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毒殺される悪役令嬢ですが、いつの間にか溺愛ルートに入っていたようで【小説・コミックス発売中☆タテスク連載中!】  作者: 糸四季
二人の王子の章

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第二十一話 非聖女の証明

 黄緑色の液体がそそがれたグラスを前に、私は震えるほど感動していた。


「すごい……すごいよシロ! これこそまさに私が追い求めていたもの!」


 王太子宮に用意された私用の客室で、いまは私とシロのふたりきり。

なので思う存分、真っ白な巨体に抱き着きモフモフした。顎の下や首回りを撫でてやると、シロがご機嫌で鼻をピスピス鳴らす。


『うふふ。僕ってできる男?』

「もちろん! あんたはイケ男……いや、最高のイケ神獣だわ!」

『えへへ。もっと褒めて~』


 ひとしきりジャレたあと、グラスの中の液体をぐいっと一気にいかせてもらった。


「ん~! フレッシュで口当たりも良くて、完璧……!」


 私が飲んだのは、シロに手伝ってもらって作った、キャベツとりんごのジンジャージュースだ。

 神獣という名は伊達ではなく、シロはなんとすべての精霊の力を行使することができるらしい。精霊は創造神が生み出したものだから、神の遣いであるシロがすべての精霊の能力が使えるのも不思議ではない……のかもしれないが、いかんせん万能すぎる。

 私がそれはアリなのかとドキドキしていると、案の定『デミウルさまに、必要以上に力は貸さないよう言われてるんだ~』とのことでがっかりした。

 だがしかし! それであきらめる悪役令嬢オリヴィアさまではない。


「力を貸してくれたら、デトックス料理作ってあげるんだけどなぁ」


 と交渉すると、シロはあっさりこちらの手に落ちた。


(フッ。ちょろいわ)


 神獣と言えどまだ生まれたての仔犬のようなもの。『しょうがないなぁ。ちょっとだけだよ? 秘密だからね?』と言いながら、風魔法と水魔法であっという間に野菜と果物を切り刻み、ジュースにしてくれた。そう、イメージは魔法のミキサーである。

 繊維を残しつつ口当たりは最大限に良くした、とろりとしたジュース。これはキャベツのビタミンUで胃を保護、食物繊維で便通を良くし、生姜で代謝をUPするデトックスジュースだ。


 シロにも飲ませてやるとやはり『おいし~!』と長い尻尾をぶんぶん振っている。やはりデトックス料理が好みらしい。本当に変わった仔犬……いや、神獣だ。


「これからは、ノアさまの食事にもデトックスジュースを追加しよ」


 シロは水の精霊フェンリルということになっているので、ジュースを作るときは調理場の面々にはバレないようこっそり手伝ってもらわなければ。


『ねぇ、オリヴィア。今日はこのあと何をするの? お外で遊ぶ? ボール投げする?』

「お外は目立つからダメ。それに……今日からアレが始まるんだよねぇ。お妃教育」


 私がため息をつくと、シロはこてんと首を傾げる。


『お妃教育? オリヴィアはお妃さまになるの?』

「ならない! ……つもりでは、ある」


 いまでも、王族からは距離を置いた、穏やかな田舎の領地生活を送りたいとそれはもう心の底から思っている。

 だが現状は私の希望とは真逆をいっていた。私は公式発表はされていないがほぼ王太子妃に内定してしまっているし、諸悪の根源であろう王妃には目をつけられている始末。


「穏便に婚約破棄とか……難しいよね。あ、でも、離島に行ったらなんやかんや理由をつけて、王都には戻らないようにすればワンチャン……」

『オリヴィアって、考えることいっぱいあって大変だね』

「そう思うなら、ぜひ積極的に私を助けてほしいかな」

『それは供物によるかなぁ』


 ムッとしてぶんぶん振られていた尻尾を思わずつかむと『尻尾はやめてぇ』と情けない声をあげて降参する神獣だった。



「——と、初代国王の数々の勇気と献身により、魔族の呪いから解放され救われた炎の竜は、初代国王への感謝と友愛でもって国を守る守護竜となる誓いを立てた。守護の誓いは初代国王の血を受け継ぐ直系男子が王位継承することで、永久に続いていくだろう。イグバーン王国建国神話より」


