本編その後番外編【海と少年とハネムーン】⑬
◇◇◇
パーティーの後、夜がすっかり更けて伯爵邸から人々の気配と明かりが消えた頃。
私は広いベッドの上で息も絶え絶えに「ひどすぎるぅ……」と涙を流していた。
「ノア様のバカ……これじゃあ本当に明日は動けないぃ……」
あまりの疲労に言葉遣いが乱れてしまったけれど、そんなことを気にする余裕もない。
もう指一本動かせない。動かしたら死ぬ。
奇跡を起こす神子とか不死の乙女だとか言われているらしいけれど、私は毒では死なないというだけで、身体的にはごく普通の令嬢と変わらない。
ヨガを始めとした適度な運動はしているものの、体力は並み。むしろ並み以下。お嬢様というのはそういうものだ。
つまり私には本来、夜の営みに三回も四回も耐える体力は備わっていないのだ。
怒っていないと思っていた最愛の夫はしっかりご立腹だったらしい。
もうムリですと訴えても笑顔で押し通された。本当に死ぬかと思った。
おかげで魔王様のご機嫌がようやく本当に回復したらしい。
すっきりツヤツヤな顔をして私を見つめてくる。
「明日もふたりでこのベッドから降りずに過ごそう」
「もう無理ですぅ……うう」
泣き言を言う私の髪をひと房とり、そこに口づけながらノアが「ダメ」と笑う。
「僕に黙って、他の男と街を歩いた君がいけないんだよ。僕に寂しい思いをさせたんだから、その分慰めてもらわないとね」
「ものすごく反省したので、許してくださいぃ~」
本当に死んじゃう、とメソメソ泣く私を抱きしめ、ノアがごろりと下になる。
固く厚い胸板は温かく、ほんの少しほっとして脱力した。力なんてほとんど入っていなかったけれど。
「伯爵の下の息子は可愛かったね?」
私の髪をいじりながら、ノアがそんなことを聞いてくる。
「……? ええ、とても愛らしい子でしたけれど」
「ふむ……。特別講師を始める前に、子どもを作るのも手か……」
頭の上でぼそりとそんな呟きがして、私は震えた。
「ノア……? 今何か不穏なことを呟きませんでした?」
「いいや? 僕たちの輝かしく幸福な未来について考えていただけさ」
そんなイイ笑顔で言われても、悪寒しかしない。
「輝かしくなくていいので、私は穏やかな未来を迎えたいですぅ……」
再びメソメソと泣きながら心の底から言った私に、美貌の旦那様はとろけるような笑みでこう言った。
「お望みのままに。僕の妃」
顎をすくわれ、星空の瞳に甘く見つめられれば応えずにはいられない。
目を閉じ口づけを受け入れる。
結局嫉妬され、束縛され、ベッドで泣かされてもこの人が好きなのだ。
うっとりと彼の唇の柔らかさを堪能していると、大きな手が私の腰のあたりで不埒な動きをし始める。
まさか、と頭の中に警報が鳴り響いたと同時にゴロンと上下が入れ替わり、再びシーツに縫い付けられた。
「……って、ノア! もう無理ですってば!」
「大丈夫、大丈夫」
「全然大丈夫じゃ……もおおおおっ!」
ベッドの軋む音の向こう。
一晩中、遠くに波の音を聞いていた。
私とノアが美しい白い海街を散策できたのは、それからなんと三日後のこと。
ようやくベッドを下りる許可が出て、三日ぶりに顔を合わせたアーサーがひどく気まずげな顔をしていたので、私は恥ずかしくて心に千のダメージを受けるのだった。
魔王様は夜も魔王様(最後の最後に下ネタ)
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