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毒殺される悪役令嬢ですが、いつの間にか溺愛ルートに入っていたようで【小説・コミックス発売中☆タテスク連載中!】  作者: 糸四季
妃殿下の章

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本編その後番外編【海と少年とハネムーン】⑤

お休みの方―!! お出かけついでに毒殺令嬢3巻を探しに行くのはいかがですかー!!

◇◇◇



 半ば強請るような形ではあったけれど、私は海辺の街の案内人を得ることに成功した。

 赤毛の少年の名前はアーサー。家名は名乗らなかったので、私もヴィヴィアンという仮名だけを伝えた。

 神子で王太子妃のオリヴィアと名乗らなくていいのは気が楽だ。

 ちょっとだけ、前世の一般人だった自分に戻ったような気分になる。


 白で統一された街は美しくも賑やかだった。

 メインの通りには飲食店、土産物屋、特産物、交易品の店等がずらりと並び、様々な装いの人で溢れている。イグバーンと異国の色が交じり合ったような景色だ。


 父たちへの土産を探すのには困らなかった。興味を引くものがありすぎて迷ったくらいだ。

 セレナやマーシャたち女性陣には、白蝶貝に透かし彫りを施した、髪飾りやブローチ、コンパクトを選んだ。父にはアンモライトのカフスボタン。トリスタンには珊瑚で出来た笛を買った。



「せっかくだし、ノア様にも……」



 少し高級な店で、虹色の羽のような不思議な輝きを放つ宝石のネックレスを見つけた。

 角度によっては黒っぽくも、青っぽくも見え、海の碧にも似ている気がした。

 私が手に取ったのを見たアーサーは、これはこの辺りでしか採れない希少な貝だと教えてくれる。


「古くからお守りとして重宝されてるよ」


「お守り……。気に入った。これにするわ」



 店主に贈り物だと言うと、丁寧に包み青いリボンで飾ってくれた。

 ノアは喜んでくれるだろうか。彼なら何だって喜んでくれるだろうけれど。



「ありがとう、アーサー! あなたのおかげで、素敵なお土産が買えたわ」



 店を出てお礼を言うと、彼は「そりゃよかった」と言ってそっぽを向いた。

 少し耳が赤い。照れているのだろうか。



「色々な物があり過ぎて、すっかり迷っちゃった。ここはいい街ね。活気があって、景色も綺麗。食べ物も美味しいし」



 言ってるそばから美味しそうな海鮮ものの串焼きの露店を見つけ飛びついた。

 海老や貝の串焼きを注文し、ヴィンセントやケイトにも配る。



「ん~! ぷりっぷり!」



 新鮮な海の幸は歯ごたえと甘みがあって最高に美味しかった。

 あのヴィンセントも目を輝かせて食べていたし、ケイトは「立ちながら食べるのですか……」と戸惑いながらも、食べた瞬間目を見開いていた。



「海老や貝は抗酸化作用があって、デトックス効果が高いのよ~」


「海老や貝にもデトックス効果があるのですか!」


「ええ。だからこの街にいる間に、たくさん海鮮もの食べましょうね」



 ケイトは元気よく返事をして、もう周りを気にすることなく串焼きを食べていた。

 串を片手に周囲を見回せば、青い空の下色とりどりの織物があちこちに飾られ、どこかから陽気な音楽が流れ、行き交う人はみな眩しい笑顔。

 素敵なものがたくさんある、魅力に溢れた街だと思う。



「アーサー。あなたも葉巻なんてやめて、串焼きでもかじっていなさい」


「んぐっ」



 隣にいたアーサーの口にも串焼きを押し込んだ。

 食べるつもりはなかったのか「何するんだ」という目で見てくる。



「子どもは美味しいものをたくさん食べなきゃね」


「子どもじゃねーし……」



 文句を言いながらも、アーサーは串焼きを受け取り食べ始めた。

 成長期なのだろうから、もっと食べないと。アーサーは少し細い気がする。



「それにしても、本当に素敵な街ね。ここに住みたいくらい」


「あんた、王都に住んでんだろ。こんな何もないとこに住んでも、三日で飽きるんじゃねーの」


「あら、そんなことないわよ。だって王都には海はないもの」



 確かに王都にはここ以上に様々な店があり、様々な人がいて、演劇が楽しめたり楽団の演奏会を聴けたり、毎夜煌びやかな夜会が開かれたりするけれど。飽きるというならそういったもののほうではないだろうか。

 この街の美しい海に飽きるなんてことはないはず。



「海……」


「あーあ。これで海に入れるなら、本当に引っ越してここに住むのに」


 私のぼやきに、ケイトがいち早く反応を見せた。


「オリ……んんっ。ヴィヴィアン様。滅多なことをおっしゃるものでは……」


「ケイトもここに一緒に住んだら楽しいと思わない?」


「……! も、もちろん私は、ヴィヴィアン様が行かれる所にどこでもついて参りますわ!」



 突然興奮したように拳を握って叫ぶケイト。

 そんなに串焼きが気に入ったのだろうか。



「ヴィンセント卿もですよね?」


「ももまめももももいまいまう」



 かつて半魔と呼ばれた騎士は、大きな貝を口いっぱい頬張りながら、真面目くさった顔で意味不明な音を発した。恐らく、どこまでもお供いたします、と言ったのだろう。



「ふふふ。それが出来たら楽しそう」



 王太子妃が王宮、王都を出て一貴族の領地に引っ越すなど実現不可能。そんなことはわかっている。

 でもいまは、私は王太子妃オリヴィアではなく、ただのオリヴィアだから。夢を語るくらいは許されるはず。


 私がそうしてぼんやりと道行く人々を眺めていると、串焼きを食べ終えたアーサーがぽつりと言った。



「……誰の目にもつかずに泳げる場所、ひとつだけ知ってるけど」


「え? 本当⁉」


 さすが地元民! 観光客が知らない穴場を知っているらしい。


「ああ。街から少し離れてるけど」


「連れてってくれるの? 嬉しい! ありがとう!」


「お、おい……っ」



 思わず彼の手を握って喜ぶと、次の瞬間両側から右手と左手をそれぞれ引きはがされた。

 ケイトとヴィンセントだ。



「ヴィヴィアン様! 気軽に殿方の手に触れてはなりませんわ!」


「……雷の雨」


「はっ! そ、そうだった。ありがとう、ふたりとも。気を付けるわ」



 危ない危ない。こんなところをノアに見られた日には、雷の雨で街が消えるだけでなく、私もただでは済まないだろう。

 監禁ルートまっしぐらだけは避けたい。



 「一体あんたは何なんだ……」



 ケイトとヴィンセントの過剰とも言える反応に驚いたらしいアーサーは、私を訝しげに見てくる。

 まあ、不思議に思うのも無理はない。彼はノアという存在を知らないのだから。



「私? そうねぇ。私には業火担がついてるのよね」


「は?」


「気にしないで。それより、その人の目を気にせず泳げる場所に案内してくれる?」


 うずうずしながら私が聞くと、アーサーはあきれたようにため息をついた。


「わかったよ。……先に花を買ってもいいか?」


「いいけど……」



 なぜ花? 彼女にでもあげるのだろうか。それとも家族にお土産?

 少し気になりながらも、私たちは花売りの元に向かうアーサーの背中を追いかけるのだった。





ぞんあまさんで続編希望とレビューをくださった方! ここ読んでくださってるかな??

終わって寂しいって思ってもらえるの作者としてめちゃめちゃ嬉しいです!!

本当にありがとうございますっ!!

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