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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

メイリーちゃんが気付いたこと

作者: 小椋智大

童話チックな話。

 むかしむかしあるところにアンケル村という小さな村がありました。

 

 その村にメイリーという十三歳の女の子が住んでいました。


 彼女には彼女の家族以外誰も知らない秘密がありました。


 それは、彼女が予知能力者であることです。彼女は両親から『決して、自分が予知能力者であることを言ってはいけない』と言われてきたので、彼女は十三年間、自分が予知能力者であることを隠してきました。

 

 アンケル村は平和なところなので、恐ろしい未来を予知することはありませんでした。


 親友のリアナがこけて、膝を擦りむく未来や突風で学校の校舎の屋根の一部が飛んで行ってしまう未来を予知してきましたが、メイリーは何も言わず、リアナが怪我をし、校舎の屋根が吹き飛ぶのをただ傍観者として見てきました。


 予知を誰かに告げることが、自分は『予知能力者』であることを知らせることになるからです。

 

 メイリーはいつしか『どんな未来を予知しても、ただ傍観者として見送る』ことが、自分の守るべきルールとして、胸に刻むようになっていました。


 そんなある日のことです。


 ――メイリーちゃん! いっしょに帰ろう!


 ――リアナちゃん! うん。いっしょに帰ろう!


 ――今日、メイリーちゃんの牧場に遊びに行ってもいい?


 ――うん。いいよ。キャルドンに会いたいんでしょ?


 ――へへ。まあね。

 

 キャルドンというのは、メイリーの家の牧場で飼っている仔牛のことです。


 ――ああ! キャルドンだあ、元気だった?


 ――もお。


 ――かわいいねえ。キャルドン。


 ――もお。


 メイリーは仔牛のキャルドンがリアナの小さな顔を舐める未来を予知しました。当然、メイリーはそのことをリアナには言いません。


 ――もお。ぺろり。


 ――きゃあ、くすぐったいよお。キャルドン。


 リアナは大の牛好きなので、怒るはずもありません。むしろ喜んでいます。


 ――ほんとうにかわいいなあ、キャルドンは。


 そこにメイリーの母のマンマがやって来ました。


 ――あら、リアナちゃん。いらっしゃい。


 ――メイリーちゃんのお母さん。こんにちは。


 ――こんにちは。


 ――キャルドンちゃん。かわいいですね。


 ――ほんとうに、リアナちゃんはキャルドンのことが好きなんだね。


 そんなほほえましい光景の中、メイリーは悪夢のような予知をしてしまった。


 空から一本の槍が降り、それがリアナの頭を貫いてしまいます。ああ、なんと残酷なことでしょうか。キャルドンは彼女の頭から流れる血を舐めています。


 メイリーはそんな残酷な予知をして、顔面蒼白してしまいます。無理もありません。しかし、彼女はリアナに、槍が降って来るから、ここを離れて、とは言いませんでした。


()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()』ことがメイリーの守るべきルールだからです。


 だから、メイリーはぐっと堪えて、槍が降る瞬間を待ちました。


 そして、スパ――


 スパと彼女の頭を貫き、そこから噴水のようにちゅーと血が湧き出ました。


 マンマはきゃーと金属音のような悲鳴を上げました。


 キャルドンはリアナの頭から垂れる血を舐めました。


 メイリーは特に驚いた顔をせずに、この残酷な光景を見ていました。


 ――どうして? あなた、予知できたはずよね?


 すごい剣幕でマンマはメイリーに詰め寄りました。


 ――どんな未来を予知しても、ただ傍観者として見送れと言ったのは、お母さんでしょう?


 ――何を言ってるの?


 ――そっちこそ。


 ――あのね、わたしは『あなたが予知能力者であることを隠しなさい』と言ったまでよ。その予知能力を使って、救える命があるなら、救いなさいよ。なんて、残虐非道なことをするのよ。


 ――残虐非道なことをしたのは、この槍よ。どうして、あたしが怒られないといけないのよ?


 ――救える命を救わなかったからよ!


 ――運命だったのよ! かわいそうだけど、リアナは槍に刺さって、死ぬ運命だったのよ。


 ――なんて、酷い子! もう、うちの子じゃありません。


 マンマは怒り狂い、終いにはメイリーの頬を強く叩きました。そして、牛舎の方に歩いていきました。


 ――どうして? どうして? どうして? どうして?


