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幕末エンジェル

作者: 伊月

 これはまだ、日本という国が開国後間も無い頃のお話。

 ある日、江戸の片隅にある小さな蕎麦屋に、一人の美女が来店した。大きな帽子を目深に被った彼女は、席につくとその帽子を外した。中から現れたのは、綺麗な金髪だった。

 その店は、店主や常連客含め『攘夷(じょうい)派』と呼ばれる、開国に反対する連中が多かった。当然、見るからに外国人だと分かる彼女に対しての反応は冷たかった。

 しかし、どのような者であれ客は客であると、店主は彼女に注文を聞いた。


「蕎麦を、一丁」


 流暢な日本語でそう言った彼女は、それから店主が蕎麦を茹で終わるまで、一言も発さなかった。

 ものの数分で蕎麦を茹で上げた店主は、適当に盛り付けたそれを猪口(ちょこ)と共にドンッ!と音を立てて彼女の前に置いた。猪口に入った汁が少し跳ねたが、彼女は気にもせず目を輝かせ、しかしすぐに落ち着いて両の掌を合わせた。何をするのかと周りの者共が見守る中、彼女は十字を切って祈りを口にした。


「Come, Lord Jesus be our guest. Let these gifts, to us be blessed. Amen.」


 流れるようにそう口にした彼女は、伏せていた顔を上げると、箸を手に取った。聞いていた者共は、意味は分からずとも祈りの言葉だということだけは分かった。

 外国人は箸の扱いが下手だとはよく言われていたが、この美女はとても上手く箸を操った。美味しそうに蕎麦を啜るその姿は、見ていた男共が思わず見惚れてしまうほどに美しかった。美味しい、美味しいと幾度も口にしながら、彼女は瞬く間に蕎麦を平らげ、そうして今度は食後の祈りを捧げていた。


 その美しさにしばらく呆けていた店主だったが、空になった蕎麦皿を見てはっと勘定を口にする。

 十六文ちょうどを支払った彼女は、入ってきた時と同様に帽子を深く被り席を立った。そして、店主に身体を向けて一言。


「とても、美味しかったです。ありがとうございました!」


 綺麗な日本語と晴れやかな笑顔でそう言い残し、珍客は去っていった。

 その姿を見送った客のうち一人がぽつりと、「天使だ……」と呟いた。


 それ以降、その店の店主と常連は、開国に反対することはなくなった。

歴史のことも宗教のこともよく知らないのでミスがあるかもしれませんが、そっと優しく教えて頂ければ幸いです……。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 蕎麦屋と言うシチュエーションが通ですな。 [一言] 歴史を動かすのはいつの時代も健気な少女なんです。だから私はロリコンです。
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