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毒殺される悪役令嬢ですが、いつの間にか溺愛ルートに入っていたようで【小説・コミックス発売中☆タテスク連載中!】  作者: 糸四季
妃殿下の章

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本編その後番外編【海と少年とハネムーン】③

本日、ビーンズ文庫『毒殺される悪役令嬢ですが、いつの間にか溺愛ルートに入っていたようで』最終3巻の発売日です!! ぜひぜひ、茲助先生の美麗なイラストと、各種書き下ろし番外編をお楽しみくださいませ~!!

◇◇◇



 着いたばかりだというのに、ノアは早速伯爵と視察に関する会議をすることになった。



「ひとりにしてごめんね。ヴィアはゆっくり過ごしていて。ただし、護衛を振り切って単独行動などしないように」



 真剣な顔でそう言ったノアは、私をいったいいくつの子どもだと思っているのだろう。

 釈然としないものを感じながらも、私は荷ほどきをアンや伯爵邸のメイドたちに任せ、近くの海を散策することにした。

 お供には侍女として元親衛隊のケイトと、護衛にはヴィンセントを連れて出た。

 ヴィンセント以外にも王太子妃の護衛騎士が四名。伯爵家の護衛も四名ついて来ているらしい。らしいというのは、ヴィンセント以外の護衛の姿が見当たらないからだ。

 私が過ごしやすいように、彼らは私から見えない場所で任務に当たってくれているそうだ。おかげで私とケイトとヴィンセントの三人だけで広い海を満喫している気分を味わえる。



