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めざせ皇太子妃3

国一番の財力と権力を誇るハートランド家の姫が皇太子妃候補になったという噂は、瞬く間に国中に広まった。御歳15才のランセル皇太子と12才のアシュレイの婚約は確定したかのように、国内は祝賀ムード一色だった。ハートランド家にはアシュレイへの祝いの品を持った貴族や豪商達が続々と訪れては、アシュレイに賛辞を贈った。「何と美しくご聡明な姫君でしょう!ランセル殿下と並んで立つお姿を拝見する日が楽しみでなりません」恰幅のいいお腹と立派な髭を揺らして笑うのは、王室御用達の装飾品を扱う商人ギルドの長老。彼は祝いの品にと、見たこともないほど大きく、アシュレイの瞳の色と同じ透明に淡い淡い青の混じったダイヤモンドのネックレスと、それと同じ色をしたイヤリングを献上した。その他にも光沢のあるシルクのドレスや、職人が端正込めて作った調度品が贈られた。


長い列に、終らない来客たちの挨拶に、疲れて顔に張り付けた笑みが引きつりそうになった頃、父の10人いる兄弟の内の、下から二番目の弟で、アシュレイの叔父が前へと進み出た。「久しぶりだね、アシュレイ」叔父は他の人たちと同じような美辞麗句を連ねた後、「あれを持ってきなさい」と後ろに控えていた少年に告げた。一旦下がり、再び戻ってきた少年の腕に抱かれていたのは猫だった。淡褐色の地に濃褐色の斑点柄の小さな猫。乱獲されて絶滅の危機に貧しているレオパード・キャットだった。前世で猫好きだった私は、少年に歩み寄ると、腕を伸ばして猫を抱き上げた。喉を撫でると、ゴロゴロと気持ち良さそうに鳴いた。柔らかく艶やかな毛並みが気持ちいい。うっとりと猫の感触を楽しんでいると


「気に入ったみたいで嬉しいよ、アシュレイ。なかなか市場に流通していないレオパード・キャットを手に入れるのは苦労したが、未来の后妃様のために頑張ったんだよ」


誇らしげに胸を張る叔父の姿に、小説の中の情景を思い出す。


『で、何匹入手したの?』無表情に問うアシュレイ。『え!何匹って…その一匹を見つけるのすら一苦労だったんだよ。アシュレイも知っているだろう?レオパード・キャットは国内に100匹も生存しない希少生物だと』ズボンのポケットからハンカチを出して顔の汗を拭く叔父。『それだけじゃわたくしの体を覆うコートどころか襟巻きにもならないじゃない!10匹。いえ、これだけ小さな山猫だもの、100匹は必要だわ!!』当然と言わんばかりに言い切るアシュレイに、叔父だけじゃなくお父様やお母様も慌てた。


『アシュレイちゃん、100匹分の毛皮を使ってしまうと、レオパード・キャットは絶滅してしまうよ』『それがどうしたの?お父様、お母様。未来の王妃の身を飾るためですもの、数多ある種族の内のたった一種類が滅びるくらい、どうってことないでしょ?』超絶傲慢なアシュレイの我儘によりレオパード・キャットは絶滅した。


と言う、なんとも壮絶な内容だった。そんなアシュレイに滅亡させられるはずの猫が、澄んだ琥珀色の目でこちらを見上げる。か、可愛すぎる!!猫の体に鼻を埋めるようにぎゅうっと抱き締めると「アシュレイ?」叔父は不思議そうな声を出した。この国ではレオパード・キャットをペットとして飼う習慣はなく、毛皮を作るための材料でしかない。けれどわたくし、林美憂。もといアシュレイ・エル・ハートランドは紛うことなき愛猫家として、立派なペットとしてこの子を城に連れていきます!!


「この上なく素晴らしい贈り物をありがとうございます、叔父様。わたくし、この子を城に連れて行き、大切に育てますわ」


胸を張って告げると、叔父は面食らったように驚いた後、、モゴモゴと口籠った。言葉を失う叔父の側に立つ少年が、弾かれたように笑った。「以前から気づいてはいたが、お前は相当な変人だな」アハハと大口を開けて笑うのは、エルナンドとアシュレイの従兄弟で、皇太子のご学友でもあるソルトだった。金と黒の混じった髪をスッキリと短髪に揃えて、緑の瞳をしたソルトは、健康的な小麦色の肌と端正な顔立ち、明るく飾らない性格で、淑女たちに人気らしい。ソルトの明け透けな物言いに「私の可愛らしいアシュレイが、変人だと?」片眉をピクリと動かしたエルナンドが腰に帯同した剣を迷わず抜き、ソルトの首に突きつけた。


「相変わらず変態的なシスコンっぶりだな、エルナンド」喉元に剣を突きつけられているにも関わらず、涼しい顔で毒を吐くソルト。対するエルナンドお兄様は「変態…この私が変態だと?」かなりの打撃を受けたらしく、青ざめた顔でプルプルと震えている。エルナンドが震える度に、剣の切先がソルトの喉をざっくりと傷つけてしまいそうで、私は慌ててエルナンドの腕を掴んで、その剣の切先を下に向けた。「エル、誰が何と言おうと、わたくしは優しいエルナンドお兄様が大好きですわ」潤んだ瞳で可愛らしく見上げると、エルナンドは「そうだね、アーシュ。こんな粗野な筋肉バカの言葉など、気にする価値もない」そう言って、公衆の面前であるにも関わらず、、私の髪をひと房手に取り、恭しく口付けた。

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