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毒殺される悪役令嬢ですが、いつの間にか溺愛ルートに入っていたようで【小説・コミックス発売中☆タテスク連載中!】  作者: 糸四季
妃殿下の章

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本編その後番外編【海と少年とハネムーン】⑦

とんでもなく中途半端なところで更新を止めてしまい、申し訳ありませんでした!

あれから胃腸が回復せず治療に専念している間に私事で色々とあり、こんなに間が空いてしまいました…

小説3巻にコミック4巻も発売されましたが、お迎えいただきありがとうございます^^

タテスクでも第二部スタートしておりますので、よろしくお願いいたします!

(今度Twitterで書籍やコミックのプレゼント企画をやりたいなと思っております)


「ねぇ、アーサー。家族を守るために背を向けるのは、正しいかどうかはわからないけれど、悪いことではないと私は思うの。でも、そうやってあなたは自分の気持ちを抑えこんでいるでしょう?」



 私がそうだったように。

 私はやり直すことが出来たけれど、一度目の人生の結果は悲惨なものだった。自分を殺して、搾取され、利用され、身を滅ぼした。あんな目には誰にも遭ってほしくない。



「そうしなきゃ俺は……」


「ええ。あなたは優しいからその選択をしたのでしょうけど、あなただけがいつまでも苦しむことはないんじゃないかしら」



 そう言えるのは、私に手を差し伸べてくれた人たちがいたからだ。

 自分を愛していいと、愛すべきだと私は彼らに教えてもらった。

 だから私は、アーサーにとっての彼らになりたいと思う。



「家族とは必ずしも、何も言わなくてもお互いを理解し合えるものではないわ」



 アーサーは納得できない、という顔をする。

 きっと彼の母親が、彼の良き理解者だったからなのだろう。けれどアーサーの家族は亡くなった母だけではないし、彼もまた家族の一員だ。



「アーサー。あなたはお父様の考えをすべて知ることはできる? 私には出来なかった。そしてなぜ父は私を理解してくれないのかと、一方的に恨んだ時期もあったわ」


「……あんたも?」


「ええ。でも、話せばわかってもらえたし、私も父を知ることが出来たの。家族も他人も、まずは相手を知り、自分を知ってもらうところから始まるのだと思うわ」



 家族だからとそれを怠れば、誤解が生じすれ違うことも起こる。

 家族だからこそ努力することを忘れてはいけないのに。誰より身近で大切な存在なのだから。



「自分だけ耐えるんじゃなくて、アーサーにはもっと自分を大切にしてほしい」



 そう言って私が微笑むと、アーサーはぼぅっとした顔でこちらを見たあと、慌てたように目を逸らした。

 まだダメか。中々頑固だ。耐えていた分、殻が固くなっているのだろう。

 その気持ちはわかる。私だって創造神デミウルの気まぐれがなければ、変わることは出来なかっただろうから。



「一度家族と話してみてはどうかしら。知らなかったことを知って、見えなかったものが見えてくるかも」


「でも、それでもダメなら俺は……」


「その時は、本当に逃げてしまえばいい。言ったでしょう? 自分を大切にしてほしいって。必要なら力になるわ」



 意外そうな顔でアーサーが私を見る。



「あんたが?」


「これでも結構、お金とコネは持っているのよ」



 何せ王太子妃で神子ですから、とは今はまだ言わないでおく。

 アーサーは疑いの眼差しを向けてきたけれど、私は笑顔で受け止めた。



「あなたが大切にしている限り、お母様の存在が消えることはないわ。あなたは好きな場所で好きなように生き、お母様を好きな時に思い出していいのよ」


「俺の好きなように……」



 あまり母との思い出がない私の中にさえ、母は生きている。時には慰めをくれ、癒しをくれ、助けてもくれる。

 そうやってアーサーも前を向いて自由に生きてほしい。



「ヴィヴィアン様。そろそろ……」


「はっ! え、待って、そうだもう夕刻じゃない!」



 ケイトに声をかけられ、私は飛び上がった。

 今晩、ブラウン伯爵が歓迎パーティーを開いてくれるのに、私はまだ何の準備もしていない。伯爵邸にいるアンたちは準備万端で待っていてくれているだろうけれど。

 こんなに遅くなる予定ではなかったから、ノアも心配しているかもしれない。



「シロ!」


『はぁ~い! 呼んだぁ?』



 光の粒子をまといながら宙に現れたシロに、アーサーが後ずさりをした。



「うわっ⁉ でかいフェンリル⁉」


『フェンリルじゃないよぅ』



 誰この子? と聞いてくるシロに「新しくできた友達」と答え、ケイトを振り向く。



「ケイト! あなたは他の護衛と一緒にアーサーを送ってあげてくれる?」


「承りました。雷の雨が降る前にどうぞお戻りくださいませ」


「うう……怖いこと言わないで。ヴィンセント卿はどうします?」



 ヴィンセントは胸に手を当て恭しく礼を取る。



「もちろん、お供します」


「だって。シロ、がんばってね」


『ええ~。来たばっかりなのにぃ。デトックスのフルコースを所望するぅ~~~』



 ブーブー文句を言いながらも、シロは伏せて私とヴィンセントをその背に乗せてくれた。

 王太子妃になってから、このモフモフの背中に乗る機会がなかったので、妙に懐かしい気持ちになる。

 ケイトは私を全肯定だから、シロの背に乗ってもヨガをしても、寧ろ何をしても褒めてくれるけど、ユージーンに見られると厄介だ。お説教一時間コースは免れない。

 伯爵邸の手前でシロには降ろしてもらうとしよう。



「アーサー! 今日は街を案内してくれてありがとう!」



 空へと飛びあがるシロの背から叫ぶ。

 それまでぼう然としていたアーサーが、ハッとした顔でこちらを見上げた。



「なぁ! また会えるか⁉」


「ええ! きっとすぐに」



 小さくなっていくアーサーに手を振り、私たちは街の向こうの伯爵邸を目指し飛んだ。


 潮風に髪とドレスの裾が舞う。夕日が海へと沈んでいく。

 明日、この景色を今度はノアと見よう。夕日もいいが、朝日もきっと綺麗だろう。

 愛する人と見る景色は、殊更。




業火担がいま一番雷落としたいのは作者説。

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