


「すみません、オリヴィアさま。オリヴィアさまとお茶会をするので、お引き取り願ったんですけど……」

「セレナさまが謝ることではございません。おふたりの仲がよろしいようで、安心いたしました」


 私がにこりと笑って言うと、ふたりは不満げな顔でお互いを睨み合った。


「別に仲が良いわけではありません」

「そうだぞ。仕方なく世話をしてやってるだけだ」

「でしたら止めてくださって結構ですよ? 自分の面倒くらい自分で見られますから」

「作法のさの字も知らないくせに、よく言う」

「ちょ、ちょっと、おふたりとも……?」


 なぜ言い争いになるのか。ギルバートが後見についたことで、ふたりの距離は縮まったのではないのか。


「私は元々平民ですから。こんな無作法者が王宮に住むのはふさわしくないので、すぐにでも出ていきます」

「ここを出てどこに行く気だ? 子爵家はお前を受け入れてはくれないぞ。王家に逆らうわけにはいかないからな」

「そうやって簡単に権力を振りかざすのが、王宮での作法なのですね! 私にはとても無理なので、やはり出ていきます。修道院ならどんな人間でも受け入れてくれ——」


 いや、修道院はいちばんまずいだろう。

 私はまずい流れを断ち切るために、強く手を叩いてふたりを止めた。


「とりあえず! ……お茶にいたしませんか?」


 いったん落ち着こう、と私が言えば、ふたりは不満げな顔をしながらも渋々了承してくれた。だがお互いを睨み合うのも忘れない。


(もしかして、ケンカするほど……ってやつなのかしらね)


「今日はお茶会のためにこちらの菓子をお持ちしました」


 メイドが私が持参したデザートをテーブルに並べると、セレナが目を輝かせた。


「わあ! なんて綺麗なお菓子!」


 苺にキウイ、オレンジにブルーベリーと色鮮やかな果物が固められたゼリーは、宝石箱のように綺麗で目に楽しい。やはり女子会に見た目の良いお菓子は必須だろう。


「フルーツのデトックスゼリーです。冷えているうちに、早めに食べましょう」


 シロの魔法でゼリーをずっと冷やしてもらっていたのだ。

 働きたがらない怠惰な神獣だけど、食に関することなら誰より積極的に動いてくれる。このデザートを美味しく食べるために、水魔法と風魔法を駆使したシロは、すでにゼリーに顔を埋める勢いで食べ始めていた。


「フルーツには食物繊維が豊富ですし、カリウムも多く含まれているのでデトックスにぴったりなんです。ビタミンたっぷりで美肌にもなれますし、健康にも美容にも良いなんて、最高ですよねぇ」

「……これは黒くないんだな」


 うっとりしていた私にギルバートが水を差してきた。

 ゼリーの乘った皿を手に、しげしげと眺めるギルバートを睨む。


「炭は使っておりませんので」

「ということは、黒いゼリーもあるのか?」

「ある……と言ったらどうされるんです? 召し上がりますか?」

「いや。以前のクッキーより食べるのに勇気がいりそうだ」

「ご安心ください。作る予定はないので」


 あからさまにほっとした顔をするギルバートに、鼻で笑ってやりたい気持ちになっていると、セレナが「あの……」とおずおずと声をあげた。


「おふたりは、昔から親しくされているんですか?」

「まさか。親しそうに見えます?」


 心外だ、と私が目を見開くと、セレナはなぜか空笑いを見せた。


「はい。前から、おふたりが気安げだなとは感じてたんです」

「セレナさま、それはまったくの誤解です。ギルバート殿下とは、学園に入学して初めてお会いしたんですから。そうでしょう、ギルバート殿下?」

「数年前、こいつから毒かと疑うほど黒いクッキーをもらったことがあるだけだ」


 しれっとそんなことを言うギルバート。私は信じられない気持ちで目の前の男を見た。


(それは秘密だって言ったのに、何簡単にバラしてくれちゃってるわけ⁉)


 やはりこの男、好きにはなれない。

 今度本当に炭ゼリーを作って送りつけてやろうかと思っていると、セレナが小さくため息をついたのがわかった。何食わぬ顔でゼリーを口にしているギルバートを見ては、もの悲しげに視線を落とすことを繰り返している。

 急に気まずい空気が流れ始めたのを感じて、私は話題を変えようと試みた。


「そ、そうだ! ええと、先ほど、回廊でユージーン公子にお会いしました。セレナさまは公子にお会いしたことはございますか?」

「ユージーン公子、ですか? 先日、一度王宮で会って、ご挨拶しただけですが……。私たちの、ひとつ先輩に当たる方なんですよね?」

「そのようですね。セレナさまは、公子に会って何か感じられました?」


 私のざっくりとした質問にも、素直なセレナはきちんと考えてくれる。


「何か……? 整ったお顔立ちの方ですよね。でも私は、ちょっと怖そうだなと思いました」

「確かに、冷たさを感じるほど綺麗なお顔をされてますね」


 なるほど、セレナが怖いと感じるなら、ユージーンルートはなさそうだろうか。いや、だがユージーンはゲームでは最初聖女に冷たく当たるが、ストーリーが進むごとにどんどん甘さを出していくキャラだ。最初と最後のギャップのあまりの高低差に、悲鳴を上げて失神するユーザーも出たほど。油断はできない。


「お前はああいうのが好みなのか」


 突然ギルバートが私に向かってそんなことを言うので、思わず「は?」と素で聞き返してしまった。


「兄上も知的で冷たい印象があるもんな」

「何か誤解されているようですが、私は別にユージーン公子にそういった興味があるわけではございません。ただ、ノアさまの側近になったと紹介を受けたので聞いてみただけです」


 ギルバートはソファーに背を預け、面白くなさそうに息をつく。


「そうらしいな。まあ、妥当な選択だろう」

「そうでしょうか。私は公子は、ギルバート殿下の側近になるかと思っておりました。だって彼は確か……」

「公子の母である公爵夫人が母上と懇意だったらしいが、夫人が亡くなってからはメレディス公爵はお前のところと同じ中立派なはずだ。俺と兄上、どちらの側近になってもおかしくないが、有能な男だから王太子の側近になるだろうと前々からわかっていた」

「そう、なのですか……」


 つまり、逆行前はノアが亡くなり、ギルバートが王太子だったからユージーンが側近についていたということか。

 それならば、ユージーンは王妃の回し者ではなく、ノアの味方ということになる。本当にそれが真実であれば。


 私が考え込んでいると、ギルバートが不意に立ち上がった。ふと皿を見ると、ゼリーはきれいに完食している。


「邪魔をしたな。俺はもう行く」

「それはそれは、残念です」


 本当に邪魔だからさっさと出ていけ、という気持ちをこめて言うと、ギルバートはじっと私を見下ろしてきた。

 何か嫌味を言ってくるかと思ったが、ギルバートの口から出たのは「気をつけろ」という私を案じる言葉だった。


「最近、貧民地区だけでなく貴族街でも治安が悪くなっていると報告があった。お前は事件を引き寄せる体質のようだから、充分注意するんだな」


 まるで捨て台詞のように言うと、ギルバートは貴賓室をあとにした。


(変なフラグを立てて行かないでよね……)


 私は内心げんなりしながら、残されたセレナと顔を見合わせ、笑顔を作るのだった。



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