破壊と創造の神ゼヌス3
「心配だよ。アーシュの様に純粋培養で育った無垢な魂が、穢れた魔法使いの視界に入ることすら堪えがたいのに。よりによって魔法使いがアーシュと同じクラスだなんて!
国王陛下のご意志とは言え、易々と権力に屈してしまったお兄様を許しておくれ、アーシュ」
教室の前まで送り届けてくれたエルナンドお兄様が、眉根を下げて懇願するようにわたくしの両手を握った。
相変わらず過保護で、妹溺愛フィルターがかかったお兄様の言葉に、申し訳なさが先立つ。
お兄様とゼヌスの絡みを妄想して悶絶するような、俗世に染まりきった、穢れた妹でごめんなさい。もうこれ以上、穢れ様がないほどに、貴方の妹は煩悩の塊です。
誤魔化すようにお兄様に向けてはにかむように微笑むと、お兄様は身を震わせて悶絶した。
「ああ、アーシュ。今日も光の妖精のように輝いてるよ。そして光の妖精の何百倍も可愛い。美の女神が嫉妬すら放棄するほどに圧倒的な美しさと可愛さが炸裂している。
どうしてアーシュはこんなにも可愛くて、可愛くて、可愛くて、可愛いんだ。一時も離れたくない。アーシュを閉じ込めて、私だけのために生きて欲しい!」
お兄様が、妹への熱烈な愛ゆえにヤンデレ化しそうになったところで、ゼヌスが私の手を引いて教室の中に入ってドアを閉めた。
「ア、アーシュ!」
無惨に閉められたドアの向こうから、悲痛なエルナンドお兄様の声が聞こえる。
「そなたの兄は面倒な性格をしているな」
ドアに目を向けたゼヌスが、呆れたように呟いた。
一時限目、フェルナルド先生が今日から編入するゼヌスのことを紹介した。珍しい紫の髪と赤い目に、クラスメート達は探るような視線をゼヌスに向ける。ゼヌスは周囲に気取られないほどに一瞬、めんどくさそうに顔をしかめた後、屈託なく笑った。
14歳の少年らしい無垢な笑みに、毒気を抜かれたのか、クラスメート達はあっさりとゼヌスを受け入れた。意外と世渡り上手なゼヌスに、私もほっとする。ゼヌスは思ったよりも空気が読める人らしい。
滞りなく午前の授業が終わった時、エルナンドお兄様が教室にやって来た。美しいエルナンドお兄様の姿に、同じクラスの女子生徒達が頬を赤く染める。
そんな女子生徒達の視線が、一斉にエルナンドお兄様の後ろへと注がれた。そこには花も恥じらうお姫様なランセル王子が、ソルトと共に立っていた。
頬はピンク色に染まり、よく見ると呼吸が乱れて肩が上下している。可憐さといじらしさが入り交じる、可愛いがだだ漏れのランセル王子に、教室内の女子生徒のみならず男子生徒までもが頬を染める。
畏るべし、ランセル殿下!
可憐な花を撒き散らすランセル姫は、不機嫌そうに唇を尖らせてエルナンドお兄様を睨んだ。
「アシュレイ姫は体調を崩したために今日は欠席。明日から登校だと聞いていたけど、騙したね、エルナンド!今日から登校するって知ってたら、ハートランドの屋敷まで迎えに行き、共に登校したのに!」
拗ねるランセル王子の目尻には、悔しさで涙が滲んでいる。そんなランセル王子の姿に、教室内外から「ランセル殿下しか勝たん」「保護したい」などと声がする。当然その中には野太い男子生徒の声も入り交じる。




