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毒殺される悪役令嬢ですが、いつの間にか溺愛ルートに入っていたようで【小説・コミックス発売中☆タテスク連載中!】  作者: 糸四季
二人の王子の章

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第三十八話 終わりの記憶

 窓のない馬車を降りると、目の前には高い石塔が建っていた。

 周囲に顔を巡らせると、見えるのは深い緑の木々だけ。それだけなのだが、見覚えのある景色に私は身震いした。


「ここは王宮の北の外れにある古塔です。尊い身分の方が罪を犯した場合、身柄がここに移されます」


 学園からここまで私を連行してきた騎士がそう説明してくれた。

 声が気遣わしげなのは、私のことを知っているからだろうか。もしかしたら父と関わりのある騎士なのかもしれない。


 北の古塔は、罪を犯した王族が入る牢だ。一般の罪人が収容される牢獄とは待遇がちがう。私はもちろん王族ではないけれど、王太子の婚約者という立場が鑑みられたのだろう。


(一度目の人生でもそうだったもの……)


 あのときはギルバートの婚約者だった。

 そして同じく、聖女毒殺未遂の疑いでこの牢に入れられたのだ。一度目の人生で、私が最後に過ごした場所でもある。


 見張りのいる重々しい入り口を開き中に入る。少し湿った重い空気が肌にまとわりついた。

 石階段をのぼり最上階まで行くと、鉄格子の小窓がついた扉が待っていた。


(この扉の向こうで、私は毒を盛られて死んだ……)


 壮絶な苦しみを思い出し、体が震える。

 また、あのときと同じように死ぬのだろうか。だとしても、もう毒で苦しみたくはない。食事は絶対に口にしない。あの毒の苦しみを味わうくらいなら、飢えて死ぬほうを選ぶ。


 騎士が錠を解き、扉を開ける。

 中に入ると恐怖で足が竦んだが、ふと見回すと一度目の人生で見たときとは少し景色がちがう気がした。

 小さな鉄格子の窓にはカーテンがつき、寝具も清潔なものが用意されている。不快な臭いもなく、虫や害獣も見当たらなかった。


「急でしたので間に合わなかった部分もありますが、出来る限り清掃し、備品も整えました」

「あ、ありがとうございます……。でも、どうして」

「王太子殿下のご指示です」


 励ますような騎士の微笑みと言葉に、目頭が熱くなる。


(ノアさま……)


 制服の胸元をギュッと握る。それだけで、ノアの存在を近くに感じた。


「ここは特殊な魔法陣が敷かれておりまして、精霊を召喚することができません。外からの侵入も不可能です」

「そうですか……」

「……扉の前、それから外に警備兵がおります。何か不便があれば、呼び鈴をお使いください。可能な限り対応させていただきます」


 騎士はそう言うと、罪人である私に対し恭しく礼をし部屋を出ていった。

 一度目の人生とは随分ちがう。あのときは乱暴にここに連れてこられ、何の説明もなく閉じこめられた。呼び鈴などもちろんなかったし、いくら声で呼んでも誰も対応してくれず、孤独な最後を迎えたのだ。


 ここにいるだけで恐怖で頭がどうにかなりそうになる。だが、いまはあのときとはちがうのだ、と自分に言い聞かせた。

 深呼吸し、自分を抱きしめるように交差させていた腕をゆっくりと降ろす。

 きれいに掃除され、絨毯まで敷かれた床を見下ろしながら、先ほどの騎士の言葉を思い出す。彼は精霊を阻む魔法陣が敷かれていると言ったが——。


「……シロ」


 そっと名前を呟くと、宙に光の粒子が集まってきた。

 ほっとして、肩から力が抜ける。やはり大丈夫だったか。精霊は召喚できなくても、神獣ならできるかもしれないと考えたのだが正解だった。


『オリヴィア、大丈夫?』


 光の粒子が狼の姿を作り上げると、シロは私にすり寄り心配そうに見上げてきた。

 とりあえず、その大きくふかふかな身体をギュウと抱きしめる。アニマルセラピーは効果覿面で、すぐに私の震えは止まった。


「シロが呼べて良かった……」

『ほんと、僕が精霊じゃなくて良かったね? どうする? 脱出する?』

「できるの?」

『簡単だよぉ。そこの壁を壊して出ればいいんだもん』


 予想よりかなり力業だったので苦笑いしてしまう。

 どちらにせよ、シロの力で脱獄するつもりはなかった。正しくない方法でここを出れば、自分の罪を認めたことになる。そうなると父やノアにまで、いま以上に迷惑がかかってしまう。


「私はここにいる。きっとお父さまが動いてくれるから」


 一度目の人生では築けなかった、親子の信頼と絆がいまはある。父は必ず私を信じて、どうにかして救おうとしてくれるだろう。


「だから、シロはノアさまのところに行って」

『ええ? なんでぇ?』

「ノアさまは、お父さまより無茶をしてしまう気がする。心配なの」


 何せオリヴィア強火担なのだ。私を助けるためにとんでもないことを仕出かしてくれそうで恐ろしい。


『でも僕、オリヴィアをちょ~っと手助けするためだけにいるのに』

「お願い。私は無事だから、どうか落ち着いてって伝えてほしいの。ノアさまは頭がいいから、冷静になればきっと私をここから出すいい方法を考えてくれるはず」

『けどぉ……』

「シロにしか頼めないの。ノアさまが私を助け出してくれないと、シロにデトックス料理を作ることもできな——」

『よぉしわかった行ってくる!』


 食い気味で元気よくそう言ったシロに、顔が引きつりかけた。


(いつでも食い意地の張ってる神獣でよかったわ)


 いまだけは、シロのマイペースの基盤となっているだろう、どこかの創造神に感謝したいと思った。


「あと、こんなときでも王妃が毒で狙ってくる可能性もあるから、油断しないようにって伝えて! もし危なかったらシロが助けてあげてよ?」

『はいはーい! じゃあ行ってきまぁす』


 再びシロは光の粒子となり、宙に溶けて消えていった。


「本当に大丈夫かな……」


 基本働きたくないナマケモノ神獣なので不安はあるが、信じて任せるしかない。


 またひとりぼっちになってしまった牢の中を見渡し、いま自分にできることは何か考える。広さは充分にある。ヨガや軽い運動は可能だ。食事ももしかしたら、出来る限り希望を叶えてもらえるかもしれない。野菜と果物、それから水を多めに頼んでみよう。


 一度目の人生ではここで毒を盛られて死んだが、冷静になって考えるといまの私は【毒スキル】があるので、致死量の毒を盛られても死ぬことはないのだ。毒の探知もできるし、まったく問題ない。


(前回はみすみす毒殺されたけど——今回はそうはさせない)


 胸元からノアにもらった指輪を取り出した。

 星空のような青い宝石を見ていると、ノアと見つめ合っているような気がして勇気が湧いてくる。


「ノアさま……必ず、生きてまた会いましょう」


 指輪を握りしめ、小さな鉄格子の窓に向かいそう決意したとき、背後の扉からノックの音が響いた。




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