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『作者が』召喚労働者はじめました  作者: 広科雲


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5 冒険への階段

 特務OBTをこなしたおかげで僕らは就労レベルが2に上がった。ついでにアカリも規定経験を積んだので同日、上がっている。そんなわけで僕とショウ、マルとアカリは第二講習を受けた。主にナンタン町内の決まり事や外の様子、危険生物などの説明だった。僕らは今後、町外活動もできるようになった。

 講習翌日は日曜日。ショウといっしょに午前中は市場で品出し作業をした。イソギンチャクという先輩召喚労働者(サモン・ワーカー)は、間近で見るとやはりデカかった。

 仕事のあとは街をブラつくというショウを置いて、まっすぐ管理局に戻った。ショウは本来、そこでルカと出会うのだが、その彼はすでに彼女としてこの街にいる。

 おそらくハルカは休憩所にいるだろう。一人で出歩くとは思えない。

 だが、予想に反して彼女はいなかった。……アカリかシーナにでも連れ出されたか?

 約束をしていたわけでもないので残念には思わない。むしろ誰かといっしょにいるのなら、それは喜ぶべきことだ。

「とはいうものの、僕はどうしよう」

 悩む――ほどでもなかった。まずは腹ごしらえだ。せっかくだからアキトシお勧めのパン屋へ行ってみよう。考えてみればまだ一度も味わっていない。

 こじんまりとした店だが雰囲気が良い。町角のパン屋ってイメージそのままだ。しかもおいしい。木の実やチーズなどで味のバリエーションがあるのがいい。コープマン食堂で出るような、ただの硬くてしょっぱいだけのものとは違う。お値段も割高ではあったが。

 さて、次はどうしよう。日本にいたときから出不精だったから、一人なら面倒くさくて動かない。休憩所に戻ってゴロゴロしていてもいいのだが、それはもったいない気がする。この世界に来て心境の変化が起きたのだろうか。

 それはさておき、一つ思いついた。

「この先を考えると、前倒しでやっておかないとダメだった」

 それに、一人なのはちょうどいい。誰にも気づかれずに済む。

 僕は管理局に戻り、裏庭の隅に隠れた。そこで――

 腕立てをはじめた。

「今のうちに少しでも鍛えておかないと」

 身体能力に自信がない。ある程度の体力くらいじゃ足りない。こうなるなら初めから肉体変換時に力をつけておけばよかった。普通の人で過ごそうと思ったのが失敗だった。

 黙々と鍛錬をする。すぐに疲れるから休憩のほうが長いが。合間を見てこれからもやっていこう。……けど明日はまず、ツァーレさんに回復魔法を頼まないと動けそうにない。

 たっぷり汗をかいたのでサウナに行った。特務のおかげでお金に余裕ができたので、裏の魔術式コインランドリーを初利用して洗濯もした。

 その帰りがけ、声をかけられた。

「あら、もうお風呂なの? いい身分ね」

 一言多いのがアカリのアカリたる所以ゆえんだ。となりにはハルカがいた。やはり連れ出されていたようだ。

「これでも今日も仕事したからね。ついでに洗濯してきた」

「洗濯?」

「そこ、コインランドリーだよ。知らない?」

「知らないっ。え、ウソ、そんなのあったの!?」

 アカリは本気で驚いていた。

「乾燥機もあるよ。戻るけど、ちょっと見ていく?」

「見るみる!」

 アカリは僕が指した建物に早足で向かった。

「二人で散歩?」

 残されたハルカに訊いてみる。

「うん。朝ご飯をいっしょにして、それからずっと街を歩いてた」

「大変だったね」

 引っぱりまわされる彼女を想像して気の毒になった。

「ううん。楽しかったよ」

 彼女は笑顔になった。「ならよかった」と返せる僕も嬉しい。

 アカリに追いつくと、彼女は洗濯機の操作方法を真剣に読んでいた。と言っても硬貨を入れるか精算水晶球に触れてワンボタンだからぜんぜん難しくない。洗剤投入口なんかもない。しかも15分ほどで乾燥まで終わるという速さ。現代日本でも欲しいくらいだ。

