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04.マーリンとタマディアス

「でね! 何が一番驚いたって……若返ってたの‼」

 今まで寄ったどこの町でも酒場の雰囲気は好きだった。マーリンはこの世界に来た時のことを息巻きながら熱くミーリヤに語った。ミーリヤは興味深そうに話を聞いて相槌を打っている。

「見てこの肌! ハタチそこそこのピッチピチよ! 私、年の割には肌には自信がある方だったけど、やっぱりハタチはダンチよダンチ! 自分で比べて過去の自分の傲慢さを思い知ったね」

「へぇ。転移者って若返るもんなんだ?」

「そうみたい~! せっかくだから、髪の毛もベリーショートに挑戦してみたんだ♪」

 言って短い髪の毛の毛先を弾く。次にメガネをくいっと上げてミーリヤに詰め寄った。

「ミーリヤちゃんも挑戦するなら若いうちよ! 年取るとやりたくても周りの目が気になってできなくなっちゃう! って、あ~! こういうこと言うのダメだよね、BBAだよね~」

 ミーリヤはマーリンの表情の変化をケラケラと笑う。一人盛り上がって立ったり座ったりうなだれたりとマーリンが賑やかなのはいつものことだった。


 王国の伝道師となりこの世界の旅を始めて二ヶ月。旅は順調で、王国の首都を後にしてから、もう五か所の町や村を巡ってきたところだ。好奇心旺盛で研究心ともいえる執着心と想像力を持つ茉莉子あらためマーリンは、魔法の使い方もすっかり会得していた。

 伝道師の役目の方はというと拍子抜けしたもので、そもそも王様が言うほどに人々は伝道師の役目を認識していないのだ。せいぜいが「魔法が強い人」程度にしか思われていなかった。人々の方も良くわらかないので、「とりあえず強いのなら魔物を退治してくれ」と言われることがほとんどだった。

 よって、伝道師としての「魔法を伝える」という仕事はそこそこに、マーリンは各地の美味美酒を堪能していた。

「マーリンは呪文はどうやって覚えたの?」

「まぁ、ゲームとかで雰囲気は。それがね、最近気づいたんだけど、どうも英語っぽいのよね。それもどういうわけか、カタカナ英語。そうじゃないと呪文にならないの」

「エイゴ?」

「そ、カタカナ英語ね。これ見て」

 言ってマーリンは掌で空になっていたガラスのコップを塞いだ。

「ウォーラァ」

 それは巻き舌を使った発音で、マーリン的には流ちょうな英語発音を真似たつもりだった。呪文のようだが何も起こらない。

「英語っぽく発音しても魔法にならないのよ。ほら、ウォーター」

 掌の下のガラスのコップに水が現れ、コップを水が満たす。

「でも別に英語得意なわけじゃないから、いっそ楽だけどね~」

 そこへ店員が料理を運んでくる。

「カブリ豚の香草パリっと焼きでございます~」

 テーブルに運ばれてきたのは子豚の丸焼きで、表面はつやつやこんがりと焼かれ、豚の内側に仕込まれた香草と豚の脂の香りが混ざり、絶妙に食欲をそそる香りを立てた。店員は仕上げに熱した香味油を丸焼きにまぶして去っていく。一層香りが沸き立ち、マーリンは瞳を輝かせる。

「あ、ビール追加ね!」

「はい~」

 自分の取り皿に豚をとりわけ、さて食べるぞというところで、店の扉が開き「マーリン! イーサンの旦那が戻ったぜ!」威勢の良いヴィドの声が響いた。

「旦那だなんてそんな……ポッ」

 マーリンは両手を頬に当てて照れたような顔をする。

「マーリン、あんたタマディアスと結婚してたの?」

「してない〜えへへ~ごっこ遊びしてみただけ~」

 ミーリヤとマーリンはケラケラと笑う。

 ヴィドの方を見ると、ヴィドは巨大な猫のような獣にまたがっていた。マーリンのいる席に向かって歩いてくる。

 獣は猫によく似ていた。茶色い斑が混ざった白い長い毛足が優美で、輝くような淡い青い瞳は鋭い。

「さんきゅう、旦那!」

 ヴィドが降りてから言うと、獣はその場に礼儀正しく座った。座つた背丈はヴィドやマーリンと同じくらいある。

「たまちゃーん! おかえりー!」

 マーリンは獣が座るなり、その首に抱き着いた。

「もふもふー!」

「マーリン様!」

 焦った声で言葉を発したのはその大きな猫だった。大きな猫は身悶えする。そしてその体全体が光に包まれると、長身の人間の男性の姿に変わる。

「あっ」

 マーリンはぱっと男の体から離れる。。

「もっともふもふさせてくれてもいいじゃん~」

「おやめくださいといつも申しております」

 男はため息をつく。

「マーリンこそ人間の姿でも気にせず抱き着けばいいじゃない?」

 口をとがらせるマーリンにミーリヤがからかうように言うと、マーリンはわざと恥らった仕草をして答える。

「だってそれは人前では恥ずかしいよぉ~。猫の時と違って男のヒトの匂いするし」

 先ほどまで獣の姿だった男は、長身で体つきも良く、鎧を身に着けている。髪の毛の色こそ獣の姿の頃と変わらないが、瞳の色は獣の時よりも暗い色になっている。

「いや~旦那に乗せてもらったけど、速いね! 隣村から戻ってくるのに、半日かからないんだもんな! 半獣っていいよな~」

 言われた男はヴィドにはにかんで見せる。

 タマディアス・イーサン・トムエルド。国王がマーリンの護衛兼馬として付けた半獣の王国騎士だった。

 マーリンはこのタマディアスと共に旅をしていた。ミーリヤとヴィドはひとつ前に寄った町で会い、今いる町に魔物退治のために向かうと聞いて同行したという仲だった。

「マーリン様……ヴィド殿に聞きましたよ。私がいない間に魔物を倒しにいきましたね?」

「ぎくり」

 マーリンは言葉にして目を逸らす。

「ぎくりなどという表現をわざわざ言葉に出すあたりが、非常に悪意を感じます」

 王国騎士とあってタマディアスは折り目正しい。だが、その折り目正しさゆえ、厳しい所があった。遠慮なくマーリンのことを叱咤する。

「私がいない間に勝手に魔物と戦うとはどういうことですか。何かあったらどうするんです」

「でも誰も怪我も何もしてないしぃ~ゾンビ見たかったんだもん!」

 マーリンはふてくされた顔をして返す。

「まったく……この世界のことを知らないあなたはいつ危険な目に会ってもおかしくないんですよ!」

 お叱りは続く。が、

「でもぉ~困ったら、たまちゃんが助けにきてくれるんだ」

 マーリンは満面の笑みで言ってのけた。タマディアスはマーリンの笑顔を直視し、言葉を詰まらせ、視線を逸らす。なにやら結局マーリンに弱い。

「ま、まったく……ミーリヤ殿とヴィド殿とご一緒だったのなら大丈夫なのでしょうけど……」

 マーリンはいかにもタマディアスのことがお気に入りで愛情を示し、タマディアスもまたマーリンに弱いという、二人の関係性は恋人を想像されるものであったが、あくまでの二人は恋人同士ではない。伝道師とその護衛なのだ。


 ちなみに先日、マーリンは酒の勢いで、美味しく頂いた。何をとは言わないが、大人の話だ。


 だが、あくまで二人は伝道師とその護衛という関係なのだ。ただ、マーリンの性格があまりにお気楽で開放的なのだ。

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