破壊と創造の神ゼヌス6
ランセル王子とエルナンドお兄様のどちらが私と昼食を食べるか。その事で言い争う中、私をお姫様抱っこしたまま食堂に向けて歩き出したゼヌスが、2人に背を向けた。
その時、
「どのような理由であれ、人前で感情をむき出しにして言い争うなど、王太子殿下としての威厳に差し障るのでお止めください。と何度も進言しましたよね」
ランセル王子の後ろに控えていたソルトが動いた。
「そもそも殿下の愛らしい花の顔は、見慣れぬ者達には刺激が強すぎて目の毒です。むやみやたらと下級生の教室には向かわぬようにと、何度もお願いしましたよね」
コツコツと足音を鳴らしながらランセル王子の目の前に立ったソルトは、王子の顎を指で摘まむと、自身の視線に合わせるようにクイッと上向かせた。
出ました!顎クイ!
「四六時中、無駄に可憐でかわいらしすぎる貴方の護衛をしなければならない私の苦労など、貴方には分からないのでしょう?」
顎クイからの、鼻と鼻が触れ合うほどに顔を近づけるソルト。
「何度言葉でお願いしても、ふらふらと歩き回るお転婆な王子様は、縛り付けて部屋から出られないように自由を奪って差し上げましょうか?」
顔を固定されて、目を反らすことが出来ないランセル王子は、ソルトの視線から逃げられない。
悔しさで目が潤むランセル王子は、抵抗しようと腕を振り上げて自分の顎を掴むソルトの手を振り払おうとした。
「無駄ですよ」
けれど黒い笑みを浮かべるソルトに、ランセル王子が振り上げた手は難なく捕まえられた。
「力で、貴方は私に勝てません。諦めてください」
勝ち誇ったように告げたソルトが、どこから取り出したのか、麻縄でくるくるとランセル王子を縛り付けるとお姫様抱っこをして何処かに連れ去った。
ソルト…仮にも王太子殿下であるランセル様を縄で縛るなどと、不敬が過ぎるのでは?
心の片隅に住む常識が、訴えなくもなかったが。
それどころじゃない。ソルトがランセル王子を監禁して、アレや、ソレなお仕置きをする。
見たいに決まっているじゃないですか!
興奮で鼻血が吹き出そうな鼻を押さえて、心の声を絞り出す。
「ゼヌス、止まって」
興奮して身震いしたため、声が若干震えてしまった。
「どうした、そのように震えて?私に抱かれて恥ずかしいのか?」
初心なアシュレイも可愛いな。などとご機嫌なゼヌス。そんな私たちの横に並んで歩き出すエルナンドお兄様は、今にも鼻歌を歌いそうなほどにご機嫌だ。
「邪魔物はいなくなった、ゆっくりと昼食を楽しもう、アーシュ」
相変わらず、私がゼヌスに身を委ねていることには言及しないお兄様に違和感が募る。
そうだ。ランセル王子とソルトのファブュラスでファンタスティックでスイートな目眩く監禁・調教プレイを妄想して武者震いしている場合ではないわ。
今は、ゼヌスが作り上げた異常な世界を元に戻さなければ。しっかりするのよ、アシュレイ・エル・ハートランド!