「硬貨で払う場合、99銅貨アトルというのが地味に面倒よね」

「銀貨一枚いれてお釣りをもらうのが妥当かな」

 アカリの感想は性能よりもお金に比重が傾いているらしい。

「でも、便利そうね。ちょっと高いけど、楽できそう。ハルカ、嫌じゃないなら割り勘でまとめて洗濯する?」

「え、あ、そうですね……。そのほうが助かるかも……」

 急に話を振られてハルカは口ごもった。だいぶ慣れはしたようだが、まだまだぎこちない。

「なら、服に名前入れとかないとね」

 管理局で買った服はぜんぶ同じデザインだから必要だな。そういえば、アカリはワンピースを着ている。アイリが残した服だ。ショウではないが、たしかに似合うと思う。本来のアカリが着たらどうかはわからないが。

「なにジロジロ見てんのよ?」

「今日はスカートなんだなって」

「アイリからのもらい物よ。服なんだから、着ないのも悪いでしょ」

「そうだね」

 僕は同意した。しかし、アカリの目は冷たい。

「感想それだけ? ショウだって少しはマシなこと言ったわよ?」

「え、他になんかある?」

「あんたね……て、別に期待することでもないわね」

 アカリは足音を荒くしてコインランドリーを出ていった。

「クモンさん、今のはないと思う……」

 ハルカにまで批難されてしまった。言い訳するつもりはないのだが、褒めないのはワザとだ。あまり印象を残しておきたくないから。僕はちょうど三週間後にここから消える。仲良くなれば辛い想いをさせないともかぎらない。それがたとえ僕の夢の住人だとしても。いや、だからこそ、大切にしたい。

「そ、そうかな。うーん……」

 適当に悩むフリをした。そろそろ夕食の時間だった。

「ショウくんは許可証を貰ったら外の仕事をするの?」

 コープマン食堂で夕食をとりながら、僕は訊いてみた。他に行く場所がないのか、マルもアキトシもリーバもいる。リーバはもう、孤高を気取るのをあきらめたようだ。

「したいね。街の仕事も嫌いじゃないけど、やっぱり外に出たい」

 シーナと同じことを言う。まぁ、似たの者同士だしな。

「オレもー。チマチマしたのはもーいいよ」

 マルだ。それで薬草採取というチマチマした仕事を選択するのだから、場所が変わっただけじゃないか。

「僕も行こうかなぁ」

「行こうよ! 冒険者にはなれないけど、味わうことはできる!」

 ショウが食いついて来た。これもフラグだ。本来ならルカが悟らせることを、僕が伝えておかないとダメだった。彼が本気で冒険者を目指すきっかけになるのだから。

「いや、僕、冒険者とかに憧れないんだけど。旅行なら興味あるけど」

「そうなの? オレは冒険者になりたかったんだ。やっぱり、こういう世界なら憧れるじゃないか」

「なんで過去形なの? なればいいじゃない」

「いやだって、ステータス・サークルのおかげでどこへ行っても見張られてるし……」

「それがなんでダメな理由になるの? 悪いことをするわけじゃないし。そりゃ、異世界人だからどこへ行っても奇異の目で視られたり、差別を受けたりするかもしれないよ? 王都なんか入ることすらできないって話だし。でもだからって、冒険しちゃダメなんて誰も言ってないじゃないか。外に出ちゃいけないなんて言ってない。自分の環境が悪いからって、そのせいであきらめるのは違うんじゃないかな。それを乗り越えるのが冒険じゃないの?」

 面倒なので用意しておいたセリフを並べ立てる。さぁ、反論できるならしてみろ。もともとの気持ちが本物なら、キミはこれを肯定しなきゃいけない。否定するなら初めから冒険者など目指すべきじゃない。

