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毒殺される悪役令嬢ですが、いつの間にか溺愛ルートに入っていたようで【小説・コミックス発売中☆タテスク連載中!】  作者: 糸四季
二人の王子の章

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第二十二話 一度目の婚約者

 本物の聖女は別にいる。

 そう言いたいのに言えない。罪悪感とストレスで胃に穴が開きそうだ。胃粘膜を保護する食事を考えなければ。


「せ、精霊とすでに契約されていると……? 本当ですかなビビアン嬢?」

「先生。それはたまたまで……」

「契約前の精霊が、彼女を守ったんだ。よほど精霊に好かれているのだろう」


 私の才能などではなく、ただの偶然だった。

 そういうことにしたいのに、なぜか周りは私がすごいということにしたがる。心の底からやめてほしい。


「ブレナンさま。それだけではないのですよ。ビビアンさまは草花の効能にもお詳しいのです。殿下のために体に良いお茶や食材を教えてくださいますし、本当に博識でいらっしゃるのですよ。まさに未来の王妃に相応しいお方ですわ」

「なんと薬草学にまで精通されていると……! 入学前に精霊と契約できたことだけでも充分素晴らしい才能をお持ちだというのに。いやはや、殿下が聖女と断言するのも頷けますなあ」

「ですから聖女ではなく……あの、皆さま聞いてます?」


 私がいくら否定しても聞く耳持たずで、三人は私のことでどんどん盛り上がっていく。

 王宮の生き字引と言われるブレナン先生の前で博識などと言われると、恥ずかしくて消えてしまいたい。

 これで三年後本物の聖女が現れたとき、騙したなと言われないよう、今後もことあるごとに私の聖女説を否定していかなければ。


「あの、ブレナン先生。私は聖女ではございませんが、もっと植物や薬について勉強したいと思っております。できれば図書館にあるそういった書物をお借りできると嬉しいのですが」


 私を褒める会のようになっている状況をどうにかしたくて、話をそらそうと別の話題を振ってみる。

 ブレナンはすぐに快く「もちろん構いませんよ」と承諾してくれた。


「次の授業のときにいくつかお持ちしましょう。いやいや、殿下の聖女さまは謙虚で勤勉でいらっしゃいますなぁ。なんとも得難い伴侶を見つけられたようで」

「その通りだ。だからブレナン。彼女のことはくれぐれも内密にしてくれ」

「心得ておりますとも」


 ノアとブレナンのやりとりには気安さがある。

 マーシャ以外にもノアに理解者がいたのがわかったのは嬉しいが、非公式なのに完全に伴侶扱いになっていることに、ため息をつかずにはいられないのだった。



 メイドとして王太子宮の庭の水やりをしながら、私は頭を悩ませていた。

 なんだか否定すればするほど、私の聖女説がより強くなっていくように思うのは気のせいだろうか。できることなら、王宮中に響き渡るほど大声で「私は悪役令嬢でーす!!!」と叫びたい。

 わりと本気でそんなことを考えていると、生け垣の向こうから複数の声と足音が聞こえて来た。


「ギルバートさま~!」

「第二王子殿下~! どこですか~!」


 それは一度目の人生で私を捨てた、第二王子・ギルバートを探す声だった。

 ギルバートを呼ぶ声に、一度目の人生で見た私を蔑むあの目を思い出し、体が震え出す。

 できれば関わりたくないが、どうしても気になってしまい、そっと生垣の向こうの様子をうかがった。


「まったく、ギルバート王子はどこに行ったのかしら」

「最近こういうこと多くない?」

「確かにしょっちゅう勉学や鍛錬の時間になるといなくなるわよね」

「そのたびこうして探し回らなきゃならない私たちのことも考えてほしいわ」


 どうやらギルバートが姿をくらまし、メイドたちが探し回っているようだ。

 ギルバートは乙女ゲームの設定でも俺様王子だったので、わがままというか偉そうというか、そういった面はままあった。

 だとしても、このメイドたちの言い方は不敬だなと思っていると、彼女らのおしゃべりはどんどんひどくなっていく。


「原因はやっぱり王太子殿下よね」

「でしょうね。優秀な王太子殿下と比べられて、面白くないのよ」

「勉強でも剣術でも馬術でも、ギルバート王子は王太子殿下に勝てないものねぇ」

「それだけじゃないわよ。性格だって、王太子殿下はとても温和で理知的でいらっしゃるでしょ?」

「本当よね。ギルバート王子と同い年とはとても思えない落ち着きや気品まで兼ね備えておられるんだもの」

「あーあ。ギルバート王子じゃなくて、王太子殿下付きのメイドになりたかったわあ」


 ノアの評判が悪くないのは嬉しいが、聞いていて気分がいいものではなかった。

 ギルバート本人がいないからと言いたい放題か。

 私はギルバートが嫌いだ。婚約者らしいことなど何ひとつしてくれないどころか、いつだって私を蔑ろにし、婚約中なのに聖女とはいえ他の女に甘い笑顔で囁いて、最後には冷たく私を見捨てた男。あんな奴、大事な部分が腐り落ちてしまえばいいとすら思う。

 けれど生垣の向こうのメイドたちのように、誰かと比べて貶めようとは思わない。一度目の人生で嫌というほど聖女と比べられ続けた私には、それがどれほど相手を傷つけることかよくわかる。


 大きく息を吸いこみ口を開いた。


「何だか下品なおしゃべりが聞こえた気がするわねぇ! 王族をバカにするような不敬をはたらく、低俗な人間が王宮にいるなんて信じられないわ~!」


 私の声に「聞かれてた!?」「行きましょっ」と慌てて逃げていくメイドたち。

 人の気配が遠ざかっていき、私はフンと鼻を鳴らした。


「やだやだ。どんな世界にも、噂好きでおしゃべりな人間はいるものね」


 前世でもそういった輩はたくさんいた。一緒になって誰かの不幸を笑ったり、秘密を言いふらしたりと彼らは随分楽しそうだった。だがそういう人間は仲間のふりをして、たいてい人の足を引っ張るものだ。

 あれなら、金の亡者で私を財布としか思っていないアンのほうがずっといい。


「ジョウロの水でもぶっかけてやればよかっ……!」


 宮の中に戻ろうと移動していた私の視界に、ありえないものが映りこんだ。

 思わず言葉を失い、足も止まってしまう。


(まさか……)


 王太子宮の入り口付近で身を隠すようにうずくまっているのは、身なりのいい子どもだった。

 体格からみると、私やノアと同じくらいか。嫌な予感しかしない。

 逃げようとしたとき、ダークブロンドの髪が揺れ顔が上がる。目元を赤くした少年と視線がぶつかった。

 若葉色の目、はっきりとした華やかな顔立ち。間違いない。彼は——。


「ギルバート、王子殿下……」


 一度目の人生で私を捨てた婚約者、第二王子だった。



昔の男キター!!! と思った方は

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