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そして出会う

 自分でも馬鹿なことをしていると思う。


ヤケクソになって、山に来るなんて命知らずにも程があると。


 しかしヤケクソになってどうして山だったのか。




 そういえば斉藤も以前、こんなことを言っていた。




「ここらはあまり一人になれるところがない、ということもあるんだろうかなぁ」




 斉藤は静かにたばこをふかして。




「皆、山に行って頭にきたことを冷やすみたいなんだな」




 晩冬の山は、着込んでいる自分でも寒かった。頭が本当に冷える。


理性的になるというより、命の危険に陥るのではと思うくらいだ。


 しかしそれでも和正は歩いていた。鈍い歩みではあったが止められなかった。




 細い枯れ枝をポキリと足で折る音。さめざめとした空気に響く鳥の鳴き声。


夜道を照らすのはスマホのわずかな明かりだけだ。


 いつどうなってもおかしくない。細い三日月の光が、上を見上げるとわずかに見えた。




 自分の息が異様に大きく聞こえる。寒い環境にいることで、体が疲労し、いろいろなシグナルが如実に感じるようになった。それにしても喉の渇いた犬よりも、ひどく喘いでいるように聞こえる息だ。


 不快すぎる……。




 足がふらりと動いた。前にすすめたはずなのに、千鳥足のようになり、和正は座り込んだ。


乾いた落ち葉の上だった。おかげで腰元は濡れなくて済み、ほっとした。




 動けそうにない、膝の裏から足にかけてがきゅうきゅうに苦しい。もう動きたくないと抗議の声を上げているようだった。




「何やってるんだ……」




 和正は呟いた。やけくそになったのは確かだ。


感情的になったのも確かだ。


まったくどうしてこうなったのか、誰か教えてくれ……。




 明確な夢を持って生きることに、辛くなったら、自分はどうすればいいのかと。


どうしたらいいのかと……。


 なんだろう、笑えば良いのか泣けば良いのか。


 自分の人生のこれまでは、全部、無駄だったのだろうか。





 深く昏い感情に陥りそうになる。


それはあまりに甘美だと思ってしまった、このまま……堕ちて……





その時だった。前方から、何かが近づく気配がした。


 野生、動物……なのかと思うほどに軽い足取りだった。


なんだと思わず身を強ばらせると……そこに。





「おや、大きな石がころがっているのかと思いましたが、お客様でしたか」





 声は落ち着いていて、懐の深さを感じさせる。


しかしその姿は、少女のような細さと可憐さがある。足下をあげた和服を着ている。





「君は……?」





 赤茶髪の短い髪の女性は、小さく微笑んだ。





「私は花芽はなめ……この近くの宿、月風庵の女中ですよ」





 冷たい夜風が吹く中、花芽の声は朗々と響く。





「もしよろしければ、月風庵へどうぞ……これも何かのご縁でしょう」





 花芽は和正に手を差し出す。その手にホッカイロがのっていた。


その、さりげない気遣いに、和正は……。




「はい……」




 何かに背中を押され誘導されるように、頷いていた。 

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