「……たしかに、そうだ。うん、そうだよ」

 あっさり改心した。根が単純……いや、素直だから、影響されまくるのだろう。だから先輩ブルーの言葉も簡単に信じてしまった。ブルー自身がすでに冒険者だというのに。それはまぁ、意地悪な先輩に当たったということで。

「ありがとう、なんか目が覚めたっ」

 ああ、ホントに覚醒したような顔してる。

「単純だからあんまり煽らないほうがいいわよ? こういうのってすぐに暴走するんだから」

 アカリが呆れたようにショウを指す。彼女の眼力もなかなかなものだ。

「そういうアカリさんは? 外の仕事しないの?」

「あたしはまだそこまで考えてないわ。憧れはあるけど、実力が見合ってないのもわかってるから。どうせ冒険とやらに行くなら、ちゃんと準備を整えた上よ。講習のときも言ったじゃない」

「そういえばそうだね。外は危険がいっぱいらしいから」

「そ。だからとりあえずはお金を貯めて訓練所に行くのが優先。で、あたしとしては定番作業に入って、堅実にお金を稼ぐわ」

「定番?」

「毎朝の仕事争奪も、毎回違う仕事を習うのも面倒だし。どっかに定番で入るほうが楽じゃない」

「なるほど……」

 感心したのはショウだった。

「オレは毎回違うほうが楽しいけどな」

 マルが愉快そうに言うと、ショウも続いた。

「オレも単発スポットのほうが好きだけど、人それぞれだからな」

「別にわかってもらおうなんて思ってないわよ。……ハルカはどっち派?」

 味方が欲しいのか、アカリはハルカに振った。

「わ、わたしは、新しいことを覚えるのは嫌いじゃないから単発でもいい。でも、できれば野菜問屋さんに通いたい」

「食堂は安いし美味しいしね」

 僕の冗談にハルカは耳を赤くしてうなずいた。

「あんた、からかうもんじゃないわよ?」

 アカリに睨まれてしまった。服のことをまだ根に持っているのだろうか。

「ごめん。からかったわけじゃなくて、切実かなって」

「切実……」

 ハルカはボソッと答えた。

「それは本当に申し訳ない」

 苦笑いも出てこない。

「で、あんたは結局、外の仕事するわけ?」

 アカリに問われ、僕は唸った。おそらくしたほうがいいのだろう。外の様子を直に見たい。それにフラグも立てていかないと、計画が狂ってしまう。

「……行こうかな。何かちょうどいいのがあればだけど。薬草採取とか」

「薬草採取?」

「山のほうの仕事だよ。シーナさんていう先輩がはじめたから、どんなものか話を聞いて決めたいところ」

「へぇ。その人、今、ここにいる?」

 ショウに問われ、周囲を見回す。

「……いた。いたけど、たぶん仕事仲間じゃないかな? 数人と談笑してる。声がかけづらい」

 シーナのテーブルにはコーヘイ、サト、レイジ、クロビスがいた。あと一人知らない女の子も。コーヘイとサト、レイジは薬草採取作業の警護班だ。クロビスは採取班で、おそらくもう一人もそうだろう。

「そっか。邪魔しちゃ悪いね。もし話を聞く機会があれば、オレにも声をかけてもらっていい?」

「いいよ。あの人も冒険が好きそうだし、ショウくんとは相性がいいかもね」

「そんな暴走機関車が二人になったら誰が止めんのよ」

 アカリがため息を吐く。彼女の中でショウのポジションが確立しつつあった。

「アカリさんなら止められる」

「知るかっ」

 アカリはいいツッコミをした。

 管理局への短い帰り道、ハルカが話しかけてきた。前方ではマルとアカリの舌戦が繰り広げられている。毎度、よく飽きないものだ。

「本当に、外のお仕事するんですか?」

 心配そう、というよりも寂しそうな表情だった。

「おそらくね。自分に向きそうなのがあればだけど」

「そうですか……」

「ハルカさんもやる?」

「いえ、わたしは自分が向くとは思えないから。でも、外に出たほうが強くなれるかな……」

「体は鍛えられるんじゃないかな。山とか歩くし」

「……」

 そういう意味ではないとわかっていても、僕は表面でしか答えない。彼女が『力』を求めるのには理由がある。でも、ルカ(・・)のような明確な殺意の上ではないので覚悟も弱い。だから彼女は迷っているだろうとは想像がつく。

