これは転生…になるのか? ~よくわからんけど外に出よう~
【SランクダンジョンNo.127の完全踏破を確認しました。これよりこのダンジョンはマニュアル化します】
俺は田中大地、35歳バツイチ独身のトラックドライバーだ。俺は今アホみたいに混乱している! 何を言っているのかわからないと思うが、俺は嘘を言ってるわけじゃねぇ。俺自身こんな事信じられなくて発狂しそうだ! 俺が…
ふぅ、少し落ち着いたぜ。
よし、まずは状況を整理しないとな、何をするにしても現状が解らないと策の立てようもない。
まず、今俺がいるこの場所、無機質な石造りの円形ドーム状の部屋だ。端から端まで30メートルくらいある、その真ん中にはキンキラに装飾された宝箱が鎮座していて、その脇には大破している4tトラックと1人の男性の死体。 もうこの時点で考えるのを辞めて逃げ出したいくらいだ。しかし続けよう
大破したトラックに近づき、運転席で死亡している男性を見つめる… 頭部にとても強い衝撃を受けたようで、側頭部がえぐられるように失われている。 そしてその男性の顔を見てみると…
「やっぱりどう見ても俺だよな… 自分の死体を見つめるってのはシュールすぎるだろう」
大破しているトラックは、カラーリングやドア部分に貼られている会社名を明記したステッカーを見る限り、間違いなく俺の愛車であり相棒だ。
カシュッ
大破したトラックのキャビンから未開封のブラックコーヒーを開けてぐいっと飲み干す。
何が一番信じられないかって、自分の死体を見ている自分、つまりだ、今の俺は別の体で自身の死体を見てるって事だ!
ふと下を向いて自身の体を見てみる… なかなか立派な双子山がポヨポヨしている、思わず触ってみたが… うん、ふわふわで柔らかいね。
やはりこの体、女性の物だって事なんだよ!
大破しているトラックの工具箱からスペアのミラーを引っ張り出して自信を映してみると、こりゃまた一目で恋に落ちそうなくらいの美女が映っているではありませんか! こんなのもうナルシスト一直線ですよ! 自身に恋しちゃいますって!
はぁはぁ… まぁこの問題は後でもいい。
ここまでの経緯を思い出してみる、確か仕事中にパーキングエリアで休憩をしていたはずだ、その時に地震が起きて目が覚めたんだったな。
あまりの揺れにトラックから出る事も出来ず、ハンドルにしがみついてなんとか体勢を保ってたんだが、突然発生した地割れにトラックごと落ちてしまった所までははっきりと覚えている。
その後、どういう訳か真っ暗闇の中長い時間(に感じた)落ち続けていたと思うんだ。そうしたら急に明るい場所に出て、人型の何かがそこに立っていた、その何かにぶつかってしまったような気がする。
トラックが潰れてしまう轟音も確かに聞いた、そして気を失ったんだと思う。
そして意識が戻った時はこの有様だった…
自身の死体だと思われるモノのポケットから財布を抜き取り中身を確認したら、間違いなく俺の物だったって訳だよ。
どう? こんな事があったら混乱するだろう? 俺はとっくに混乱してるけどなっ!
ダメだ、少し気分を変えようか。 よし! あの宝箱でも開けてみるか!