 古い書物を読み終えると、部屋に拍手が鳴り響いた。

 四角い鍔の帽子をかぶった老人が、ふるふる震えながら手を叩いている。


「素晴らしい……! 歴史のみならず古代語も堪能とは。いやはや、お若いのに恐れ入る。いったいこれまでどのように高度な教育を受けられてきたのか、学士としてぜひともお聞きしたい」


 王宮図書館の館長であり、王太子の教育係りでもあるブレナン先生は、長く伸びた白い眉と白いヒゲに顔が埋もれ表情は読めないが、随分興奮しているようだった。

 王太子の要請とは言え、お仕着せを着た身分もわからない娘に王族と同じ授業をしてくれただけでも凄いことなのに、さらにはこんなにも褒めてくれるとは。ブレナンはとても器の広い学士らしい。


「ブレナン。話しているとすぐにわかるが、ビビアンは現代の国際情勢にもとても詳しいんだ」


 一緒に授業を受けていたノアが、誇らしげに言う。

 ビビアンというのは、メイドに変装している私の仮の名前だ。茶髪で眼鏡の地味なメイド、ビビアン。いまの私を見て侯爵令嬢オリヴィアだとわかる人はいないはずだ。実の父でさえ言わなければ気づかないかもしれない。

 あえて地味に見えるメイクを施したりと楽しいので、私はこの変装生活がわりと気に入っていた。ただ、変装するたび、侯爵邸に残してきた専属メイドのアンを思い出し心配になるのだが。


(あんな風に私が突然いなくなって、きっと心配して泣いて——はいないな。泣いていたとしても、それは金づるがいなくなって絶望で涙してるだけだわ)


「それだけではございませんのよ。ビビアンさまは行儀作法は完璧でいらっしゃいますし、所作も気品に溢れ大変お綺麗なのです」


 控えていた侍女のマーシャまで、そんなことを言い始めた。

 ブレナンは感心しきったように、長い顎髭を撫でながら何度も頷く。


「それはそれは。殿下は素晴らしいお方を見つけられたのですなぁ」


 あまりの居たたまれなさに、笑顔で流すのもつらくなってきた。

 いま私に教養が備わっているのは、一度目の人生ですでにお妃教育を受けていたからだ。

 ノアが亡くなっていた一度目の人生で、現在の第二王子の婚約者となった私には、王妃によりそれは厳しい教育係がつけられた。できて当然。失敗すると鞭打ちされ、睡眠時間は削られ、食事も減らされる。

 王宮でのお妃教育は、継母たちに受けていた虐待とそう変わらなかった。

 婚約者のためでも国のためでもなく、自分の為に必死になって勉強した結果がいまの私だ。申し訳なさと、やはりズルをしているようで罪悪感がわいてしまう。


「そうだ。ビビアンは神が出逢わせてくれた聖女だからな」

「聖女とは、先日神託が下ったという?」

「ああ。あれはビビアンのことだ」


 断言するノアにギョッとして、思わず「ちがいます!」と声を上げてしまった。


「の、ノアさま。私は聖女ではございません」

「何を言う。君以外いるわけがないだろう」


 それがいるのだ。乙女ゲーム【救国の聖女】の主人公である、本物の聖女が。

 私は聖女どころか、断罪される悪役令嬢でしかない。


(って、正直に言えれば楽なのに!)


「神託では、聖女が現れるのは三年後、王立学園でしたよね?」

「だから君なんだろう? 三年後、君は学園に入学する年齢だ」

「確かに年齢はそうなのですが……」

「それに入学前にすでに精霊と契約まで結んでいる。そんな君が聖女でなければ、いったい誰が聖女になれると?」


 精霊と契約⁉ とブレナンから驚きの声が上がる。また誤解が広がってしまった。

 聖女は本当に別にいる。本物の聖女は学園で、伝説の光の精霊最上位、癒しの女神と契約を結ぶのだ。間違っても精霊もどきの神獣は従えない。


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