 ハルカは自分からは言わないだろう。過去を語りたいとは思わない。打ち明ける相手としては僕はふさわしくない。だから黙っている。

「一度くらいは試してみてもいいんじゃないかな。経験しないとわからないことだらけだから。たしかなのは、強くなりたいって気持ちだけじゃ強くはならない。強くなるって言い聞かせて、何かをすること。アイリさんはきっと、そう想って日本に帰ったんじゃないかな」

 引き合いに出して申し訳ないが、僕には他に例にできる人がいない。自分がその例題になるなんてありえない。他人を勝手に美化して、他人をけしかけるしかできない。

「……うん」

 ハルカはうなずきには力があった。それは錯覚かもしれないが、僕はそう感じた。


 週明けの7月11日・月曜日、アカリとアキトシは定番作業レギュラーにつくと決め、いくつかの候補から同じパン屋で働くこととなった。

 外区通行許可証がまだ発行されていない僕らは、今日も中区内作業だ。ハルカにとって運のいいことに、今日も野菜問屋の仕事が舞い込んできていて、喜々として立候補した。

 レベル2に上がった僕は、初心者優先の野菜問屋にはジャンケン大会に勝ち抜かないと参加できない。見事な1回戦負けで、さらには他の仕事もとれずに終わった。今日は仕事量じたいが少なかったようで、マルもあぶれている。ショウは家具搬入作業を勝ち取り、すでに現場へ向かっていた。

「マル、とりあえず朝ご飯いこうか」

「だな。そのあとは寝るかぁ」

 ふてくされている。普段、あまり仕事にやる気を出さないのに、今日はなぜか張り切っていた。それがこのザマでは落差が激しい。

 たしか僕の記憶では、今日はルカが第一講習を受けてすぐに仕事をもらっていた。管理局にいればそれが回ってくるかもしれない。

 僕の推測どおり、朝食後、管理局に戻った僕たちに急な仕事が入った。家具工場の製作補助だ。何はともあれ仕事が入ってよかった。

 家具工場では材木を切ったり、塗料を塗ったりした。昼休みにはショウがやってきて、完成したタンスを荷馬車に積んでいた。そのとき僕は初めてニンニンを生で見た。ショウが『心の師匠』と慕うようになる人物だ。なぜなのか僕にもわからない。あえて少年の言葉を借りるならば『いろんな人がいるよね』となるだろう。

 夕方に仕事が終わると、僕はマルと工場前で別れた。ちょっと寄り道するとしか言わなかったが、マルは追及せずにさっさと帰っていった。

 さて、はじめよう。僕はリュックを固定し、走りはじめた。体力向上トレーニングの一環としてランニングをして帰る。少し遠回りもするつもりだ。そのまま風呂に向かうのもいいかもしれない。

 急ぎ過ぎない自分のペースでサウナまで走り切る。息は上がっているが、限界というわけではない。仕事のあとにちょうどいいくらいの運動量だった。これはメシがうまいことだろう。

 風呂に入り、洗濯も済ませて異世界人管理局へ。そのころには19時を回っていた。

 扉に手をかけたそのとき、後ろから「どいてくれ!」と切羽詰まった声がした。

 振り返ると怪我人を担いだ男がいた。そうだ、忘れていた。今日は事件が起きる日だった。彼らは畑の巡回に出ていて、ゴブリンに襲われたのだ。

 僕は扉を大きく開き、「怪我人だ!」と中に伝えてそのまま扉を押さえた。

 怪我人を連れた戦士風の男は「ありがとう」と言って入っていった。

 エントランス・ホールが慌ただしくなる。見習い神官のツァーレ・モッラが【治癒】魔法を施し、ショウが手伝って診療室へ連れていく。血のこぼれた床をパーザ・ルーチンの指示でアカリが拭き、残った召喚労働者ワーカーたちは脅えながら声を潜めて何かを話していた。