鎮座している宝箱、キンキラに装飾されていて、宝箱だけでも相当高価なんじゃないかって思う程の気合いの入りっぷりだ。 箱のサイズは高さ30センチ位、幅50センチ位、奥行き30センチ位だな。ホームセンターで売っている道具箱系のサイズだ。
「よし… じゃあ開けるぞ? 開けるからな!」
パカッと軽快な音を出して開かれた蓋部分、そして中を覗き込むと… 剣と思われる柄が見えていた。刀身部分もあるにはあるんだけど、途中からボヤけて見えなくなっていた。
鞘の部分を掴んで宝箱から取り出してみると、全長130センチくらいの剣が出てきた。
「おいおい、この宝箱の大きさじゃ入るわけない長さの剣だろ、一体どうなっているんだ?」
剣の方にもキラッキラに装飾されていて、余りの豪華さに飾り物の宝剣じゃないかと疑い始めた時、蓋を開けて放置していた宝箱がスーっと消えていったのだった。
「え? 箱が消えた?」
さすがにこれだけ色々と起こると、考える事を放棄したくなる。 しかし、なんとか消えた宝箱の事をスルーして剣を見てみる、柄の部分が30センチ程で、刀身は1メートルはありそうだった。
「こういう物を、なんとか鑑定団とかで鑑定させたらどれくらいの価値になるんだろうな」
不意に呟いたその言葉に反応して、突然目の前にディスプレイのようなものが見えたのだ。
「おおう!なんだこれ?」
もう驚いてばっかりだな、とりあえずディスプレイを見てみた
─【神剣ヴァルキュリア】 聖属性 神の力が宿る剣─
「おお? RPGとかでよく見る武器の説明だな… もしかして鑑定って言ったから見えるようになったのか?」
それを確かめるため、俺は自分の死体の所へやってきた。
「なんか緊張するな、でも確認しないと… 鑑定!」
─【田中大地】の死体 新たに創造中であったSランクダンジョンの最下層ボスに体当たりをして死亡。魂だけ創造途中であったボスの体に入り込み定着した、後1時間でダンジョンに飲み込まれて消滅する─
「間違いなく俺だった…しかもラスボスっぽいのに体当たりとか無謀にも程があるだろう! ん? って事はだ… 今動かしているこの体はラスボスの体なのか?」
気が付けば自分の腕を見ながら呟いていた。
「鑑定…」
─ステータス─
【個体名】 アイヴィー Lv1649
【種族】 天翼族(堕)
【腕力】 999+@
【体力】 999+@
【魔力】 999+@
【知力】 999+@
【魅力】 999+@
【運】 1
「うーん、まるでゲームのステータス画面だな…レベル高いし! その割には運の値はひどすぎるな? さすがに体当たりされた挙句に体を奪われるだけあるわ」
しかし天翼族? 堕ちてるみたいなんだが… あっ!
ふと見ると、どうやら自分には翼が生えているようだ!しかも黒いの!
「しかし個体名アイヴィーか、ゲーム的で言うと、名前付きの敵は特別扱いなのが多いよな…ボスとか。まぁ実際にボスだったんだろうけど。それにしてもステータス部分の+@ってなんだ? 999までしか表示できないけどそれ以上ありますよってサインなのか?」
魔力も知力も999以上あるって言うなら、魔法とか使えたりするのかな… ヤバい、何かドキドキしてきた。もう自分が死んでしまった事なんかどうでもいいくらいに。
最後にダンジョンの床を鑑定してみた
─No.127 Sランクダンジョン。 トヨタ王国北部に出来たばかりの新ダンジョン150階層の床─
「トヨタ王国ってなんだよ!? 実は愛知県だったってオチがあるのか? いや、無いだろうな…」
セルフボケ突っ込みを堪能し、そして放棄した。
「よし! せっかくだし色々と試さないとな! その前に、飲み込まれて消滅してしまうとなっていた自分の死体とトラックから使えそうなものを回収しておかないとな」
一応財布とキャビンに積んでいたブラックコーヒーの箱を引っ張り出してみた。コーヒーの箱は昨日買ったばかりだったので、まだ20本くらい残っているからな
「やはりファンタジーの定番と言えば収納系魔法だよな、うまくいけば缶コーヒーを全部持っていけるよな!」
缶コーヒーは意外と嵩張るので、思ったよりも多く持ち歩けないのだ。しかも自分の着ている服がポケットなど一切無いワンピースのような服なので、剣を持ったら缶コーヒーはせいぜい2本しか持てない。
缶コーヒーの箱を見つめながら呟いてみた
「収納!」
するとどうでしょう、缶コーヒーの箱は視界から消えてしまったではありませんか!
