破壊と創造の神ゼヌス2
差しのべられたゼヌスの手に手を添えることも出来ず、誤魔化すように目の前の破壊と創造の神に告げる。
「けれど貴方はわたくしの執事。と言う名目で学園に来るのよね。それでは矛盾が生じるのではない?」
穏やかーで、淑やかーで、儚げーな、笑みを湛えつつゼヌスを見上げる。
見た目は美少女でも、中身はただの平民凡人。だからこそ分かる。アシュレイの高貴な美貌を最大限に魅せる最高にあざとい表情が!!
どうですか?絶世の美少女の破壊力は!
心の内の腹黒い泥を完璧に隠して、きゅるきゅるした瞳でじーっとゼヌスを見つめると、
「くっ、可愛すぎる!私を殺しにかかっているね。そんな顔を見せられたら死んでしまうよ。瞬殺だよ、アーシュ」
隣に座るエルナンドお兄様が、流れ弾に当たったかのように、胸を押さえて踞った。
お兄様、14年間共に過ごしているのです。そろそろ妹の愛らしさに慣れましょう。お兄様のことは大好きですが、流石に呆れてしまいますわ。
「ふっ、その穢れなき瞳が苦しみと痛みと快楽で染まる様を見るのも一興。早く大人になれよ、アシュレイ」
伸ばしたゼヌスの指先が、私の頬に触れる。その指をエルナンドお兄様が払い落とした。
「穢れた手でアーシュに触れるな!そもそも、賢くて、可愛くて、可愛くて、可愛くて、可愛くて、可愛い、アーシュの言う通りだ。
お前は執事としてアーシュに仕えるんだ。お前の出自を誤魔化すために、国王陛下も父上も奔走してくださった。今更、シナリオ変更は出来ない」
さっきまで恋する乙女のように頬を染めて見悶えていたお兄様が、ブリザードを自在に操る氷竜のごとく凍えた瞳でゼヌスを睨む。
相反して、ゼヌスは不適な笑みを湛えた。
「ふむ、エルナンド。その綺麗な顔が苦痛に歪み、髪を振り乱して泣きながら許しを乞う姿を堪能するのも悪くない。今宵、我が寝室に来い。存分に愛でてやる」
エルナンドお兄様に払い落とされた手を、今度はエルナンドお兄様自身に向けて伸ばす。ゼヌスの親指が、エロくエルナンドお兄様の唇を撫でた。
唇に触れることを許してしまったお兄様の顔が屈辱で歪む。
良い仕事っぷりよ、ゼヌス。美しい男二人の絡み。前世、腐女子街道まっしぐらで、穢れに穢れまくっていた私には、最高のイベント発生だわ!
しかもこんな至近距離。アリーナ席なんか比べ物になら無いくらいの特等席で。なんて尊いエロス…
眩しすぎて、興奮して目眩がするわ。
是非とも今夜ゼヌスの寝室で開催されるエロス祭りにも招待してください。決して邪魔はいたしませんわ。おほほほほ。
脳内で高笑いを上げながら、完璧な淑女の皮を被る。そして脱線しかけた話を元に戻すように問う。
「結局、学園には執事として、他国の王族として。どちらの立場で入学するの?」
学園の門を潜る前に、ゼヌスの立ち位置をはっきりさせなけば、彼に対する対応に困るわ。
するとゼヌスは「執事として紹介しろ」と言いきった。
「女と言うものは劇場で演じるラブロマンスのような、恋愛小説のような、そんな恋に憧れるのだろう?ならば私とアシュレイも、劇的に燃え上がる恋を演出しようじゃないか。
シナリオはこうだ。とある島国の王子が海外視察のために船に乗り海を航る。その航海の途中に嵐に合い、船は転覆。王子は海に投げ出される。波に流されて漂流し、辿り着いた砂浜で、アシュレイに助けられる。
だが王子は記憶を失っていて、自分が誰か分からない。アシュレイは私を保護し、執事として側に置く。
月日が流れ、王子は記憶を取り戻す。それと同じ頃、島国から使者がやってくる。王子は彼を助けた美しい令嬢アシュレイと共に国に戻り、彼女を娶る
シナリオはざっとこんな感じだ。簡潔にまとめたが、若い娘が好きそうな、なかなかに良くできた物語だろ?」
得意気に胸を張るゼヌス。
ゼヌス、貴方。どエロな淫魔の割には、乙女な話が好きなのね。
「貴様にアーシュはやらん!」
執事な王子ゼヌスが私と結婚するエンディングを、エルナンドお兄様が全力で否定しながら、馬車は学園の門に辿り着いた。
今後の流れは未定ながら、一先ずゼヌスはわたくしの執事として入学することで意見は纏まった。




