第百三十四話 竜人族の真の姿
フリーザは第四形態が好きです。黒パンツがなくなる。
神を裏切ることにも等しい行いを、大神官ともあろう方がするはずない。
そう言おうとしたけれど、トリスタンがあまりにも確信した言い方をするので反論出来なかった。
トリスタンはシリルが幼い頃から彼を見てきたのだ。うがち過ぎだと言うには彼らの過ごした月日は長すぎた。
シリル、あんな可愛い顔をして(ショタ神と一緒だけど)、そんなえげつない思考回路の持ち主なのか。
サイコパスキャラかもな、と私は今後の彼への接し方を考え直すことを決めた。
多分、巻き込まれるとヤバいやつである。出来ればヒロインにも関わってほしくない。
「シリル様のことはさておき……セレナ様の居場所もわかりませんし、どうしたらいいでしょう」
私は人の体から毒を吸収することは出来るけれど、水や土、植物等からは出来ない仕様だ。
毒スキルのひとつ、毒吸収を覚えてから色々試してみたところ、吸収は命あるもの、つまり対象が生物である場合にのみ発動するものだとわかった。
その辺りは聖女の能力との兼ね合いによるものだろうか。
聖女は毒そのものを消すことは出来ないけれど、毒によって変質したもの、所謂穢れというものを浄化することが出来る。シリルが祈祷で泉を綺麗にしたアレだ。
あのショタ神がそこまで考えて設定しているとは思えないけれど。
「待てよ、生物……?」
目の前で暴れ回る竜を見て、最悪なひらめきが起きてしまった。
一応、竜も生物と言えるのでは?
生ける伝説であり、その存在は精霊に等しいという特殊さではあるけれど、火竜も生きている命あるものとしてカウント出来るのではないだろうか。
だとすれば、湖の毒を浄化するよりも、竜の毒を吸収してしまえば手っ取り早く火竜を正気に戻すことが出来るかもしれない。
「あの……トリスタン様。もしかしたら私、火竜をお救い出来るかもしれません」
「お前が?」
「はい。とは言え……あの火竜に直接触れなければいけないのですが」
暴れ狂う守護竜を見やる。
うん、無理。触るどこから、近寄ること自体自殺行為だ。
「触れるだけでいいのか?」
「え? ええ、そうですが、危険ですよね。しかもあそこに行くにはこの毒の湖を渡らないと」
私は大丈夫だが、トリスタンは難しいだろう。
毒スキルで死にはしないとは言っても、私もこの異臭を放つ水の中に入りたくはない。
それでも、何とか浮石や落ちてきた鍾乳洞を辿って行くしかないかと思った時、突然トリスタンが白く発光した。
光の中で、ゆっくりとトリスタンの姿形が変わっていく。
私はそれを茫然と見ていることしか出来なかった。
「と、トリスタン様……?」
やがて光が収まると、そこには一瞬魔族かと疑うような異形の姿となったトリスタンがいた。
皮膚の一部にはほんのり赤みを帯びた鱗。背中には大きな、火竜のものとよく似た立派な羽が生えている。
まるで人が竜に、いや、竜が人に変化したかのような姿だ。
「これが竜人族の形態変化だ。私の家系は純血ではないが、血は濃いほうでな」
「竜人族の。ということは、わ、私にも鱗や羽が生えるのでしょうか……?」
「生やしたいのなら教えてやるが」
真面目な顔で言われたけれど、今は辞めておきますと答えておいた。
生やしたいかと聞かれると、正直微妙だ。
ただでさえ私は悪役令嬢で、神子で、毒スキルなんてものを持っているのに、さらに羽や鱗を生やせたら、自信を持って自分は普通の人間だと言えなくなりそうで。
トリスタンの姿は何だか神々しくてかっこいいけど、と思った時、おもむろに横抱きにされた。
あまりに軽々と抱かれたので、驚く暇もなかった。
「あ、あの……?」
「飛ぶぞ」
「え……きゃああっ⁉」
突然トリスタンの羽が大きく羽ばたき、私を抱いたまま宙へと飛び上がった。
飛んでいる。それはもう力強く。
羽ばたきを感じながら飛ぶというのは、シロに乗って空を飛んでいる時とはまた違う感覚だ。
もしかして、あの崖路から王宮まで短時間で戻った方法は、これだったのかもしれない。
「このまま火竜の背中に降りる」
「えっ。……わ、わかりました!」
トリスタンが私を抱えながら、火竜の翼や落ちてくる鍾乳洞を避け、暗闇を飛ぶ。
何とか背中に着地を、という時に
「危ない!」
振り回された火竜の尾の先がトリスタンを直撃した。
ギリギリの所で私だけを火竜の背に落とし、トリスタンはそのまま岩壁に激突してしまう。
「トリスタン様!」
「ぐ……っ。私の心配は無用だ! お前はお前の出来ることをしろ!」
「……はいっ!」
暴れまわる火竜から落ちてしまわないよう、なんとか羽の付け根までよじ登り、銀糸の鬣をしっかりと掴む。
足場を確保してから、私は深呼吸をし、火竜の鱗にしっかりと触れた。
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【竜帝イグニオス】
種族:火竜
状態:混乱・暴走・慢性中毒(神ごろし:毒Lv.8)
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生ける伝説火竜には名前があった。
イグニオス。威厳に満ちた響きの名前だ。
(イグニオス、いま助けるから!)
神子として、竜人族として、そしてイグバーン王国王太子の婚約者として、火竜の回復を心から願い、スキルを発動した。
【毒を吸収します】
手のひらが熱を帯び、輝き始める。
火竜の全身も同じように発光し、その輝きが増していくと、熱はどんどん高くなり、まるでマグマに手をかざしているかのようだった。
(熱い……!)
手が消えてなくなってしまうかもしれない。でも止めることもできない。
火竜が巨大だからか、あまりにも毒の吸収に時間がかかる。
その間もトリスタンが暴れる火竜から私を守ろうとして、傷だらけになっていった。
(お願い、早く終わって……!)
限界だ、と思った時、頭の中で電子音が連続して鳴り響いた。
【毒の吸収に成功しました】
【毒の許容量を超えています】
【毒を無効化します】
【毒の無効化に失敗しました】
【毒の無効化に失敗したため、仮死状態に入ります】
何度聞いてもこの電子音は不快でしかない。
もっとストレスのない音にしてって、言わなくちゃ。
意識が遠退く中、そんなことを考えていた。
次回は、みんな大好きデミウル様だよ!!!!
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