「出来たのか? 出来たとすれば今度は出せないとダメだよな。でもそういえば、出す時って何て言えばいいんだ?」
考え込んでいると、またしてもディスプレイが出てきた。あっ、缶コーヒーが表示されてるよ、思わず手を伸ばしてみると、ディスプレイに手が吸い込まれていき、なにやら手ごたえを感じたので、掴んで引っ張ってみた。
「出せた…おおお! これは便利だぞ! あっ!」
ふと見ると、トラックの残骸と自分の死体が消えていくのが見えた。
「もう1時間も経っていたのか、しかし俺の体が消えてしまった以上、これからはアイヴィーとして生きていくしかないって事なのかな。それともアイヴィーに取り返されてしまうとか…」
しかし、こんなファンタジー現象を体験してしまっている以上何が起こるのかは予想がつかないため、これも考える事を放棄した。
「そういえば、一番最初にSランクダンジョンの踏破がどうのって聞こえたよな、って事はこのダンジョンは俺がクリアしたって事になってる訳だよな? そしてここはボス部屋って事だよな。だから他にモンスターがいないんだろうな」
俺の死体を鑑定した時に、最下層のボスに~って件があったからここは多分最下層。レベルも高いしステータスもとんでもないように見えるけど、俺自身に戦闘経験なんてないから無事にここから出れるかはわからない状況だ。
「あ、でも ゲーム的に考えるのなら、ラスボスを倒したら入り口に戻れる魔方陣?転移陣?みたいのがあるはずだな!探してみるか」
改めて今いる部屋を探索しようと周囲に目をやった…
「って、目立つように扉があるじゃねーか!」
今まで視界に全く入らなかったが、頑丈そうな扉があるのを見つけてしまった。その扉に向かって歩き出そうとしたが…
「いや待て、いきなり戦闘とかになったら大変だ、せっかく強そうな剣を手に入れたんだから少しでも振れるように素振りをしなきゃな」
そう思い立ち、持っていた剣【神剣ヴァルキュリア】を鞘から抜いてみた。
「ぅおお… なんかオーラが出てるよ、しかも綺麗だ」
見惚れてしまう程美しい刀身だったが、それでも素振りを始めたのだった。
一方その頃、この世界に住む全員に送られたメッセージ【Sランクダンジョンの完全踏破】 この情報を巡り、世界中がざわめいていたのだった。
この世界ではダンジョンという物は普通に世界各地に存在し、難易度別にそれぞれランクが付けられていた。
戦う事の初心者でもそこそこ進めるFランクダンジョンから始まり、現在世界の最高戦力と言われる勇者パーティ【竜の輝き】が攻略中のBランクダンジョンまでが確認されており、今回のメッセージで初めてSランクダンジョンの存在が明るみに出たのだ。
勇者パーティですらBランクダンジョンで足踏みしているというのに、Aランクを通り越してのSランクダンジョンの完全踏破の報。
ダンジョンというのは最下層にいる守護者、ボスを倒す事でマニュアル化できるようになり、出現する魔物の配置や数などを調整できるようになり、特定の魔物を倒す事で得られる素材などをある程度選択できるようになるのだ。
さらに重要なのは、スタンピードが起きないように設定できるというのが大きな価値がある。
当然マニュアル化で操作できる権利は討伐者にあり、討伐者の同意があれば権利を譲渡出来る事も分かっている。
当然その権利は莫大な富を生み出す物として王侯貴族に人気があり、EランクやDランクのダンジョンを保有している貴族も多くいる。自分で出現する魔物を選び、その魔物から得られる素材で富を築くのだ。
Fランクダンジョンを除き、それ以降のランクのダンジョンでは食肉や、武器防具の素材、稀に魔道具や宝石まで手に入る事もあるが、その価値はダンジョンのランクで決まってしまうのだ。
Fランクダンジョンはスライムやゴブリンなどしか出ないため、最下層の守護者を倒した後は放置されてしまうのだ。当然スタンピードの設定はOFFにされる、弱いゴブリンとはいえ、スタンピードで数千、数万のゴブリンが溢れ出れば大被害は免れないからだ。
この世界ではダンジョンを踏破すると世界中の者に向かってメッセージが届けられる、ただ、ダンジョンのナンバーで届けられるため、正確な位置を把握するのは非常に難しかった。
ダンジョンに潜る事を仕事にしている者でも、土地の名前や通称でダンジョンを呼ぶので、鑑定スキル所持者でないとナンバリングまではわからないというのが現状だった。
