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毒殺される悪役令嬢ですが、いつの間にか溺愛ルートに入っていたようで【小説・コミックス発売中☆タテスク連載中!】  作者: 糸四季
二人の王子の章

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第二十五話 神獣助手と解毒剤作り

 毒を盛られ一時は危険な状態だったノアだが、水魔法で胃洗浄を行ったのが良かったのか次の日にはしっかり意識を取り戻し王宮医たちを驚かせていた。


「またオリヴィアに救われたのか。やはり君は僕の聖女だ」


 どこか自嘲気味に聞こえたのは、ノアが自分を情けなく思ったからかもしれない。

 前世で言えばノアも思春期の男の子だ。婚約者にはかっこいい自分を見せたいのだろう。前世アラサーの私がそのいじらしさに「尊い……」とときめいた。


「私は聖女ではありませんが、ノアさまの為なら何でもします」


 私が生き延びるためにも、と頭の中で付け加える。ノアにはこれからも生きていてもらわなければ。


「オリヴィア……。僕はどうしたら、君の愛に報いることができるだろう」


 ノアが青い瞳で遠くを見やりながら何かぼそりと呟いた。


「ノアさま、いま何と?」

「……いや。ただ、強くならなければ、と思ってね」


 何かを決意したようなノアの顔は大人びて見えて、少しどきりとしてしまった。



「と、いうわけで、活性炭を作ります!」


 ひと気のない王太子宮の裏で、私は神獣シロに向かいそう宣言した。

 少しの間のあと、シロがこてんと首を傾げる。


『かっせいたんてなぁに?』

「炭です」

『また炭かぁ』

「ただの炭じゃないの。細かな穴が無数にあって、毒素なんかを吸着する性質を持っている炭。それが活性炭!」


 前世では一般的にも匂いとりや水の浄化に利用されていた活性炭。薬として飲めば、体内の毒素を吸着し、そのまま便と一緒に排出される作用がある。実際に医療現場でも使われていた優秀な解毒剤なのだ。


 ただ、デトックスサプリとして出回ったとき、慢性利用で消化器に障害が起きる事例が上がっていた。なので使いすぎは良くないし、元々消化器に問題がある場合は利用は控えたほうがいい。

 ノアの状態は慢性中毒だが、幸い私のように虚弱ではないし疾患もない。それはひとえに王太子としての日々の鍛錬のおかげだろう。


「私がいなくても活性炭があれば、ノアさまの生存率も上がるはず。だからシロ、よろしく!」

『え~。まだデトックスフルコース作ってもらってないしなぁ』

「お願~い。活性炭が出来たら絶対作るから。炭じゃないデトックスデザートもつけちゃう!」

『も~。神獣使いが荒いんだから~』


 シロはぶつぶつ文句を言っていたが、デザートふたつでコロッと態度を変え協力的になった。食い意地が張っている神獣で本当に助かる。


 前世、簡易的な活性炭を自作してみたことがあった。そのときはバーベキューのついでに缶に入れて作ったのだが、この世界には便利な金属製の缶がない。

 活性炭を作るには高温で木や竹を焼き、水蒸気や空気のある状態で炭化させ、人工的に炭に無数の穴を開ける必要がある。缶ではなくても窯でもいいのだ。だがこんなところに勝手に窯を作ると目立つので、シロの力で土中に窯を作ってもらうことにした。


「空気の通る煙突と、水を入れる管もつけてほしいの。あ、でも中に入れた木材が水で濡れないようにできる? 蒸し焼きにするイメージで」

『注文が多い~~~』


 シロはうんざりした顔をしながらも、私のリクエストに応え窯を作ってくれた。

 早速薪を入れて焼いている間、気になっていたことを聞いてみる。


「そういえばシロって、回復魔法は使える?」


 この世界には七種の精霊が存在している。火、水、風、土、雷の五大要素の精霊に、光と闇の原始の精霊、併せて七種だ。シロなら王宮医よりも強力な回復魔法が使えるのではないだろうか。


『使えないよぉ』

「えっ。使えないの?」

『うん。僕に与えられたのは五大精霊の力だけ。原始の精霊の力があると、オリヴィアが手を抜きそうだからやめておいたってデミウルさまが言ってた』


 手を抜くって何だ、と思わずムッとしてしまう。

 生死がかかっているのに手抜きなどするか。もちろん使える力は遠慮なく利用させてはもらうが。


「ま、しょうがないか。光の精霊の回復魔法は主人公のものってことだよね」


 王宮医でも光の加護を持っているのはごく一部らしい。契約しているのも下位の精霊ばかりだとか。ほとんどは健康管理や怪我の治療、滋養強壮剤や解毒薬などの薬の調合といった仕事をしているそうだ。魔法で回復はできても解毒はできないので調合も医師には必要な技術なのだ。


 そういえば、乙女ゲーム【救国の聖女】ではイベントをクリアすると報酬に攻略対象者から解毒に使える薬草をもらえる。そうやって薬草を集め、イベントクリアに必要な解毒薬を作るのだ。

 イケメンたちがやたら薬草を持っているので『草から始まる恋www』などとネットで揶揄されていたことを思い出す。ギルバートもあんな俺様のくせに、懐にはいつも草を忍ばせていたのだろうか。想像すると草生える。


『回復魔法、使いたかった?』

「う~ん。まあ毒スキルよりはいいとは思うよ。隠す必要もないし。でもただでさえ光魔法の遣い手は貴重なのに、聖女みたいな回復魔法が使えたら目立っちゃうでしょ。私は地味に平和に生きたいだけなんだよね」


 ただ静かに穏やかに生きていたい。私の願いはそれだけなのに、周りがなかなかそうさせてくれない。

 私は現在、王都の外れで療養中ということになっている。治療院にほど近い小さな屋敷でカモフラージュに護衛も置いているそうだが、すでに侵入者が二度も現れたらしい。

 私の様子を探ろうとしたのか、再び命を狙ってきたのかはわからないが、王妃がまだ私を狙っていることは間違いないようだ。

 いつか誰にも脅かされることなく暮らせる日々は訪れるのだろうか。

 そんなときは永遠に来ない気がして、ため息は深く長くなるばかりだった。


 途中数回水を投入して蒸し焼きにしたあと、シロの土魔法で土中の竈を割り開くと、真っ黒な炭が現れた。


「お~。上手くできちゃった」

『これで完成? じゃあデトックス料理を……』

「まだよ。このままじゃただの脆い炭で扱いにくいから、固めて小さい粒にするの」

『え~!? まだあるの!? っていうかもしかして、固めるのも僕がやるの!?』

「デトックス料理のためにがんばってね!」


 シロは割りに合わないと嘆きながらも、活性炭の解毒剤作りに協力してくれた。

 ああでもないこうでもないと、シロに色々と注文を付けて作ってはやり直すのを繰り返すこと数十回。

 小指の爪ほどの大きさの錠剤が完成したとき、私はこれで少しは安心してここを離れられると思えた。安堵に混じった寂しさのようなものを感じながら。



 私の妃教育がある程度進み、ノアの体調が回復してきた頃、父・アーヴァイン侯爵から離島の準備が整ったと連絡が入った。

 とうとう王太子宮を出て、王都を離れるときが来たのである。


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