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その後SS『闇に紛れる王太子妃③』



「お花屋さんかと思ったら、扱っているのは毒性植物か、魔物化した植物じゃない。全部買います!」

「魔物化した植物はいらないんじゃないか?」

「毒を吐くみたいなので買います!」

「買ってどうするんだ。育てるのか……?」

「んん? あちらは本屋さんですね。もしかしたら読んだことのない毒物図鑑が……あった!」

「図鑑は食べられないぞ」

「宝飾品を売っているお店もあるんですね。……は! この指輪の宝石は、海の魔獣が溜めた毒が結晶化したもので魔獣の死骸からしか採れないという貴重な毒の宝石では⁉」

「それも食べるつもりか? 消化できるのか……?」



気付けばあちこちにトリスタンを引っ張り回し、大量の戦利品を手に入れていた。これだけ買えば毒の禁断症状を防ぐのに一年は持つだろう。

ほくほくと戦利品を眺めつつ蜥蜴をかじっていると、トリスタンがぴたりと足を止めた。



「トリスタン様? どうかされました?」

「……珍しい弓がある」



トリスタンが言ったのは、テントの奥に飾られた白い弓のことだった。彫りも飾りもないシンプルな弓に、灰色だが角度によって輝く弦が張られている。

どことなくトリスタンの目が輝いて見えた。そんなに貴重な弓なのだろうか。



「これが珍しいんですか? 普通の弓に見えますけど」

「これは竜の骨で出来た弓だ」

「えっ⁉」

「弦は竜の鬣だな。丈夫で千年は壊れることはないだろう。かなりの年代物だ」



感慨深げに呟くと、トリスタンは店主に声をかける。どこで仕入れたものなのか、元の持ち主はどんな人物か等聞いている。もしかしたら、竜人族に繋がる可能性があるのかもしれない。

店主に話しかけるトリスタンはいつもの落ち着いた様子とは違い、どこか必死で、そして嬉しそうに見えた。

新たな同胞の発見はトリスタンの悲願だ。邪魔をしないようにとオリヴィアはテントから出て周囲の店を観察する。すると向かいの店に何やら色とりどりの瓶が並べられていることに気が付いた。おまけに濃厚な甘い香りが漂ってくるではないか。



「あら……? あれはもしかして、蜂蜜?」



吸い寄せられるように店に向かうと、そこには《毒蜜蜂の蜜瓶》という商品札と、可愛くない値札が並んでいた。



「全部同じものなのかしら? でもそれぞれ色が違うわ」

「勇気のあるお嬢さん。毒蜜蜂は、巣によって集める花の蜜が違うのさ。それで蜜の色も変わるんだ」



ギザギザの歯をした老人の店主が、楽しそうに教えてくれる。オリヴィアは思わず前のめりになって「同じ蜂なのに?」と聞いていた。



「ああ。女王蜂の好みが違うんじゃないかと言われているよ」

「まぁ、グルメな女王なのね」

「ははは! そうかもなぁ。毒蜜蜂はそうやって毒のある蜜と花粉を幼虫に与えて、毒に強い成虫を育てる。そうして毒花に触れても問題ない毒耐性をつけているとか。そうして」

「それは卵が先か、鶏が先か的なやつね……。でもそうやって毒で自分たちや巣を守ってもいるのね、きっと」

「襲われることは少ないだろうな。花が違うから蜜も微妙に違うが、必ず毒のある花の蜜と花粉を集めるから、どの瓶も毒入りさ。至高の甘味と言われるが、口に入れたが最後、待っているのは……へへへ。どうだいお嬢さん。ひと瓶買っていかないか?」



ニヤニヤしながら言った店主に、オリヴィアは「そうねぇ」と少し考える。

オーソドックスな琥珀色もあるが、魔物の血を混ぜたような色や、墨のように真っ黒なものまである。薄桃色のものは美味しそうだが、それもしっかり毒表示が現れていた。



「うーん……それじゃあ、ここに並んでいるもの全部買うわ!」

「は⁉ 全部!?」

「味比べしてみたいもの。蜂蜜なら保存もきくでしょ? それなら長~く隠しておけるし、最高ね!」

「ふうん? 何が最高なのかな?」



不意に後ろから地を這うような声が聞こえ、オリヴィアは文字通り飛び上がった。

まさか、と恐る恐る振り返ると、そこにいたのはやはり雷雲を背負った魔王様――もとい、夫である王太子ノアだった。

彼の後ろには当然、ユージーンとヴィンセントも控えている。一体いつからいたのだろう。



「ななな、なぜノア様たちがここに⁉」

「嫌だなオリヴィア。愛しい君がいるところが、僕のいるべき場所に決まってるじゃないか」

「こんな夜中にこんな怪しげな場所、王太子が来るべきところじゃありませんよっ」

「それならばそっくりそのまま君に返そう。風邪気味だからと早々に僕とは別に休んだはずの君が、どうしてこんな夜中にこんな怪しげな場所にいるのかな?」

「そ、それは……」

「ん?」



笑顔の圧に圧し潰され、オリヴィアはあっさり「申し訳ありませんでしたぁ!」と泣いて謝った。

ユージーンが「泣くくらいなら初めからやらなければいいのに」とあきれたように言う。その声がまた眠そうで、申し訳ない気持ちでまたメソメソするオリヴィアだ。ヴィンセントなど、ほぼ立ちながら寝ているではないか。朝には強いのに夜には弱かったのか、護衛騎士。



「何だ。もう見つかったのか」

「あっ! トリスタン様、何で来ちゃうんですかっ」



置いて逃げてくれて良かったのに、とオリヴィアは焦ってノアとトリスタンの間に立った。

ノアはことあるごとにこの竜人族の同胞であるトリスタンを排除しようとするのだ。いまだにどう聖都に送り返そうか画策していると聞いている。ちなみに情報源はノアの侍女、マーシャである。

案の定、バリバリと帯電させながらノアはトリスタンと笑顔で対峙した。



あ、明日で終わる予定! です!

「元、悪女ですから。」~以下略~にもたくさんのブクマ&☆☆☆☆☆評価ありがとうございます!

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