そしてつい先ほど届けられたメッセージ、Sランクダンジョンの完全踏破。 今まで聞いた事が無い未知のSランクダンジョンから得られるであろう富に、世界中の権力者が食いついたのだった。
それはまるで合言葉のように『Sランクダンジョンを探せ!』…と。
─No.127ダンジョン最下層─
「ふぅ~、屋内にいると時間の経過が曖昧になっちゃうな。どれくらい時間が経ったんだろう」
俺は訓練を止めて手を止めた。
身体能力が非常に高いせいか、あまりにも思い通りに動く体に興奮し、つい時間を忘れて特訓をしていたのだ。気が付けば翼を使っての飛行や、火や水、風などの魔法まで使いこなせるようになった。
「スマホは消えてしまったし、確認のしようが無いな。けど、そろそろあの扉を開けてみるか」
扉を開けて中に入ると、とても大きな水晶のようなものが置いてあった。その神秘的な光景に少しばかり見とれてしまったが、思い直して近づいてみた
「ここにもディスプレイがあるな、どれどれ?」
─No.127ダンジョンコア─
【状態】踏破済み、マニュアル化
【管理者】アイヴィー
【スタンピード】ON
【魔物出現情報】1~10階層、AUTO 11~20階層、AUTO 21~30階層、AUTO 31~40階層、AUTO 41~50階層、AUTO 51~60階層、AUTO 61~70階層、AUTO 71~80階層、AUTO 81~90階層、AUTO 91~100階層、AUTO 101~110階層、AUTO 111~120階層、AUTO 121~130階層、AUTO 131~140階層、AUTO 141~150階層、AUTO
【守護者リポップ】無し
【管理者譲渡】YES⇔NO
「何だこれは? 完全にゲームじゃないか。管理者がアイヴィーって事は俺の事だよな、まぁよく分かんねーなこりゃ。スタンピードってのは溢れて氾濫ってやつだよな、ONじゃまずいんじゃないか?」
そう思ってディスプレイのONの所を触れてみると、ON-OFFの切り替えができるようだった。
「OFFにしよう、これでよしっと」
しかし管理者ってなにをするんだ? ここに居座って管理人をしなければいけないとかあるのかな… まぁこれもわからないから放置しよう、スタンピードが無いなら問題は無さそうだしな。
部屋に入ってすぐに水晶に目を奪われたが、改めて周囲を見渡してみると…ありましたよ魔方陣が。
「きっとこれに乗っかれば入り口まで戻れるんだろうな、多分だけど」
缶コーヒーはすでに全部飲み切っているし、特に腹は減っていないけど食料の無い状態が続くのもなんか嫌だ。それにダンジョンの外がどうなっているかも気になっているので、ここは魔方陣を踏んでみようと決断する。
魔方陣に向かって歩いてると、鏡面仕上げのように美しい壁を発見した。
「おお… これが俺、アイヴィーの姿なんだな」
そこに見える姿は、俺の語彙力じゃ表現できない程の美しい姿が映っていた。
褐色の肌に黒い翼、背中まである長い白銀の髪に金色の瞳、身長は160センチくらいか? スタイルも良く、Cランクは軽くあると思われる胸部装甲。そして翼が生えている背中が大きく開かれている真っ白のワンピース、神々しいというか拝みたくなるオーラが見える気がする。
「いやぁ…良い女だ」
思わず出た言葉に笑ってしまう、なんせこの体は俺なんだ、どんなに焦がれても抱く事なんかできやしない。触ることは出来るけどね!
「よし! 自分の死体は確認しちゃったし、しかも消えてしまったし… 今日から俺はアイヴィーとして生きてみよう! 見た目は良い女だけど言葉使いは早々変えられないだろうからこのままで行くか」
まずは外に出て、外にいる連中を鑑定して、自身との強さの比較をしないとな。Sランクダンジョン最下層のボスっていうくらいだ、相当の強さだとは思うが慢心はしないようにしなきゃいけないな。
ここが異世界である可能性は非常に高い、もしかしたら小説のように中世ヨーロッパ風な世界かもしれない。そうであれば、貴族とか王様も多分いるだろう。
そういった権力者たちに舐められないようにしないといけないな、偏見かもしれないが、権力を持ってる奴って大概碌な奴はいないと信じてる。 いいように使われちゃたまらんからな。
アイヴィーの姿に見惚れていたが、意を決して魔方陣に進み足を乗せる。思ってた通り魔方陣は光を放ち、視界が歪んでいくのが見えた。
ほんの数秒で輝いてた光は消え、周囲には何もない無骨な部屋に立っている事に気づいた。
「予想だとここが1階層だよな、よし! いざ外へ!」
部屋にあった扉を開けると、久しぶりに見る太陽の光が見えた。