「本当に綺麗な海……!」



 伯爵邸の建つ丘を馬車で下り、そのまま海岸線を真っすぐ伸びるレンガ道に出た。

 馬車を停めて降り立ったのは、真っ白でサラサラと風に形を変える砂浜。



「いい景色ですね、ヴィンセント卿!」



 海風に吹かれ、帽子を押さえながら振り返る。

 私と同じように町民に変装したヴィンセントが、周囲を警戒しながらこちらを向いた。



「ヴィンセント卿は海はお好きですか?」


「好き……? どうでしょう。初めて来たので」


「えっ? じゃあ、海水浴はしたことがない?」


「かいすいよく……?」



 首を傾げるヴィンセントは、赤い瞳を眼帯で隠している。

 街で目立たないようにする為だ。私が落ち着いて過ごせるように、彼なりに気を遣ってくれているのだ。



「海で泳ぐことです。こういう砂浜にパラソルを立てて、敷物を敷いて、水着を着て海に入るんですよ」


「なぜ、海に入るのですか?」


「なぜって……」



 心底不思議そうに聞かれ、戸惑う。

 なぜ海に入るのか。そこに海があるからだ。

 前世で似たようなことを言った登山家がいたような。けれど、そう言うしかない。



「海があったら、入りたくなるでしょう?」


「ああ。泳ぎの練習ですか」



 妙に納得したように言われ、苦笑してしまう。

 海があったら泳ぎの練習をしたくなるのだろうか、ヴィンセントは。



「そういう人もいるかもしれませんが、泳がなくても水に浸かるだけでも……」



 十分楽しい、と続けようとしたところで、それまで黙って控えていたケイトがズイと前に出た。



「オリヴィア様、まさか海に入られるおつもりでしょうか?」


 なぜか顔色の悪いケイトに詰め寄られ、少したじろぐ。


「ええ。そのつもりでパラソルや水着を作ってきたのだし……」



 アンにも、伯爵領でも宣伝しましょうと強く言われていた。売上アップ間違いなしだと。

 けれどケイトは信じられないとばかりに両頬に手をやり飛び上がった。



「い、いけませんわ!」


「え? ケイト……?」



 一体急にどうしたのだ。

 驚く私とヴィンセントの前で、ケイトは両手を握りしめ声を大きくした。



「もちろんオリヴィア様の泳がれる姿は見たいですわ! きっと聖なる泉に舞い降りた女神のごとき美しさでしょうとも! そんなの見たいに決まっております!」


「ええ……そんなに期待されるほどのものじゃ……」



 そこまで言われると見せるのを躊躇ってしまうではないか。

 ヨガで日々体を整えてはいるものの、王太子妃になってからは明らかに運動不足だし。



「ですが! オリヴィア様は王太子妃であらせられます! いくら服を着ていようとも、しとどに濡れたオリヴィア様をその他大勢の目にさらすわけにはまいりませんわ!」


「し、しとど……。でも、水着と言ってもほとんどドレスのようなものよ」



 そう。前世で着ていたような腕や足が露出するような水着は、この世界では当然タブーだ。特に足は平民でも隠すのがマナー。ビキニなんて以ての外である。

 そんなわけで、私が作ったのは薄く軽い素材のシンプルなワンピース。水着と言っても普通の服と変わらない。


 そう説明しても、ケイトはため息をついて首を横に振った。



「親衛隊としてはオリヴィア様の願いはすべて叶えて差し上げたいところではございますが……」


「ケイト。あなたはもう親衛隊じゃなく私の侍女でしょ」


「私は侍女である前に親衛隊員でございます! そんなことより、海水浴はいけません! この美しい伯爵領に雷の雨が降ってもよろしいのですか?」


「う……っ」



 これまでなるべく考えないように、頭から追いやっていた現実を、専属侍女に突きつけられてしまった。

 私も王都にいた時から薄々、ノアは反対しそうだなとは思っていたのだ。でも一緒の時なら許してくれるのではないか、と楽観視もしていた。

 一応ノアの水着も作ってきたのだが、やはりダメか。



「それを言われると、私も何も言えない……」


 うなだれる私に、ケイトは申し訳なさそうに微笑む。


「わかっていただけてようございましたわ。お靴を脱いでほんの少し足だけ濡らす程度でしたらお手伝いいたしますので。そう気を落とされないでくださいませ」


「うう……我慢するわ」



 仕方ない。今回は諦めよう。でもその内こっそりシロに乗って、どこか人の少ない砂浜を探し、今日の為に作った水着を着て海水浴をしてやる。

 まあこの旅行では、念願の美しい海に来られただけで満足としよう。


 気を取り直し、辺りをぐるりと見まわしてみる。

 どこまでも続く海と、広い砂浜。素晴らしい景色なのに、人の姿がほとんどないのが不思議だ。



「ねぇ、ケイト。あまり海に入る人はいないのかしら?」


「どうでしょう? 私も海は馴染みがないものですから。川や湖は、眺めたり船に乗って楽しむものというのはわかるのですが」



 頬に手をやり首を傾げるケイトは、生まれも育ちも王都の都会っ子だ。

 私もそうだけれど、どうしても前世の感覚とごっちゃになってしまう。



「貴族のはそうでも、平民は海水浴をするものだと思っていたのだけど……」


「ひと気がありませんものね。……あっ。オリヴィア様、向こうに人影がありますわ」



 ケイトが指さした方向。石造りの桟橋の傍に、人が数名集まっているのが見えた。

 地元の人たちだろうか。



「本当ね。……ちょっと聞いてみましょう」


「え? あ、オ、オリヴィア様、お待ちを……!」



 砂に足を取られながらも桟橋に近づくと、集まっていたのは若者たちだった。私と同じくらいの年ごろの男性が五人。皆町人らしいいで立ちをしている。


 ケイトに静止される前に、私は彼らに「こんにちは」と声をかけた。

 なるべく平民に見えるように、にこにこと笑う。



「何だ? ……おい。えらい美人だぞ」


「うっわ……こんな美女見たことねぇ」



 若者たちがこそこそと何か囁き合っている。

 不自然だっただろうか、と首を傾げたとき、若者のうちのひとりが前に出てきた。

 笑顔だけれど、何となく嫌悪感を覚える表情だ。じっとりとした視線のせいだろうか。



「綺麗なお姉さん、俺たちに何か御用ですか?」


「ええ。ちょっと聞きたいことがあって。あなたたちは、この街に住んでいるの?」


 私の問いに、他の若者たちも距離を縮めてくる。


「そうだぜ、生まれも育ちもここさ」


「海しかねぇし、美人は少ないけど、色々住みやすい街だよ」


 にやついた顔の彼らから一歩距離を取りながら、私は笑顔を絶やさず問いを重ねる。


「良かった。じゃあ聞くけど、この街の人たちは、海に入って遊ぶことはないのかしら?」


「海ィ?」



 突然、彼らは一斉にドッと笑い出した。

 予想外の反応に、私は目を見開きケイトを見る。ケイトはなぜか不満気に若者たちを睨んでいた。

 私がバカにされたと思ったのだろうか。特に私は気にしないのだけれど。

 それよりも、彼らがなぜ笑い出したのかが気になる。


あと3話くらい続きます。番外編書くの楽しい。

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