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毒殺される悪役令嬢ですが、いつの間にか溺愛ルートに入っていたようで【小説・コミックス発売中☆タテスク連載中!】  作者: 糸四季
大神官と神殿騎士の章

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第百十六話 悪の残滓【Noah】

ノアパートは次で終了! 予定!


 王の寝所に飾られていた亡き母の肖像。

 それを見てもしかしたら離宮にあるかもしれないと考えたが、あそこは滅多に使われることがなく、元々警備が薄い。そんな場所に大切な宝珠を隠すだろうか。

 それもあってか、侯爵は意外そうに目を見開いたが、すぐに表情を引き締めた。



「では、最後の王の象徴、宝珠は離宮に?」


「わからない。だが、残る可能性はそこしかない。父上がお目覚めになられれば宝珠の在り処が聞けるのだが……」



 その希望が叶う可能性は低い。それどころか、父はこのまま目覚めることなく、息を引き取るかもしれない。

 父王の状態がそれだけ悪いだろうことは、ノアにも感じられた。



「アーヴァイン侯爵は、ここに残って指揮をとれ」


「なりません、殿下! 私も殿下と共に参ります!」



 王妃宮に集まっているのが敵の全てとは限らない。

 どこに伏兵がいるかもわからない状況なのはノアにもわかっている。それでも信頼できる将にこの場を託さなければ、離宮には向かえない。


 なんとかアーヴァイン侯爵を説得しようとした時、



「その通りです、殿下」



 新たに騎士たちを引き連れ現れたのは、モスグリーンの長い髪を束ねた貴族の男だった。



「メレディス公爵!」


「無事だったか宰相」



 イグバーン王国の宰相でありノアの側近ユージーンの父親、メレディス公爵は、ノアに一礼すると冷静な眼差しを向けてきた。

 この状況下でも普段と変わらない宰相の落ち着いた様子に、ノアも少し平静を取り戻す。



「王宮内の敵は制圧しました。殿下、離宮に向かうのであれば侯爵をお連れください。国王陛下の護衛と王妃宮の監視は、私と陛下の近衛隊長にお任せを」


「……そうだな。宰相の言う通りにしよう」


「ありがとうございます。ところで……うちの愚息はお傍には?」



 ただの確認か、心配か。

 宰相の問いに、ノアは彼とよく似た男の姿を思い浮かべながら答える。



「ユージーンには別の仕事を頼んでいる」


「そうでしたか。お役に立てているのなら良いのです」


「もちろん、もうひとりにもだ」



 一瞬、宰相の動きが止まるのがわかった。

 もうひとりの宰相の息子、ヴィンセント。

 今は騎士団長ブレアム公爵の養子だが、本来彼は宰相の長男で、ユージーンの兄だ。

 宰相が現在ヴィンセントに対しどういう気持ちでいるのかわからないが、伝えておくべきだと思った。



「彼らにしか任せられない重要なことがあってね」


「……光栄の極みです」



 幾分神妙な様子で頭を下げた宰相にうなずき、ノアは今度こそ歩み始める。



「ではここは任せた。行くぞ、侯爵!」


「御意に」


「殿下。あの女の居所は不明のままです。どうかお気をつけください」



 そんな宰相の言葉を背中に受けながら、ノアは振り返ることなく王の寝所を後にした。



 メレディス公爵にその場を預け、ノアはアーヴァイン侯爵と騎士たちを連れ、離宮へと馬を走らせた。

 離宮に到着する頃にはすっかり夜も更けていた。

 湖に映る月がやけに明るく見えるのは、辺りに明かりが一切ないせいだ。

 不気味なほど異様な暗さと静けさだった。

 普段使われていない離宮でも、管理と警備をする者は常駐している。湖の中心に建つ小神殿には神官も在籍し、魔除けに聖なる篝火が夜通し焚かれているはずだ。

 だが、人の気配も明かり一つもない。


 嫌な予感は的中した。

 まず離宮に向かうと、入り口にも建物の中にもひとひとりいなくなっていた。

 代わりにあったのは、騎士や侍従たちのものであろう衣服や装備品だ。それはホールや廊下に脱ぎ捨てたかのように無造作に置かれている。

 その傍には何かが焼け焦げたあとの灰のようなものがあった。



「これは……」


「殿下。不用意に触れてはなりません」



 しゃがみこみ確認しようとしたノアを、侯爵が止める。

 伸ばしかけていた手を戻し、ノアは立ち上がった。



「侯爵。僕はこの灰に思い当たる節があるぞ」


「奇遇ですね。私にもございます」


 目を合わせ、互いにうなずく。


「……魔族だな」



 王宮で魔族に体を乗っ取られたオリヴィアの義母、侯爵の後妻は最後灰になって消えた。

 王都連続失踪不審死事件では、魔族の毒にやられた人々が、固い岩になり、砂のように崩れて死んだ。

 目の前の灰は、それとよく似ている。



「殿下。私の傍から離れないでください」



 最大限警戒を強めながら離宮を探索したが、やはり宝珠は見つからなかった。

 あちこち荒らされた形跡があり、すでに敵が離宮内を調べていたことがわかる。

 離宮の地下から天井裏まで調べつくしたが、手掛かりひとつない。

 当てが外れたかと、ノアはため息をついた。



「ここにもないか……」


「戻られますか」



 侯爵に問われ、ノアは窓から湖を見る。

 月の反射する湖に、神殿が暗く浮かんでいた。



「いや……神殿内も見てみよう」



 騎士たちを数名連れ、湖にかけられた石橋を渡り小神殿に向かう。

 篝火の消えた入り口の前にも、神殿騎士の服と装備品が落ちていた。風に吹かれて散ってしまったのか、灰は見当たらない。



「神殿騎士もやられたか」


「後で教会側がうるさいでしょうね」


「離宮の者たちも含め、丁重な弔いを」


 騎士に指示を出し、ノアは自ら神殿の扉に手をかけた。


「殿下。もう少し警戒をしていただかなくては」


「さすがに魔族も神殿内部には入れまい」



 侯爵が止めるのを聞かず、そのまま扉を開き中に入る。

 中も明かりがなく、人の気配もない。

 静まり返った神殿内部を見渡し、ノアはパチンと指を鳴らした。

 途端に壁際を電撃が走り、壁掛けの燭台に一斉に火が灯った。



「神殿長! 無事か!」



 声を張ったが、広い天井に響き渡っただけで返事はない。

 騎士たちも中に入れ、蔵書室や執務室も調べさせる。しかしいるはずの神殿長の姿はなかった。

 ノアはいくつも並ぶ長椅子のひとつひとつを確かめながら、デミウル像の祀られた祭壇へと足を進める。



「いませんね。まさか……」



 背後で侯爵が固い声で呟いた時、ノアはたどり着いた祭壇で発見してしまった。



「その、まさかのようだ」



 月の明かりが差しこむ祭壇の裏。

 デミウル像に見下ろされ、神官服と灰が人の形がわかるように残されていた。



ノア自身が業火担というボケ要員だったのにシリアス展開だしオリヴィア不在でボケようがないの作者的につらい。

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