忘れていました、わたくしの特技1
わたくし、羞恥プレイが趣味ではなければ、複数人でのプレイも好きではありませんわ!
このままではドSのツートップに骨の髄まで食べられてしまう。身の危険を察知して、ゼヌスの膝の上で、真っ青な顔でジタバタと抵抗していると、視界に鮮やかな青が飛び込んできた。
「丁度良いところにいらしたわ、セイレーンさん。貴方の封印魔法で、学園にかけたゼヌスの魔法を封じてくださらないかしら?」
救いの女神到来!とばかりに、ギリギリ精一杯、貴族令嬢として見苦しくない程度に、けれど心のそこから訴える。
『助けて!』と。
するとセイレーンは、前と後ろにドSイケメンを侍らせた私を見て、『理解できない』と言うように首をかしげた。
「今朝から学園内の雰囲気がおかしいとは感じていましたが、ゼヌスさんの魔力の影響でしたか。
けれどアシュレイさん、わざわざわたくしがゼヌスさんの魔法に上書きするように封印魔法をかけなくても、
アシュレイさんの無効化の魔法で、綺麗さっぱり『無』にしてしまった方が早い、且つ、安全なんじゃないですか?」
封印魔法だと、ゼヌスさんに封印を破られたら終わりですし…と続けるセイレーンに、頭を殴られたような衝撃をうける。
そうだ!私、無効化の魔法が使えるんだった!
こんな大事なこと、なんで忘れてたかなー?
等と思っていると、ゼヌスの舌打ちが聞こえた。
「ちっ、セイレーンめ、余計なことを言いやがって」
その言葉に、自分の体内に微かに残る、ゼヌスがかけた忘却魔法の残り香を感じた。この男、わたくしの記憶をいじったわね。
ゼヌスとは従属契約を結んでいるが、ゼヌスが私に一切触れられない。と言うものではなく、主の命令に背かない、主の事を傷つけない。主を殺さない。という条件下であれば触れることも、魔法をかけることも可能だ。
そうと分かれば、善は急げだ。まずはゼヌスに命じる。
「わたくしを、あなたの膝の上から下ろしなさい」
無効化の魔法を発動する前に、ゼヌスから離れておかなくては、魔法が溶けて正気に戻ったお兄様に、とんでもないお仕置きをされてしまう。ゼヌスとエルナンドお兄様の世界を二つに分けるほどの壮絶な戦いが勃発するかもしれない。
そんな世界が破滅に向かうような、恐ろしいきっかけを作るわけにはいかない。
『命令』されたゼヌスは「仕方ないな」と呟きながら、私を膝から下ろした。
両足を地面に着け、手を胸に置いて魔導の流れを探知する。学園内に蜘蛛の糸のように張り巡らせているゼヌスの魔力の欠片も残すこと無く、丁寧に私の魔力で覆い尽くす。
「消えなさい!」
音もなく、ゼヌスがかけた魔法が消滅する。
「流石、我が認めた娘だ。本気で手に入れたくなった。絶対に逃がさぬぞ」
魔力を発揮することに意識を集中していた私には、ゼヌスの言葉は聞こえなかった。




