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毒殺される悪役令嬢ですが、いつの間にか溺愛ルートに入っていたようで【小説・コミックス発売中☆タテスク連載中!】  作者: 糸四季
妃殿下の章

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本編その後番外編【海と少年とハネムーン】⑥

胃腸炎にやられておりました…(食べられないのに痩せない意味がわからない)

更新をお休みしてしまい申し訳ありません!


◇◇◇




 街からしばらく馬車を走らせ、辿りついたのは海辺の崖の上だった。

 愛らしい小花が咲く崖に降り立つと、潮風に吹かれ髪が踊る。



「わあ、素敵……! 海と街を一望出来るのね」



 どこまでも続く水平線と、夕日に染まる白い街。その奥には丘の上の伯爵邸も見える。

 贅沢な景色に私は目を細めた。



「うん。いい風……」


「でも、どうしてここに? 砂浜なんてありませんわよ」



 ケイトの言葉に、確かにとアーサーを振り向いた。

 アーサーは私と同じように街を見ていた。その目は優しく、そして寂しげに映る。この景色に特別な思い入れがあるのだろうか。



「人目につかない海辺は、そこを下りていった先だ」



 アーサーの指した低木の並ぶほうを見ると、わかりにくいが茂みの奥に海へと続く足場が隠れていた。

 ケイトと一緒に覗きこむと、手すりもない剝き出しの階段が崖の下まで続き、白い砂浜が見える。



「わ。すごい。崖を切り出して階段にしたのね」


「ちょうど入江になっていて、人目につかないのですね」


「下りたければ好きにしてくれ」


 そう言うと、アーサーは私たちに背を向ける。


「あなたは? 行かないの?」



 彼は答えず、崖の縁に歩み寄り、膝をついた。

 そこにはたったひとつ、ぽつんと置かれた墓があった。



「……どなたのお墓?」


「母親」



 端的に答えたアーサーに、私は一瞬言葉に詰まる。

 そうか。彼も母親を亡くしているのか。



「俺が十歳の時に病気で亡くなった」


「そう……」


「でも、その二年後には新しい母親が来た」



 またしても言葉に詰まった。

 二年は早い。この世界であればそう珍しいことではないかもしれないが、前世の常識で言えば子どもがグレてもおかしくないくらいの早さだと思う。

 私も前世の記憶が戻る前に父が再婚した時は、母のことをほとんど覚えていなかったとはいえ、悲しくて、何より不安が大きかった。



「新しいお母様と、上手くいってないの?」


「別に悪い人じゃない。でも、俺は受け入れられなかった。すぐに弟が生まれて、父親と新しい母が幸せそうにしているのを見ると、余計に。俺だけじゃなくて、実の母の姿まで家の中から消えていくみたいに感じた」



 わかりすぎて胸が痛い。

 父の中からも使用人たちの中からも、母の姿が消えてしまったように私も感じていた。

 一度目の人生ではそういう気持ちも、継母と義妹からの仕打ちの耐えることで精一杯で、いつの間にか感じなくなってしまったけれど。

 


「そう感じるのは、仕方のないことだわ」


 本心からそう言ったのだけれど、アーサーは儀礼的な慰めだと思ったのか苦く笑った。


「家を出ることも考えたけど、俺がいなくなったら、本当に実の母の存在までなかったことになりそうでさ。けど、弟が生まれてから、新しい母親がこの街は合わないって言い始めたのを聞いて、腹が立ってきて。じゃあ何で家に来たんだよって。顔合わせたら最低なことを言っちゃいそうで。でも家を出ることも出来なくて……」



 眉を寄せ、ため息を押し殺すアーサー。

 私は自分のことのように感じ、うなずいた。



「海に逃げたのね」



 彼の心情は容易に想像できた。

 多感な時期故に、誰にも想像できずひとり苦悩してきたのだろう。



「情けないだろ。笑えよ」


「笑う? どうして? 家族を傷つけないために距離をとったあなたは立派だわ」



 お世辞でもなんでもなく言うと、アーサーはぐっと何かを堪えるような顔をして、墓標に向き直った。

 これまで彼は、こんな風にしてひとり、涙を堪えてきたのだろうか。



「……亡くなった母は、優しくて強い人だった。身分関係なく、誰にでも親切だったんだ」


「さすが、あなたのお母様ね」


「ちょっと変わってたけどな。俺が一緒に海で遊びたいとねだったら、下の入江に連れて行ってくれた。そこで母もびしょ濡れになって遊んでくれたんだ」



 遠い記憶をなぞるように、アーサーは海を眺めて目を細める。

 そうか。人目につかないという砂浜は、アーサーの母が幼い彼の為に見つけた場所なのだろう。



「そう……素敵なお母様ね。ご存命の時にお会いできたら、仲良くなれたかも」



 私だって、子どもが生まれたら、その子が一緒に海に入りたいとねだったなら、きっと同じことをしただろう。

 まだ自分の子どもなんて考えたこともなかったけど、きっと。


 アーサーが供えた花束を見下ろし、私も彼と同じように膝をついて目を閉じた。

 あなたの息子さんは優しい子に育っていますよ。そう墓に語りかけ、目を開ける。

 王都に戻ったら、私も母の墓参りをしよう。ノアと父と、トリスタンも一緒に。



「……よし。海に入るのは諦めるわ」


 立ち上がりながら私が言うと、アーサーも訝しげな顔をしながら立ち上がる。


「何だよ。せっかく連れてきてやったのに」


「だって、お母様との思い出の入江なんでしょう? 他人が騒がしくして良い場所じゃないわ」



 ごめんなさい、と私が謝ると、アーサーは「何で謝るんだよ」と言いながら、一瞬泣きだしそうな顔をした。

 ほっとしたような、気恥ずかしそうな、嬉しそうな、何とも言えない表情だ。



「ふふ。……それにしても、本当に美しい街ね。夕日に染まって、まるでサンゴのよう」



 昼間とまったく違った景色に見える。

 きっと夜も朝も、この街は違った顔を見せてくれるのだろう。



「母も、同じことを言ってたよ……」



 目元をこすった後、アーサーはそう言って笑った。

 桟橋で会った時よりも、すっきりとした笑顔に見える。

 目を細めて街を眺めるアーサーをそっと見守っていると、ケイトがそばに来て耳打ちをしてきた。



「オリヴィア様。アーサーはもしかして……」



 ケイトも気づいたようだ。

 私は無言でうなずき、わかっていると目で伝えた。


 偶然の出会いだったのに不思議な運命を感じる。彼に伝えるべきか迷ったけれど、すぐに今じゃないと言葉を飲みこんだ。

 その時はきっとすぐに訪れるだろう。



ハネムーンどこいった? と思ってるそこのあなた!

たぶん業火担も同じことを思っています……震

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