 メイリーは泣きました。


 ――予知能力さえなければ、予知能力さえなければ。うう。うう。


 スタ。そんな音が聞こえ、メイリーが見ると、マンマの前、すれすれのところに槍が地面に刺さっていました。


 マンマは石化したみたいにしばらく動けず、その槍を見ていましたが、しばらくして、メイリーの方を睨み、またもやすごい剣幕で、


 ――メイリー! どうして? 私まで殺す気?


 ――知らないよ。うぐ。予知してないもの。うぐ。


 ――知らばくってるんじゃないわよ。


 マンマはまたメイリーに詰め寄り、彼女の頬をバシンと叩きました。


 かわいそうなことです。



 翌日、メイリーが学校に行くと、メイリーがリアナを槍で刺したという噂が出回っていました。

 

 ――メイリーサイテー。


 ――この人殺し。


 ――そんなことをする子じゃなかったのに。


 ――メイリーのお母さんも殺そうとしていたみたいだね。


 メイリーは怒りがこみ上げるのを我慢して、やり過ごそうと思いました。


 しかし、悪ガキのネウランがバケツに入った汚い水を彼女に浴びせ、人殺しは排除しないとな、と言ったところで、頭の中でぶちっと何かが切れる音を聞き、叫びました。


 ――私の気持ちも知らないで! 


 彼女の魂の叫びは彼らには入って来ません。


 むしろ、おお怖っ、などと言うばかりです。


 そして、メイリーは未来を予知しました。


 牛、キャルドンです。


 キャルドンが教室の中を暴走し、クラスメートを薙倒していく、という光景です。


 そして、その薙倒される人の中に、メイリー自身も入っていました。


 ドキドキという鼓動の音が彼女の中に響きました。彼女はここから逃げようと思い、教室の外に出ようと思いました。


 その時です。


 ネウランに腕を掴まれ、どこに行くんだよ、と怒鳴られたのです。


 メイリーはすぐに逃げなきゃと思っていましたが、このネウランという大きな図体の男児に腕を掴まれたら、ちょっとやそっとでは逃げられません。


 ――離して


 ――離さねえよ。人殺し。


 ――人殺しなんて、してない。だから、離して。


 ――じゃあ、何で逃げようとしてるん?


 ――殺されるから。


 ――誰に?


 ――キャルドンに。


 ――はあ? 


 ――うちで飼っている仔牛の名前。


 教室には爆笑の渦が巻いていました。ははははははははははと皆声を上げて笑っています。


 ――はははは。そりゃあ、怖い。そりゃあ、怖い。ははははは。


 ――人殺しはやっぱ言うことが違うなあ。

 と誰かが言いました。


 ――お前を殺すのは、リアナの亡霊だ。

 と誰かが言いました。


 ――もお。

 と誰かが言いました。牛の鳴き声です。

 

 ――もおって。もおって。はははは。


 相変わらず馬鹿みたいに笑うのはネウランです。


 メイリーはキャルドンが教室の扉の前に立っているのを認め、それから、生唾を飲み込みました。


 ――あれ? 牛。


 と、誰かが言った瞬間、キャルドンは猛スピードで教室内を走り回りました。


 クラスメートの阿鼻叫喚の中、キャルドンはグルグルと回っています。


 キャルドンに撥ねられた人たちはぎゃふんと情けない声を出し、小さな放物線を描きながら、飛んでいきました。当然、血も噴き出します。


 あまりに多くの人が血を噴き出してしまうので、教室内は赤い霧に満ちていました。


 メイリーは密かに笑っていました。


 なぜなら、自分の予知能力は結局はただ未来を見るだけの能力で、未来を変えることができるわけではないと悟ったからです。


 リアナが死んだのも運命です。正直なところ、彼女を助ければよかったと、メイリー自身気が病むほどに思っていたのです。


 でも、あそこでわたしがどうやって助けようとしても助からなかったのだろうと思えば、心は楽になりました。


 澄み切った青空のような心で、彼女は自らの死を迎えることができていました。


 そして、キャルドンに体当たりされ、メイリーはゴムのようにすぽーんと飛んでいきました。


 ――ほらね、運命だったの。ねえ、お母さん。


 今朝、メイリーが包丁で刺したマンマの顔を思い浮かべ、メイリーは死にました。


 めでたし。めでたし。


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