「何があったの?」

 ハルカが階段を降りてきた。

「怪我人が出たんだ。畑の巡回をしていたワーカーが、ゴブリンに背中を刺された」

「ゴブリン……?」

 ハルカはゴブリンを知らないので首をかしげる。

「こういうの、ホントにあるんだね」

 近くにいたアキトシは青い顔をしている。

 ショウも怪我人の搬送から戻って来た。「大丈夫そう?」と僕が訊くと、「怪我はツァーレさんが治したから」と答えた。

 アカリも床仕事を終えて一息ついた。

「あ、桶の片づけは僕がしておくよ。アカリさんは手を洗いに行ったら?」

「そう? それじゃ頼むわ」

 アカリは洗面所に向かった。アキトシも荷物を担いで休憩所に行ってしまう。

「ショウくん、大丈夫?」

 ぼうっとしている彼に声をかけた。

「あ、うん……」

 返事はあったが、理解しているのかどうかわからなかった。

「とりあえず来て」

 赤く染まった水桶を左脇に抱え、空いている右手で強引にショウの手を引いた。彼を通じて怪我人の血が僕にも伝わる。ハルカも黙ってついてきた。

 裏庭で井戸水を汲み出し、ショウに手を洗わせた。

「ありがと」

 ショウは水の冷たさを感じ、頭の中も冷静になったようだ。

「驚くよね。いきなりゴブリンだとか、怪我人だとかって」

「うん。初めて実感した。魔法で傷は治ったけど、受けた痛みや感触はずっと忘れないんだろうな」

「怖いね。それでも、君は外へ出たいんだろ?」

「うん。別にゴブリンを倒したいとかじゃないよ? ただ、この世界が面白そうだから見たいだけなんだ」

「わかるよ。僕もネット地図で知らない場所を観るのは結構好きだから」

「観るだけじゃなくて、体験したい」

 ショウは笑った。

 僕は桶と雑巾を洗う。今度はショウが水を出してくれた。

「そういえば、ハルカさんは何で2階に? 階段から降りてきたよね?」

 適当な話題を出した。

「あ、資料室にいたの。好きなときに本を読んでいいっていうから。日本語訳が付いたのもあったから見てた」

「勉強家だね。さっき言ったゴブリンというのも、たぶん資料があるから探してみるといいよ」

「うん、そうする」

 ハルカも緊張が解けたようで、笑みが浮かんでいた。

「オレも今日から語学講座をはじめたよ」

 ショウがなせか張りあうように言う。

「今後のため?」

「もちろん!」

 嬉しそうだ。

「僕は知識より先に財力と体力だな。知力はあとから伸ばすよ」

「それはオレも最優先だ」

 ショウと二人で笑った。

「そういえば、僕はご飯まだなんだよね。二人は?」

「オレは終わってる」

「わたしは、まだ……」

 ハルカはうつむいて答えた。まさか、僕を待ってたわけでもないだろうが。

「じゃ、食べに行こうか」

「うん」

 僕とハルカが管理局を出ていくのをショウは見送ってくれた。

 二人でコープマン食堂に入り、食事に合間に二、三の会話をした。盛り上がりもしなかったが、ハルカは楽しいのだろうか。そんなことを考えていたら、さらに口数は減り、食べるためだけに口を動かしていた。

 「クモンさんは――」帰り道に珍しくハルカから切り出された。

「やっぱり外へ行くの?」

「そうだな。危険がなさそうな外なら行きたいな」

「そう。それならいいね」

 ハルカの声は、とても賛成しているようには聞こえなかった。

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